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9日目

「何が起こったんですか?詳しく聞かせて下さい」


 私は崩壊が始まったと聞いて魔法で映し出されている記憶の賢者に問い質す。


『説明したいのは山々なんだが、こっちはそれどころじゃない。真理の賢者が殺され、我も襲われギリギリ他の賢者の助けられた。今も襲われていて助けが必要だ。急いで指定の場所に来て欲しい』


 記憶の賢者の映像の横に地図のようなものが表示され、そこに光る点が打たれる。


「その場所なら分かるな。そこへ行けばいいのか?」


『そうだ、ただし敵も大勢いる。戦力は多ければ多い程いい』


「敵って何なんですか?」


『それは……すまない、時間切れだ。待ってるぞ』


 私の質問に答える前に映像が消えてしまった。間を置かず“ピピピッピピピッ”と何かが鳴る。ササトが反応し、腕に付けた何かの装置を触った。


『ササト様大変です、謎の敵からの攻撃を受けています』


「どういう事?デオ族や凶獣では無いの?」


『それが、機械の兵士らしくて。映像を送ります』


 ササトは腕の機械で女性と会話している。そしてササトが腕の機械から映像を壁に映し出した。


「これは、自動防衛装置?でも、形が違うわね」


「基本の設計は同じに見えるね」

「こちらの情報を盗んだ誰かが改良したみたいだね」


 双子が画像から推測で語る。確かに以前戦った機械人形と比べて黒を基調とした色が不気味で、形状も丸みを帯びていてどこか生物感がある。


「賢者を襲ってるのもこいつらか?となるとデオ族も襲われている可能性が高いな。ちょっと確認して来る」


 レレリはフフの塔を抜け出して確認に行った。私は何が起こってるか分からず、混乱するばかりだ。


「キラン、まずは賢者に話を伺うべきかと思います。ササト、アギ族の方は任せてもいい?量産型のホワスもゴゴシさんに頼めば修理して貰える筈」


「分かった、こっちは任せて。フフが止まって混乱してると思うけど何とかしてみる」


 シシルの提案をササトが受け入れる。本当はフフが止まった事自体がアギ族にとって一大事なのだろうが、それに加えて敵に襲われているとなると大変な事態だ。


「ボク達はどうしようか?」

「賢者の言っている事が気になるね。キラン、ついて行ってもいい?」


「いいけど、危険だと思うよ」


「もう慣れたよ」

「ホワスがあるから、自分の身ぐらい守れるよ」


 とりあえず双子は私達に付いてくる事に決まった。


「予想通りだ。デオ族の町も機械人形に襲われてる。まあデオ族は鍛えてるから何とかなりそうだ」


 レレリが戻って来て状況を伝えてくれる。今日には世界が滅ぶと言われたのだ、とにかく時間が惜しい。


「それじゃあ賢者が言っていた場所に行こう」


「ですが、戦力は多い方がいいと言っていました。もう少し準備してからの方がよくないでしょうか」


「シシルはまだ戦えるよな?あたしは紅い星が昇ったから今なら全力でいけるぞ」


「確かにまだ余力は残っています。ですが二人だけではキランを守れないのでは」


「行って無理そうなら援軍を呼べばいいんじゃない?」

「まずはどういう状況か見に行った方がいいと思うよ」


「うん、そうだね。とにかく現状が分からないと。じゃあレレリ、お願い」


 場所を知っているレレリに転移をお願いする。


「ササト、色々大変なのに任せてしまいごめんなさい」


「いいよ。動いてる方が色々考えなくて済むし。でも、シシルが戻ってきたらゆっくり話をしたいな」


 ササトがシシルにウィンクする。アギ族の事は心配だが、世界が滅んでしまってはそれどころではない。シシルが手を振り、レレリは3体のホワスに対して転移の魔法を唱えるのだった。



