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19-15

「ハラハラドキドキの冒険だったんですねっ」


 ココは興奮冷めやらぬようすでそう言った。

 それからこう提案してきた。


「お兄ちゃん。このお話、小説にしたらどうですか?」

「しょっ、小説!?」

「セレナさん、言ってましたよね。お兄ちゃん、昔は小説を書いていたって。確か題名は漆黒の――」

「ま、待て! その話はやめてくれ……」


 それは俺の消し去りたい過去だ……。

 この話題を掘り下げられる前に退散しよう。


「それじゃあ、俺は帰るから……」

「えっ」


 それを聞いてココが目を丸くする。


「もう帰るんですか?」


 俺の服の裾をちょこんとつまんでくる。


「夜になっちゃったからな」


 壁に掛けてある時計は、普段ならもう眠りにつく時刻を示していた。

 それでもココは俺の服をつまんだまま離さない。


「――ってください」

「え?」


 ココが小声で何か言った。

 それから声を大きくしてもう一度こう言った。


「泊っていってくださいっ」


 な、なんだって!?

 まさかの展開に俺は仰天した。

 女の子の家に泊まるのはさすがにまずい!

 見たところ、ベッドは一つしかないし!


「今ならガチャ100連無料です!」


 ソシャゲの広告か!


「お兄ちゃん、今夜は私の家に泊まってください。ガチャ100連、無料でしてもいいですから……」

「ココ……」

「そもそもお兄ちゃんのせいなんですよ」


 俺のせい?


「お兄ちゃんと仲良しになったから、一人でいるときに『さみしい』って気持ちになっちゃったんです」


 ……そうだよな。

 こんな小さな女の子が一人きりなんて、さみしいに決まってる。

 ココは上目遣いで俺のことを見つめている。

 まんまるの二つの瞳をうるませて。

 俺はしばし考えた後、彼女の頭をなでた。


「今夜だけだぞ」

「はいっ」


 ココは満面の笑顔になった。

 商売をするときの笑みとは違う、年相応の無邪気な笑顔だった。


「じゃあさっそく、ガチャガチャ持ってきますね」

「い、いや、ガチャ100連は別にいいから……」

「あ、そうですか。なら紅茶温めなおします」


 それから紅茶とお菓子を食べた俺たちは明かりを消して眠りについた。

 さすがに同じベッドで寝るわけにはいかなかったので、俺はココから借りたカーディガンを羽織ってイスで寝た。ココは「どうしてベッドで寝ないんですか?」と不思議そうにしていた。「私がイスで寝ますから、お兄ちゃんはベッドを使ってください」と言われても俺はかたくなに断った。年下の女の子をイスで眠らせるわけにはいかない。


「お兄ちゃん、まだ起きてます?」


 暗がりの中で聞こえてくるココの声。


「起きてるよ」

「なにかお話ししませんか?」

「今日はもうたくさん話したじゃないか。ココは道具屋の仕事で朝早いんだろ? もう寝なくちゃ」

「そうですね。おやすみなさい、お兄ちゃん」


 それきりで俺たちの会話は終わった。

 夜の静寂が訪れる。

 俺はテーブルに頬杖をついて、ベッドで目を閉じるココを見つめていた。

 かわいいな。

 本当の妹みたいだ。

 つい笑みがこぼれてしまう。

 やがてココの静かな寝息が耳に届いてくる。

 どうやら最初に眠ったのはココらしかった。

 俺もいい加減、寝よう。



 翌朝。


「お兄ちゃん、起きてください」


 ココに背中を揺すられて俺は目を覚ました。


「あれ、もう朝か……いててて」


 最初に寝たのはココで、最初に起きたのもココだった。

 テーブルに伏せていた上体を起こそうとしたら身体が軋んだ。やっぱりイスで寝るのはつらいか。

 朝日がまぶしく、目を細めながら壁の時計を見る。

 げっ、もうみんな起きてる時間じゃないか。


「おはようございます、お兄ちゃん。はいっ、朝ごはんです」


 ココが俺の前に皿を差し出す。

 皿の上にはサンドイッチが載っていた。

 そしてそばにはコーヒーの入ったマグカップも。

 俺とココはいっしょに朝食を食べて、それから階下の道具屋に降りた。


「ココのサンドイッチ、おいしかったな」

「ならよかったですっ。はいっ、これどうぞ」


 ココがカウンターの下からバスケットを取り出して俺に渡した。

 開けると、中にはサンドイッチがたくさん詰まっていた。


「今日も冒険、がんばってくださいね、お兄ちゃんっ」

【あとがき】

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