10-3
「な、なんでそこでセレナが出てくるんだ?」
「だって、新婚さんに水をさしちゃいけないもん」
そういう理由か。
「そんなの気にするな。俺とセレナの結婚は単に幼馴染の延長みたいなもんだから。ルンとアサギさんも言ってたろ。結婚っていっても仲良しの延長で――」
「違うよ」
クラリーチェが否定した。
俺をうろたえさせるほど真剣な口調で。
クラリーチェはまっすぐに俺を見据えている。「逃げるな」と言わんばかりに。
「結婚は結婚だよ。セレナちゃんは嫌なことはぜったいやらない性格だもん。『ゲームだから』って言い訳してるけど、本心ではトキヤくんと結婚できるのをよろこんでるよ」
クラリーチェの目じりがきらりと光った。
そしてそこから一滴の涙があふれ、頬を伝って滑り落ちた。
クラリーチェが泣いている。
幼馴染を泣かせてまでするほど結婚ごっこは大事なのか?
「……結婚、やっぱりやめにしよう」
「そんな! ダメだよ!」
「俺にとっては結婚ごっこよりクラリーチェのほうが大事だ。セレナだってそう言うに決まってる」
「トキヤくん……」
クラリーチェがくるりと回って俺に背を向ける。
服の袖でごしごしと顔を拭う。
それから振り返った彼女は、いつもの笑顔を俺に見せた。
「はいっ。これでどう? わたし、笑顔だよっ」
「クラリーチェ……」
「トキヤくんとセレナちゃんが結婚したって、わたしたちが仲良しの幼馴染なのはかわらないよ。そうだよねっ?」
その問いかけは『願い』に近かった。
俺もそうありたいと願っていた。
だからうなずくしなかなかった。
「お料理のスキルってどうやっておぼえるんだろう?」
「えっ?」
「さっきの話の続きだよー」
「……えーと、スキル習得のクエストをクリアすればよかったはずだ」
「じゃあ、そのときはトキヤくんにも手伝ってもらうね」
クラリーチェは手すりから離れてバルコニーの入り口に行く。
「なんだかわたし、眠くなってきちゃった。おやすみっ」
俺の返事も待たずバルコニーから去ってしまった。
夜の静寂が舞い戻る。
それから俺はがっくりとうなだれて大きなため息をついた。
……ダメダメだな、俺ってば。
幼馴染の関係。
結婚。
友情。
こんがらがったそれらをなに一つほどかせることができなかった。
こんな調子で本当に結婚していいのだろうか。
今回の『結婚』は『男女の幼馴染』という危うく振れる秤を激しく揺さぶるものだった。
俺たちに結婚なんてやはりまだ早いのか。
幼馴染の友情が崩れてしまうなんて嫌だ。
「……セレナ?」
誰かの気配がして振り返ると、廊下の角にセレナの背中が一瞬だけ見えた。
翌日はちっとも冒険に身が入らなかった。
経験値稼ぎのために以前訪れた『ラテリアの丘』に再び赴いた俺たちは、採集クエストに必要な採集アイテムを拾いつつ、出くわした魔物を倒していた。俺は戦闘では役に立たないためもっぱらアイテム採集をしていた。
「ちょっ、トキヤ! あんたそこ崖っぷち!」
「……? おわっ!?」
下を向いてアイテムを拾いながら歩いていたせいで、気が付けば崖から落ちる寸前のところに俺はいた。
うわの空の調子で日々は過ぎていき、ついに結婚式当日になった。