「何これ……」


 転移して飛んだ先は丘の上だった。そして丘から見える平野には波のように大量の機械人形がひしめいていた。それらは一か所に向かって前進している。


「凄い数だな。目的地は向こうにある城みたいな建物だな」


「何かが機械人形と戦っていますね」


「多分太古の魔法のゴーレムだね」

「賢者が召喚したんだろう」


 機械人形の進む先に城のような建物があり、その前で機械人形の3倍位の大きさの石の巨人が数体戦っているのが見えた。あれがゴーレムなのだろう。ゴーレムは近寄る機械人形を殴り、投げ飛ばし、圧倒しているが、それでも数に差があり、対応しきれていないように見える。


「よし、あたしと双子で賢者を助けに行くぞ。シシルはキランを守りつつ援護してくれ」


「勝手に決めないでよ」

「ボク達は戦闘向きじゃないのに」


「そうです、わたくしも行きます。ミミトとミミコにはキランを守ってもらいましょう」


「ダメだ。そう言ってキランが危険な目に何度も合ってるだろう?双子も危ないと思ったら逃げていいから付いてこい」


「分かったよ、ここまで来たら手伝うよ」

「賢者には会ってみたかったからね」


 そう言いつつ双子は試作型のホワスで青い強化スーツに身を包む。


「今は紅い星の時間だ。あたしは大丈夫だから、しっかりキランを守れ」


「分かりました、どうしてもという時は呼んで下さい」


「レレリ、無理しちゃ駄目だよ。ミミトとミミコも無理しないでね」


「ああ、任せておけ」


「やる時はやるところを見せてあげるよ」

「このスーツ結構気に入ってるんだ」


 レレリも全身を強化して赤い鎧を纏い敵の大群へと向かう。その後を翼を生やした双子がついて行った。


「本当に大丈夫かな」


「レレリは強いです。ですが、この数ですとどうなるか分かりません。ですので、出来る範囲で援護しましょう。キランにも武器を貸します」


 シシルは強化スーツは身に付けず、ホワスから大型の武器を取り出す。シシルがいつも使っている小型の武器を私に貸してくれて、操作方法も簡単に説明してくれた。


「レレリ達に当てないように、周囲の敵を狙って下さい」


「分かった」


 私は緊張しながらも銃のような武器を構える。狙いを定め、レレリ達のやや右側の機械人形を狙う。青い光が発射され、光に当たった機械人形は爆散した。シシルは大型の武器を構えるとそこから光の弾を放つ。青い光の弾は空中で分裂し、機械人形達に光の雨を降らせた。光の雨は一気に数十体の機械人形を破壊する。私も負けじと機械人形を破壊した。レレリ達の進む先に私達の攻撃で道が出来上がる。今レレリ達の為に出来るのはここまでだろう。


「こちらに向かってくる機械人形がいます。ホワスでシールドを張りつつ防戦しましょう」


「分かった」


 レレリ達は気になるが、まずは自分の身を守らないといけない。周囲の敵が片付いたら、また援護しに行けばいい。機械人形は山のように迫って来るが、シシルが隣にいるので恐怖は無かった。私はとにかく近付いて来る機械人形を必死に撃つのだった。


「周囲の敵は大体片付きました。レレリ達も賢者の建物の前まで行けたみたいですね」


 遠くてよく分からないが、ゴーレムと一緒に機械人形を薙ぎ払っている何かがいるのは分かる。押され気味に見えたゴーレムも動きが良くなっていると思った。


「もう少し向こうへ行こう」


「そうですね、ホワスに乗って下さい」


 シシルは武器を構えつつホワスに乗り込む。私も続いて乗り、ホワスはレレリ達の方へ向かって移動を開始した。近付くにつれ、凄まじい数の機械人形の残骸が転がっている事が分かる。本気のレレリはやっぱり強いんだと思った。


