↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣の王は花嫁にもう一度恋をする  作者: けもこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/26

第20話 渓谷に消えた花嫁②

※毎週月曜日更新(予定)

◇◇◇


どれほど時間が経ったのかわからない。


気づけば、ビアンカは作業部屋の隅に転がされていた。

止血の時に使われた麻酔で朦朧としている。


手首の拘束はそのまま。

足首の鉄具も外されていない。


だが、見張りは二人に減っていた。


ジェラルドは隣室にいて、低い声で誰かと話していた。


「……王都へ行くのは危険です」


「仕方ない。一度、国境を越えるしかないだろうな」


「ですが、マグラス伯爵もラドクリフ公爵も捕まったという噂が」


「そもそも、あんな奴らはアテになどしていない」


ジェラルドの声には苛立ちが混じっている。


「帳簿が盗まれた程度で、潰れる奴らはしょせん小物だ」


「しかし、では、どこに助けを」


「そのためにこれがあるんじゃないか」


愉快そうな音を含んだジェラルドの声とともに、羊皮紙に触れる音と甘い香水の匂いが流れてくる。


「これは....王太子の手紙」


「だからこそ、ここまで黒狼王に来てもらわねばな。今、王家も崖っぷちだ。あの獣を反逆者にすれば、すべてひっくり返せる」


ビアンカはゆっくりと頭を振って意識をはっきりとさせた。


隣室の机の上に、国を揺るがす、獣人の権利に繋がる決定的な証拠がある。


新しい羊皮紙にかかれた手紙。

王家の封蝋。

あの王太子付きの香水瓶と同じ、甘い匂い。


王家が獣人の誘拐に関わっていた証拠。


彼らが今、誰に助けを求め、誰に守られ、誰を切り捨てようとしているのか。

その証拠が、すぐそこにある。


ビアンカは体を動かした。


外から呼ばれ、見張りの内の一人が出て行く。

もう一人は、船を漕いでいた。

彼らは、尾を奪ったことでビアンカの心が折れたと思っている。


馬鹿ね。


痛いし、怖いし、泣きたい。

自分がロイドの足枷になったらと思うと、どうしようも無い気持ちが湧き出てくる。


でも、それと、折れることは別だ。


ビアンカは壁に背を預けたまま、ゆっくりと呼吸を整えた。


壁には薬品棚がある。

床には水差し。

長台の上には布。

壁際に小さな刃物。

見張りは眠気で呼吸が重い。


ビアンカは、足先で床の布を引き寄せた。

布は私の傷口を拭った物だろう。おびただしい血がついている。


布の端に、小さな金具が絡んでいた。薬品瓶を留めるための留め具だ。薄いが、尖っている。

彼らの雑な処理に感謝しなくては。


それを足の指で挟む。


痛みで汗が滲む。

腰の傷が引き攣れている。


身体を横に倒し、見張りにわざと弱々しい声をかけた。


「……水を」


男が顔を上げる。


「何?」


「水を、少しでいいから」


男は面倒そうに舌打ちした。


「仕方ねぇな。死なせるなって言われてるからな」


男が水差しを持って近づいてきた。


一歩。

二歩。


ビアンカは俯いたまま、足先の金具を手首へ滑らせた。


男が膝をついた。


「ほら、飲め」


その瞬間、ビアンカは水差しを頭突きで跳ね上げた。


水が男の顔にかかる。


同時に、手首の留め革が切れた。


両方を切ることはできなかったが、片手だけで十分だ。


ビアンカは倒れ込むように男の喉元へ肩を打ちつけ、膝で腹を蹴った。男が呻く。

床に倒れた男の腰から鍵束を奪う。


鍵で足枷を外す前に、男を倒した勢いで、ビアンカは薬品棚へ身体をぶつけた。


瓶が落ちる。


割れる音。

鼻を焼く刺激臭。

白い煙。


「何だ!」


隣室からジェラルドたちが叫びながら入って来る。


ビアンカは咳き込みながら、長台の上の布を掴んだ。

口元を抑えながら、奪った鍵で足枷を外す。


合わない。

合わない。

三つ目。


外れた。


足首が自由になった瞬間、ビアンカは隣室へ飛び込んだ。


ジェラルドが振り返る。


机の上には、羊皮紙が広がっていた。


封蝋つきの黒い封筒。

王太子付き侍従長室の印。

差出人は――王太子アルフォンス・サルヴィア


――地下室の品を焼却せよ

――保護対象の残りは早急に処分

――黒狼王を反逆者として立てよ


吐き気がした。


けれど、手は迷わなかった。


ビアンカは机の上の書簡を掴み、胸元の内布へねじ込んだ。


「ビアンカ!」


ジェラルドが追ってくる。


ビアンカは机の燭台を払い落とした。

火が絨毯に移る。

煙が上がる。


「この女!」


誰かが背後から掴みかかる。

ビアンカは肘を入れ、低く身を抜いた。


証拠を持ち出すために逃げなくては。

そして、掴まって足かせとならないために。


ロイドへ。

ヨナスへ。

ロベルトへ。

死者たちの名前を取り戻すために。


山荘の廊下を走る。


背中が痛む。

足がもつれる。

視界が揺れる。


それでも、走った。


広間へ出ると、壁に飾られた猟銃が目に入った。ビアンカはそれを掴まず、下に掛けてあった革筒を取った。猟師が地図や許可証を入れるためのものだ。


胸元の書簡を革筒へ押し込み、蓋を閉める。


追っ手の足音が追いかけてくる。


ビアンカは暖炉横の小扉を蹴り開けた。


冷たい夜気。

薪小屋。

崖沿いの作業道。


渓谷の音が、すぐ近くで鳴っていた。

もし、このお話を好きだ!と思ったらイイねやブックマークを!

気になる、気に入ったと思ったらコメントや評価☆☆☆☆☆,をお願いします。

定期更新を心がけてます。ぜひブックマークを!大変喜びます♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。