19-14
ココは店の入り口の前に立っていて、きょろきょろと周りを見回していた。
そして俺に気付くと、元気よく手を挙げた。
「トキヤさーんっ」
ココから俺のほうに駆け寄ってくる。
それからまた周囲を見る。俺が一人で来たのを確認すると、彼女はこう言い直した。
「お兄ちゃん」
ほっぺたをほんのり赤く染めて、恥じらいながら、ささやいた。
お兄ちゃん、か。
なんだかくすぐったいな。
「無事に帰ってきたんですね、お兄ちゃん。私、心配してました」
「写真とメール送ったじゃないか」
「そうですけど、やっぱり実際に会わないと……」
するとココは俺の胸に寄り添ってきた。
ドキリとしてしまう。
彼女の体温が直に伝わってくる。
しなだれかかる彼女はうっとりと目を細めていた。
「えへへ……。お兄ちゃんに甘えちゃいます」
今が日の沈んだ時間でよかった。
明るかったら他のプレイヤーに思いっきり見られてしまうから。
いや、それでもやっぱり恥ずかしい……。うれしいけれど。
「ココ、もうじゅうぶんだろ?」
俺はなるべくやさしくココを離した。
ココはすなおに離れてくれたが、表情がどこか名残惜しげだった。
「お兄ちゃん。冒険のお話、私に聞かせてください」
そうせがんでくる。
「いいけど、もう寒いからまた今度にしないか」
「あっ、それなら私の家に来てくださいっ」
「ココの家にか!?」
「どうして驚くんですか?」
他意はないとはいえ、女の子の家に行くというのは……。
純粋なココはきょとんとしている。
10代前半の年齢だからそれも仕方ないか。
それから彼女は俺の手首をつかんでひっぱった。
「さあ、行きましょう、お兄ちゃん」
そういうわけで俺はココの家に招かれたのであった。
ココの家は道具屋の二階部分だった。
彼女の部屋は質素だったが、よく整理整頓されてきれいだった。
クラリーチェの部屋はカーテンやカーペットがピンク色の暖色系で、ぬいぐるみがたくさん置いてあったから、女の子の部屋はみんなそんな感じなのかと思っていた。どうやらそうでもないらしい。
部屋の中心にはテーブル。隅にはベッド。
俺はテーブルに着く。
うーん、どうにも落ち着かない……。
なんというか、むずかゆい。
ひとまわり年下とはいえ、女の子の部屋に招待されるというのはやはり緊張する。
ココは熱を生み出す魔法の台の上でお湯を温めだした。
だんだんと広がってくる紅茶の香り。
それが沸く間に彼女はお菓子を持ってきた。お湯が沸くと、ポットからカップに紅茶を注いだ。
お茶とお菓子がそろうと、ココは俺の隣に座った。
「準備できましたっ。お兄ちゃん。冒険のお話、聞かせてくださいっ」
俺は今回のフロストドラゴン討伐クエストをココに話し聞かせた。
セレナやクラリーチェと雪で遊んだ場面では「楽しそうですねぇ」と微笑んでいて、ドラゴニュートに捕まったところになると「ひえっ」と驚き、彼らのリーダーとの決闘に勝利したところになると「すごいですっ」と声を弾ませ、フロストドレイクとフロストドラゴンとの戦いの場面に入ると、固唾をのんで俺の話に真剣に聞き入っていた。俺もつい熱が入って、本を読み聞かせるかのように大仰にその場面を語った。
システィーナさんのお父さんのお墓の場面まで話し終えたころには、紅茶はすっかり冷めてしまっていた。