「キラン、空中から援護しましょう」


「分かった」


 機械人形は空を飛べないようで、空中からなら撃たれるだけで済む。ホワスが下側にシールドを張ってくれるので、ある程度距離が離れていれば砲撃で落とされる心配もない。敵が群れているところからある程度距離を取って私とシシルは武器で攻撃を開始した。

 大分近付いたのでレレリ達が戦っているのが見える。レレリは猛スピードで急降下して、自ら刃となって機械人形を破壊していた。双子は杖状の武器から雷や竜巻を作り出し、空から機械人形を大量に破壊している。同時に建物を守っているゴーレムが機械人形を薙ぎ払うので、こちらが圧倒的に優位に見えた。問題は敵の数だけだ。こちらの戦力が増えればいいのだけれど、アギ族もデオ族も自分達の事で手一杯だろう。


「キリがないね」


「機械人形が出てくる大元を叩ければいいのですが」


 そういえばこの機械人形がどこで作られたかが分からない。賢者の話も途中で終わってしまった。アギ族の工場で作っていたのならフフが止まった今、これ以上増えないだろう。そうで無ければどこでこんな数を作ったのだろうか。


「少しだけ前進します」


「うん」


 周囲の敵が少なくなったので更にレレリ達の方へと近付く。機械人形に意志があるかは分からないが、レレリや双子の勢いに圧され、徐々に攻めあぐねているように見えた。これなら残りはゴーレムだけでも建物を守れるかもしれない。ともかくレレリも双子も無事なようでひとまず安心する。


「キラン、何か来ます。警戒して下さい」


「え?何?」


 シシルがホワスを止め、武器を構える。言われてみると、確かに何か空気が変わった気がする。空には赤い星が出ているが、曇ったように明るさが薄れてきた。そして賢者がいると思われる建物の上に黒い点が現れる。


「虚無?でも今は虚無の時じゃないよね?」


「あそこから嫌な気配を感じます」


 レレリも双子もそれに気付いたようで、戦いの手を止める。機械人形達も合わせたように動きを止めた。黒点が徐々に膨張する。それは歪み、蠢き、やがて人の形を取った。漆黒の人型のモノ。次の瞬間、1体のゴーレムが真っ二つになった。地面には腕を刃に変えた漆黒が立っていた。


「あれは強いです。止めないと賢者達が危ない」


「シシル!キランをしっかり守れ!こいつはあたしがやる!」


 レレリがこちらに向かって叫ぶ。シシルはホワスを地面に下ろし、シールドを展開し、守りを固めた。私はレレリを見守るしかない。

 じりじりとレレリは漆黒に近付く。漆黒もレレリを敵と見なしてか、それに反応するようにゆっくり動く。そしてレレリが飛んだ。漆黒も飛ぶ。二人は激しく交差し、再び地面に着地する。レレリは肩や足の鎧が吹き飛んでいた。素肌に傷も見える。一方漆黒は片腕が無くなっていた。が、腕はすぐに生えてくる。漆黒がどういう生き物(?)か分からないが、レレリが危ないと感じた。

 レレリ達が戦闘を開始した事で機械人形達も攻撃を再開した。双子もゴーレムもそれに対応するのに手一杯だ。そして私もシシルも近くの機械人形の相手をする必要が出て来た。


「シシル、レレリを助けに行けない?」


「ダメです、キランを守る事を任されています。残して行けません」


 答えは分かっていたが、やっぱりレレリが心配だ。気のせいかもしれないが、レレリは最近無理をしている気がする。私をちゃんと守れなかった事を悔やんでるんじゃないだろうか。私はそんな事は無いとちゃんと伝えたかった。


