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東方剣録伝 〜幻想郷最強剣士の物語〜   作者: 黒井黒
第三章 消された歴史
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三十四話 挨拶は大事


あのオバサン(ババアとは言えない……絶対に)のスキマで、またしてもこの浮遊感を味わうことになった俺は重力のされるがままに落下していく。

俺は飛べるはずなんだけど、恐怖に支配された思考はその判断をさせてはくれない。

そして……爆音を立て、地面に激突する。


まぁ無意識に霊力を灯していたおかげで、大した怪我はしていない。背中にゴツゴツとした岩のような感覚を感じながら、ゆっくりと目を開ける。


「……ん?どこだ……ここ…?」


周りは岩肌が並び、薄暗い。街灯らしき火の玉が照らしてくれてはいるけど、何か出そうで怖い。ルーミアの居た洞窟を思い出す。


俺はそこで違和感に気づく。自分の腹が妙に重い。まるで、何かに乗られているような……。その時火の玉が少し揺れ、光がちょうどよく射し込む。


「なんでお前がいるんだよ……ルーミア」


「いちゃ駄目なのか〜?」


ダメだ、と言おうとした俺は慌てて口に出すのをやめる。まぁこいつなら言っても問題ないと思うけど、一応気遣ってやる。


「重いから降りろ」


「女の子に重いと言っちゃうのは、少しデリカシーがないと思うのだ〜」


こいつがデリカシーという言葉を知っていた事に驚きを隠せないけど、これは俺が悪いか。麗奈なんかに言ったらぶん殴られそうだ。ことりあえず立とうとして体を上げる。


「ダ〜メ」


それをルーミアは許してくれない。子供とは思えない馬鹿力で俺を地面に押さえつける。幾ら抵抗しても、体はビクともしない。こういう時、こいつはやっぱり妖怪なんだなって思う。

