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獣の王は花嫁にもう一度恋をする  作者: けもこ


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第24話 花嫁のいない革命②

ビアンカの残した書簡は、王都へ運ばれた。


ジェラルドの山荘からは、獣人の売買記録、剥製の注文書、支援した貴族たちがわかる証拠がさらに大量に押収された。


地下室で見つかった獣人の遺体には、一人ずつ名前がつけられ、名を奪われ、物として売られた者たちが、ようやく人として記録された。


王太子にトカゲの尻尾のように切り捨てられそうになったジェラルドは、すべてを明るみにする代わりに、今度は王国軍と政治家たちに取引を持ち掛けた。


裁判で証言をする代わりに、自分の命を守って欲しい、というものだった。


ジェラルドから得られた証言は、国の中枢がいかに腐っていたか、を明るみにした。


王太子側近の侯爵家


軍の上層部


地方の上級行政官


教会の上位司祭たち


名が挙がるたび、誰かが捕らえられた。


王太子はすべての関与を否定した。


だが、署名のある書簡と証言を覆すことはできなかった。


王太子は廃嫡された。


王は病を理由に公務から退き、王権の多くが臨時評議会へ移された。


評議会には、貴族だけではなく、商人、農民、教会関係者、そして獣人の代表が招かれた。


初めは、象徴としての席だった。


発言権も限られていた。


それでも、それまで議事堂へ入ることすら許されなかった獣人が、初めて国の未来について意見を述べた。


一つの町で、獣人の子どもが人間と同じ学校へ通うことを認められた。


別の町では、獣人という理由だけで裁判の証言を退けることが禁じられた。


獣人に対する私的な売買が、正式に重罪と定められた。


少しずつ。本当に、少しずつ、国は変わっていった。


季節が三度巡った。


かつて王宮の貴族だけで埋められていた議事堂に、狼獣人の男が立っていた。


胸には議員章。


傍聴席には人と獣人が並び、その宣誓を見守っている。


「私は、すべての民のために――」


震える声で宣誓が読み上げられる。


初めはためらいがちに、まばらな拍手だった。


しかし、次第にその拍手はうねりを増す波となって膨れ上がり、議事堂全体を揺らすほど大きく響いた。


その日、獣人が正式な議員として、初めて国の議会に加わった。


議事堂の外にも、多くの者が集まっていた。


泣いている者。


抱き合う者。


黒牙の群れの名を叫ぶ者。


白銀狼の花嫁が持ち出した証拠が、この日を作ったのだと語る者。


だが、その群衆の中にロイドはいなかった。


彼は遠く離れた川辺に立っていた。


あの日から何度目になるかわからない場所。


冷たい風が黒い髪を揺らす。


手には、古びた人相書きが握られている。


ー白銀狼の女。

ー青い瞳。

ー尾は失われている可能性がある。

ー名前は、ビアンカ・ウォルフガング。

ー見つけた者には相応の礼をする。


紙の端は擦り切れ、何度も濡れて、文字が滲んでいた。


「獣人が議会に入ったそうだ」


背後からグルドが声をかけた。


ロイドは川を見たまま答えない。


「おまえとビアンカが望んでいた国に、少しは近づいたよな」


川の音だけが流れていく。


「主」


グルドは言葉を探した。


「ビアンカなら、きっと喜ぶ」


ロイドの指が、人相書きを優しく撫でる。


「だったら」


長い沈黙のあと、声が落ちる。


「だったら、どうして帰ってこない」


グルドは答えられなかった。


ロイドは空を見上げた。


夕暮れの雲が、白銀色に染まっている。


国は変わり、多くの者が救われた。


奪われた名が戻り、閉ざされていた扉が開き、獣人が自分たちの言葉で未来を語れるようになった。


それでも、ロイドの世界は、あの朝から何一つ変わっていなかった。


「ヴィー」


呼びかけに返事はない。


遠吠えも返ってこない。


自分の望みは、彼女が幸せに生きられる世界だった。


彼女のいない世界に、なんの意味があるのだろう。


ロイドはまた、人相書きを抱えて歩き始めた。


ビアンカがいない国で。


ビアンカが望んだ未来だけが、静かに形になっていった。

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