「レレリっ!!」


 漆黒にレレリの鎧が次々と剥されていくのを見て叫んでしまう。やっぱり相手は強いんだ、レレリ一人で敵う相手じゃない。


「シシル、強化スーツを着た方がいいんじゃない?」


「そうですね、確かにこの数相手だとそれがいいかもしれませんね」


「今は敵の勢いが弱まってる。私が敵を近寄らせないから今のうちに着て」


「はい、お願いします」


 私はシシルに嘘をついた。機械人形の勢いが弱まったのは確かだ。でも、シシルにスーツを着させる理由は別にあった。ホワスが変形を始め、シシルが中に入る。その瞬間、私は走り出した。戦っているレレリの方へと。私が行けばシシルもレレリと一緒に戦う事になる。私の身は危険になるのが、それでもレレリを助けたかった。


「キラン、来るな!!」

「キラン、危険です!」


 レレリとシシルが叫ぶ。それでも、私は止まらない。武器で近くの機械人形を撃ちつつ漆黒へと近付く。それは闇の塊で、顔は無い。それでも漆黒と目が合った気がした。そしてこちらに迫ってくる。レレリが攻撃して手や足を切り裂くが、漆黒は止まらない。私は武器で頭を撃ち抜いたが、それでも止まらなかった。最初から私がターゲットだったように、真っ直ぐ私に向かってくる。また無茶をしてしまった。でも、レレリが死んでしまうよりはいい。


「キラン、勝手な行動はやめて下さい!」


 漆黒が私に突っ込んでくる瞬間、目の前に強化スーツを身に付けたシシルが現れた。そして剣で漆黒を切り裂く。既に手も足も頭もボロボロだった漆黒はシシルの剣で真っ二つに割れたのだった。


「だって、レレリが……」


「あたしは大丈夫だって言っただろ!まだ魔力も残ってるし、傷も治る」


 レレリもこちらにやってきて怒る。確かにレレリの傷は徐々に塞がっていた。


「レレリが本当に危なくなったらわたくしも助けに行くつもりでした。ですが、それは相談してからです。行くならちゃんと言って下さい!」


 シシルも珍しく怒る。それでも私は二人が無事なら怒られてもいいと思った。


「反省してない顔だな。話は後だ、敵はまだ沢山残ってる。二人で片付けるぞ」


「はい。キランはそこで反省していて下さい」


 レレリとシシルは周囲に敵を一掃してから私を残して戦いに向かった。私は後で一杯怒られたいと思った。私の護衛にホワスが付いてくれ、自分でも近付く敵は武器で破壊出来たので、危険は無かった。それ以上にレレリとシシルが敵を殆どこちらへ近付けさせ無かったのもある。あれほどいた機械人形の攻撃の波も徐々に収まっていった。


「ん?」


 最初は水たまりかと思った。雨も無いのにおかしいと。でも違う事に気付いた。それは徐々にこちらに動いて来ていたからだ。黒い黒い水たまり。それが敵であると認識した時には遅かった。水たまりは膨れ上がり、人型を取る。倒したと思った漆黒は分裂し、再び結合していたのだ。


「誰か!」


 私は叫んだ。瞬間ホワスが動く。私の前に移動し、シールドを張る。だが、それも瞬時に破壊された。ホワスは吹き飛ばされ、漆黒は私に迫る。武器を構えるが、恐怖で弾が撃てない。足も言う事を聞かない。漆黒の右手が刃に代わり、私を貫こうとした。


「!!!!」


 次の瞬間、貫かれたのは私じゃ無かった。


「レレリっ!どうして!」


「守るって言ったろ……」


 目の前には私を庇い、お腹を貫通され、血を流すレレリが立っていた。


「こいつはあたしが引き留める。早く逃げろ……」


 レレリは必死に私を守ろうとした。漆黒は容赦なく刃を振り上げる。嫌だ。そんなのは絶対に。胸の中が熱くなる。それに呼応して周囲に光が満ちてくる。いつの間にか私の両手には赤石と青石が握られていた。漆黒が動きを止める。私は漆黒を睨みつけた。