クネクネと体を動かして、近づいてくる。ルーミアの顔がすぐ近く、吐息が聞こえる。こんなの前にもあったような……。


「今なら麗奈もいないし、好きにしていいんだよ?」


「な、なにを!?」


「本当は分かってるくせに〜!ロリコン和也」


「それは断じて違ぁぁぁぁうッ!!変な称号つけるな!」


ルーミアの誘惑はいつもの事ながら本気なので、ヒヤヒヤする。顔を近づけては甘い言葉を囁いて、変な気持ちにさせてくる。だが、俺はロリコンではない。


「えぇい!いいから降りろ!」


「えぇー!ケチ!こんな美少女がいいって言ってるのに〜!」


「残念ながら俺は小さい子には興味が無い!お前が大きくなれば考えてやってもいいぞ」


頬を膨らませて、子供のように怒るルーミアを俺も冗談交じりに軽くあしらいつつ、状況確認する。


紫が言うにはここは地下らしい。俺達の話し声が反響していることも見て、それは正しい。だとしたら、紫が言っていた『信用できる人』が迎えに来てくれてもいいんだけど。


「まぁ、そこまで甘くないってことか?取り敢えず歩くか……って、ルーミア?どうしたんだ?」


「ちょっと静かにして」


ルーミアは目を閉じ、精神集中している。そして、右足で地面を二回タップする。地面を蹴った音が地下内に反響し、そして静寂が訪れる。


「おい、一体何を…」


するとルーミアは、右の方向を指さす。


「こっちに街があるね。反対は何も無いからこっちに行こうよ」


「………」


「どうしたの?早く行こう?」


ルーミアは俺を置いて、歩き出す。


ルーミアはたまに、凄くたまに、カッコいいことをする。というより元々スペックがいいのか……まぁなんというか反則なんだよな。


……後でアレ教えてもらおう。



薄暗い洞窟を歩いていく。光が濃くなっていくところを見るともう少しで街に着くんだろう。先導はルーミア、ランランとスキップしながらピクニック気分だ。


全く……こんな事、陰気臭い所の何がいいのか。


しばらくすると、如何にもな大きな門が見えてくる。その前には、人影が三つ。一つは大きく大柄だけど、後の二つは、小柄だ。大体、ルーミアぐらいの背丈だ。


案外呆気なくついてしまった。地下とかなら、隠れた妖怪がうじゃうじゃいるような感じだと思ったけど。今更、気にしてもしょうがない。


門に近づくにつれて、はっきりと『三人』が見えてくる。


完全に容姿が見える所まで距離を詰めると、立ち止まる。


「貴方が和也さんですね?」


「まぁそうです」


三人の中央にいる小さい女の子が、軽く頭を下げる。


「初めまして、和也さん。私はこの地を治める地霊殿の主『古明地さとり』と申します。これから、貴方の身も心も預からせ頂きます」


丁寧な挨拶の後で、古明地さとりという少女は左右に手を広げる。


「この二人は、私の友人兼地霊殿の護衛役です」


そう言うと、大柄の女性が近づいてくる。そして、握手を求めてくる。


「私は鬼の『星熊勇儀』だ!よろしく少年ッ!」


「あ、はい!よろしくお願いします!」


俺は差し出された手を強く握る。勇儀も強く握り返してくるのが分かる。だが、一つ見当違いだったのは俺の『強い』に勇儀の『強い』は当てはまらなかったことだ。


自分の手がバキバキと変な音を立てて、潰されていく。


「痛っったッッッ〜〜〜!!!」


「おっと、つい力が入りすぎちまった!悪いな」


力が入りすぎちまったレベルでは済まされない。手の骨が何本か逝ってしまったと錯覚するぐらいの激痛に襲われた俺は地面を転げ回る。


「勇儀……少しやり過ぎなのでは?」


「すまん、すまん。ちょっとした挨拶だよ」


挨拶で手を折られたら、たまったもんじゃない。


(俺、この人苦手だ!!)


すると、地霊殿の主を自称する古明地さとりはクスッと笑って、未だに地面を転げ回っている俺に手を貸してくれる。


「私も最初は苦手でしたよ。案外気が合うかも知れませんね、私達」


「あはは〜、そうかもしれないですね。ん?………なんで?だって今……」


「心を読んだ、と?」


そう言えば、前に見た妖怪のリストに心を読む妖怪がいるとか書いてあったな。


【覚妖怪】


人の心を読むとされる妖怪。あまり戦闘を好まず、妖怪の山でひっそりと暮らしていたが、その能力により他の種族から迫害を受ける。そして、現在の行方は分かっていない。


「そんな資料が残っているんですね〜」


「まぁ俺もパラパラ読んだ程度だから詳しい事は知らないんだ」


それにしても、この小さい子が地霊殿の主で覚妖怪か。少し興味があるな。ルーミアと違って、大人しくて、清楚で、何より可愛し。


「すいません……全部聴こているのでそれ以上はやめてください――恥ずかしいです」


「あぁ……ごめん。でも、会話要らずですごく便利な能力だな」


俺がそんな呑気なことを言うと、場が凍りつくのを肌で感じる。何が起きたか分からない俺が、おどおどしていると。


「だから、和也はデリカシーがないって言われるのだ〜」


「えっ?俺なにかまずいこと言った?」


「はぁ〜、呆れてものも言えないのだ〜。後は自分で考えてくれなのか〜」


「ねぇねぇひとつ聞いていい?お前さ、ずっとそのキャラで行くの?」


俺のツッコミにルーミアは無言でそっぽを向いてしまう。でも、今はそんな場合では無い。この気まずい雰囲気を何とかしなくてはいけない。

混乱した俺は、自分でも予想のつかない行動に出てしまう。


「さとりん……」


「はい?」


さとりは奇妙な事を呟く俺を心配そうに見つめてくる。それを無視して、俺はキメ顔で言った。


「さとりん、君に悲しい顔は似合わないぜ!」


今にも氷河期に逆戻りしそうな雰囲気に、ルーミアは身を震わせる。さっきまでと違う意味で痛い視線が、和也に集中して、和也自身も恥ずかしさで死にたくなる。


そんな終末を迎えている場所で、笑い声がこだまする。


「あははは〜!面白いすぎですよ!あ〜、お腹痛い!」


「さとりん……?」


お腹を抱えて、大笑いするさとりに逆に俺が心配する。そんなに俺の醜態が面白かったんだろうか。

さとりは笑いすぎて、目頭に溜まった涙を拭いて真っ直ぐに俺を見つめてくる。


「そんなに気を遣わないでくださいね。私も別に気にしていませんから。あっ!でも、ルーミアさんの言う通り、デリカシーに気をつけて下さいね?女性に重いというのは、私はどうかと思いますよ?」


「見てたんですか!?それならそうと言ってくださいよ〜」


「私も一応、人の命を預かる主なので、和也さんがどんな人物か見極める必要があったのです……まぁこの様子なら問題ないですね」


すると、後ろの門が重たい音と共にゆっくりと開いていく。奥には人里とは一風変わった街並みが見える。


「ようこそ!旧都及び地霊殿へ」


こうして地霊殿に招かれた俺とルーミアは、ひと悶着ありながら無事に旧都に足を踏み入れた。



「ねぇ誰も私の事気にかけてないの?すごい進んで行くじゃん!ねぇ無視なの!?ねぇってば!!」


小さい鬼が慌てて四人の後を追って行った。


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