「消えて」


 私は念じる。漆黒は溢れる赤と青の光によってどんどんと小さくなり、そして消えた。やった。と思うと同時にレレリが倒れる。


「レレリっ!!」


 私はしゃがんでレレリを抱き抱える。石の光は弱くなっていった。私の手にはレレリから流れる血が零れていく。


「キランが無事で良かった……」


「なんでそんな無茶したの!もっと自分を大事にしてよ!」


「キランがそれを言うか。あたしは決めたんだ。キランとシシルが幸せになるのを見守るって。その為なら何でもやろうってな」


「馬鹿っ!レレリが死んだら駄目だよ。それに私ちゃんとレレリに謝ってない」


 弱弱しくなるレレリを見て私の目から涙が流れ出す。


「キランはシシルを選んだんだろ。別に謝る必要なんてないさ」


「それは違う。確かにシシルに好きって言ったけど、そうじゃないの。レレリのキスを拒んだのもそうじゃないの。あの時はレレリを傷付けたと思う。ごめん……」


「レレリっ!大丈夫です、まだ間に合います」


 下着姿のシシルがこちらに走って来る。ホワスが壊れたので強化スーツが消えたのだろう。シシルはレレリに近付き、腹の傷口に口づけをした。すると傷口が光り出す。流れ出る血が止まり、徐々に腹の穴が小さくなっていく。


「ははっ、まさかアギ族に命を救われるなんてな……」


「シシル、魔法が使えたの?」


「はい、緊急時の為に回復魔法を聖女は習っております。本当は救世主様にのみ使っていいと言われていたんですが」


「ううん、ありがとう、シシル」


 私は嬉しくて涙が止まらない。


「大げさだな、キランは」


「レレリだって泣いてるじゃないですか」


 そう言うシシルも泣いていた。私はただこの腕の中の命が消えなかった事を感謝する。


「まだ戦闘中なのにボク達に任せて何やってるんだよ」

「あとはゴーレムに任せて、とにかく中に入ろう」


 双子がやってきてまだ戦闘中だった事を思い出す。私とシシルでレレリを支え、私達は賢者がいると思われる建物へと避難するのだった。



「よく来てくれた。助かった、と言いたいところだが、酷い有様だな」


「ご無沙汰しています」


 建物に入ると記憶の賢者が出迎えてくれた。一言多いのは何となく慣れた。


「すみませんがレレリを休ませる場所はありますか?」


「いや、傷は塞がり始めてるし、後でいい。それより今は状況を知りたい」


 シシルの話をレレリが断る。私もレレリの事は心配だが、レレリの言う通りだとも思う。


「大広間の長椅子で休みながら聞けばいいだろう。付いてこい」


 記憶の賢者に連れられ建物の中を進む。建物は大理石のような磨かれた石で出来ていて、装飾は無く至ってシンプルだった。白い明りに照らされて厳かな雰囲気がある。広い廊下を歩いていき、記憶の賢者が前まで来ると大きな扉が自動で開いた。中には大きな広間があり、長いテーブルに複数の人が座っていた。レレリを壁沿いの長椅子に座らせ、私達もテーブルの席に座る。ホワスは廊下に置いたままにして、シシルはいつもの服に着替えていた。


「よく来てくれました、キラン、レレリ、シシル、ミミト、ミミコ。簡単に自己紹介だけしておきましょう。わたくしは先見さきみの賢者と申します」


 テーブルの一番奥に座る、目を瞑った女性が先見の賢者を名乗った。美しい若い女性に見えるが、他の賢者と同じく髪の毛も眉毛も睫毛も生えていない。横には他の賢者と思われる人物が5人座っている。


「あたしは創造の賢者」


「あたしは消失の賢者」


 続いて同じく毛が無いが少女のような外見の二人が名乗った。銀色の目をしているのが創造の賢者で、金色の目をしているのが消失の賢者だった。


「自分は夢見の賢者と申します」


 細長い顔に釣り目の女性が名乗る。その瞳は虹色のような不思議な輝きをしていた。


「右の記憶の賢者は知ってますね。最後に私が回廊の賢者です。キランさんをこの世界に招き入れたのが私です」


 ふくよかな丸顔の女性が微笑みながら名乗った。自分をこの世界に呼んだ人に会ったら文句の一つでも言ってやろうと思っていたが、今はそれどころでは無いので我慢する。合計6人の賢者がそこにいた。私達はキランを除いて4人で対面の席に座っている。私はとにかく気になっていた事を聞く事にした。


「まず、今何が起こっているか教えて下さい。本当に今日世界が崩壊するんですか?」


「いつ崩壊するかはまだ分かりません。ただ、すぐにでも崩壊する可能性が高いのは確かです」


「表の機械人形が攻めて来てるのが崩壊って事か?そもそもあいつらはなんなんだ?」


 答えた先見の賢者に対して長椅子で横たわっているレレリが質問をする。


「崩壊は三つの現象が同時に起こっております。その一つが外で襲ってきている機械人形です。お気付きかと思いますが、機械人形はアギ族の自動防衛装置を真似て作られた物です。そしてそれはこの世界の歪みから無尽蔵に湧いてきています」


「ではアギ族の工場で作られた物とは別なのですね。しかしこの世界にアギ族以外であの規模の機械を作る者がいるのですか?」


 シシルは少しだけホッとしながらも疑問を投げかける。


「恐らくこの世界で作っているのではなく、どこか別の世界で作り、それをこの世界に招き入れているのでしょう。それを可能にする生物はこの世界にはおりません。それを引き起こしている存在は真理の賢者が神と定義していたモノです」


「神……」


 先見の賢者が口にした捉えどころのない存在を私も声に出す。正直、それがこの現象を起こしているかどうかはまだ信じられない。


「これまた凄い相手と戦ってるんだね」

「ところで残り二つはどんな現象が起こってるの?」


 双子が説明を促す。


「もう一つの現象はキランを招き入れた、別世界との回廊が開放されたままになった事です。実際見て頂いた方が分かり易いでしょう」


 先見の賢者がそう言うと、大広間の真ん中に映像が映し出された。

 それは私が初めて降り立った丘と思われる場所だった。そこに歪みが発生し、次々と何かが現れる。それは私と同じ人間だったり、地球の生物だったり、道具だったり、見た事の無い不気味な生物だったりした。皆私と同じように戸惑い、混乱し、逃げたり周りの物を攻撃したりしていた。


「本当は私が管理して、最低限のものだけ通していました。しかし今は扉が閉じなくなってしまいました。恐らく何らかの妨害がされているのでしょう。このままだともっと危険な生物や物がこの世界に入り込んでしまいます」


 回廊の賢者が説明する。よく見るとオートバイのような乗り物も現れていた。自動車やもっと恐ろしい戦車のような兵器が出てくればただでは済まない事は私にも分かる。


「三つ目は虚無の時が星の動きに関係無く発生してる事です。今は空に浮いているのですが、大きくなれば地上の物全てを飲み込むでしょう。これが最も問題です」


「崩壊が始まったのは分かったけど、どうしてこんなに早く始まったの?今まで賢者に聞いた話だとそこまで緊急の話でも無かったと思うけど」


「それについては自分が答えます。原因はキランさん、貴方です。貴方が無意識に世界を改変した為、崩壊が早まったのです」


 先見の賢者に続いて夢見の賢者が語り出す。しかし、自分が原因と言われても心当たりが無い。


「どういう事?世界の改変とか初めて聞いたんだけど」


「貴方は赤石と青石を持っていますね。そのどちらか、もしくは両方を用いて危機を回避したり、仲間を助けたりしましたね。それが世界の改変です。二つの石は切っ掛けに過ぎません。身を守ったり記憶を蘇らせたりしたのはキランさん自身が行った事なのです」


 夢見の賢者に言われてますます分からなくなる。そんな凄い力があるなら、もっと早く何か起こったんじゃないだろうか。


「戸惑うのも無理ありません。それはキランの力というより、キランがこの世界に完全に適応していない事が要因になっています。あなたはまだこの世界において不安定な存在なのです。そして赤石と青石はこの世界の根幹とも言うべきエネルギーの塊です。キランが強く願った為、石が反応して世界を作り替えたと言えます」


「それじゃあ私が今強く願えば崩壊も止められるって事?」


「それは難しいでしょう。崩壊は神とも呼べる存在がこの世界を不要と考え、除去する為に行っているものです。この世界そのものに対して改変は行えません」


 先見の賢者が言っている事は完全には分からないが、単純な話では無い事は分かった。


「なるほど、世界が思ったより早くおかしくなったから崩壊を早めた訳だ」

「勝手に変えられて怒ってるとも取れるね。しかし、この状況からどうやって立て直すんだ?」


「1つ目と2つ目は賢者の力を使えば何とか出来ます。ただし人手が足りません。機械人形が生まれる場所に創造と消失の賢者が辿り着けば機械人形の発生を止める事が出来ます。異世界からの流入は回廊の賢者を回廊の丘まで連れて行き、守れれば修復出来る筈です。ただ、皆さんは疲弊していて、動けないと思います」


 双子の問いに先見の賢者が答える。確かにレレリは傷を負い、シシルはホワスが壊れ、双子も大分疲れている。私が石の力を使えればいいのだけれど、力は自由に使えるものでは無さそうだ。


「先見、ちょうどいいタイミングで客が来たぞ」


 記憶の賢者が立ち上がり、扉へと歩いて行く。扉が開くとそこにはよく知っている顔が並んでいた。


「ヨヨゴ、並びに守備隊200名、レレリ様の為馳せ参じた」


「メメヌ、並びにレレリ様お世話役30名、同じく馳せ参じました」


「お前ら、国の方は大丈夫なのか?」


「はい、デオ族は皆闘い慣れております。各部族で防衛線を作り、守りを固めました」


 レレリに対してヨヨゴが胸を張って言う。横のメメヌも凜としていて、二人の後ろのデオ族の戦士達の士気も高そうだった。


「聖女50名、救国の為に参上しました。ご指示とあらばこの命捧げる覚悟です」


「ササト!でも、機械人形や町の混乱は?」


「ゴゴシさんが既に製造されていた防衛装置を使って食い止めています。それに町の人達も協力し合い、国を守っています」


 聖女達は量産型のホワスを引き連れ整列していた。ササトの顔も晴れ晴れとして、悩みが吹っ切れたように見える。


「これだけいれば二つの問題は解決しそうだね」

「善は急げで部隊を分けようか」


 双子と賢者が今後の話し合いを始める。デオ族の部隊が機械人形の解決に、アギ族の部隊が回廊の修復に向かう事に決まった。それぞれ対応する賢者を含めすぐに出発する。


「ヨヨゴ、メメヌ、頼んだぞ」


「レレリ様はここでゆっくり休んでいて下さい。俺達で何とかします」


「私が付いてますので安心して下さい」


 確かにヨヨゴだけでは不安だがメメヌがいれば安心な気がした。戦い慣れたデオ族なら機械人形の相手も出来るだろう。


「危険な役目をみんなに任せてしまってすみません」


「私達こそシシルには辛い思いをさせたと思ってた。今度こそアギ族の為、世界の為に聖女として役目を全うする」


 ササトも他の聖女も活き活きして見えた。聖女達なら異世界から来た人達の混乱を収める事も出来るだろう。今の聖女達や町の助け合いの話を聞いてアギ族もデオ族に負けないぐらい強い種族なんだと分かった。二つの部隊が出発し、残ったのは私とレレリとシシルと双子、あと先見、記憶、夢見の3人の賢者だった。


「それで、虚無の時の対応策もあるんだよね?」

「キランとレレリとシシルは残すように言ってたからね」


「そうですね、一応その方法はあります。本当はフフの停止で青の塔も止まり、虚無の時は消える筈でした。それが亡くなった真理の賢者が考えていた救世の方法です」


 先見の賢者が少し悲しそうに言う。真理の賢者は嫌いだったが、彼女には彼女なりの考えがあり、それをシシルに託そうとしていたのだろう。どれだけ嫌いだろうと、死んでしまった事は悲しい。


「青の塔は確かに止まった筈です。それでも虚無の時は消えなかったのですか?」


「今まで通りの虚無の時は消えたでしょう。ですが、空に新たな虚無が生まれてしまった。空の虚無も一時的に勢いは弱まりはしましたが、消える気配はありません」


「で、あたし達3人に虚無を消して来いと」


「話はそう簡単な物ではありません。虚無の時は紅い星と蒼い星の相互の影響で生まれました。消す為にはその紅い星と蒼い星、両方の力を無くす必要があります」


「そんな事をしたら……」


「それはあたし達に死ねと言ってるのか?」


 シシルもレレリも顔が強張った。私は二つの星を太陽に置き換えて考えてみる。確かに太陽無しでは人間も生きられないと思う。先見の賢者が言っているのはそういう事なのだろう。


「確かに現在のアギ族とデオ族はそれぞれ蒼い星と紅い星の力を使って生きている」

「無くすとしても代替のエネルギーが無ければ種として滅ぶね」


「その通りです。そこで、キランの力が必要になります」


「私?私に何が出来るの?」


「キランの世界には恒星があり、その恩恵を受けていましたね?」


「恒星、って太陽の事だよね。うん、確かに太陽があったから人間は生きてこれたと思う」


「キランさんには二つの星に代わり、恒星を生み出して欲しいのです」


「え?」


 突然そんな事を言われてもどうしたらいいか分からない。


「ちょっと、そんなの無理だよ。どうやっていいかなんて分からないし」


「はい、その為にレレリとシシルがおります。キランには二人のどちらかを選んで一つになってもらいます。そして力を合わせれば星を作り替える事が出来るのです」


「一つになるって……、もしかして性交の事?」


「そうですね、それが一番早く、確実な方法でしょう」


 ここに来て振り出しに戻った気がする。どうしてそんな話になるのだろう。


「なるほど、そういう事ね。アギ族かデオ族に同化すれば、自分に属する星は近付いて無力化させる事が出来る」

「で、相反する星に対しては近付ければ危険を感じ、石の力を使えば改変出来ると」


「そうです。ただし改変する際にはアギ族デオ族両者を生かす力を持つ星にする必要があります。異世界の恒星を知っているキランでしたらどちらかの種族と同化し、その種族の強者と力を合わせる事で星の改変が出来る筈です」


「私にはよく分からない。けど、それで世界が救われるなら、考えてもいい」


 ただ、二人からどちらかを選び、性交する、という点はとても引っ掛かっている。


「我から言っておこう。キラン、この世界を救う為に元の世界に戻るのは諦めてくれ。一つになるという事はこの世界の住人になるという事。二度と元の世界には戻れないぞ」


「え?本当?他に方法は?」


「残念ながらありません」


 記憶の賢者ははっきり断言してくれた。私が選ぶしかないのだ。そして、今の自分は以前のようにこの世界の事を他人事のように簡単に切り捨てる事は出来ない。退路を塞がれ賢者に決断を迫られているのが分かる。


「一応他に方法が無いかボク達も検討はしてみるよ」

「時間は無いけど、キランが2人のどちらかを選ぶ間にね」


「虚無に関してはまだ半日は大丈夫でしょう。身体を休めつつ検討して頂けないでしょうか?」


「うん、分かった。少し考えさせてください」


「キラン、すまんな……」


「ごめんなさい、こんな事になって」


 謝るレレリとシシルに何とか笑顔を向け、私は空いている部屋を借りそこで考える事にした。

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