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東方剣録伝 〜幻想郷最強剣士の物語〜   作者: 黒井黒
第三章 消された歴史
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三十三話 昔々・・・と


どこの誰だろうか?現代の魔法使いか?それとも昔々のお伽噺だろうか?そんな事は、実際どうでもいい。だけど、敢えて言うならこう言わせてもらおう。


聡明な賢者は言った。


曰くーー空を見る者に地の者は見えず。


曰くーー地を見る者に空を見る者は映らず。


この言葉の意味は、単純明快。つまり、対極にある二つの物でも案外、思考を変えれば見えてくる……という意味らしい。昔の人は小難しい事を考えるものだ。実際、この言葉を言われて、即理解出来る者はいるんだろうか?


この言葉に例を挙げるとしたらこうだろう。


空を縦横無尽に飛ぶ鳥には、毎日汗水かいて働く蟻の気持ちは分からない。その逆も然りだ。

賢者は、違いは多くあるものの思考を変えればどちらも似たものだと言っているのだ。


だが、どうだろう。

空を飛ぶ鳥が傷を負い、地面に降り立った時。少しは蟻の気持ちが理解出来るだろうか?そして、羽根が生えた蟻は果たして鳥の気持ちが理解できるだろうか?


答えは――ノーだ。


幾ら、彼らが羽を失い、飛べなくなったとしても毎日女王にこき使われる蟻の気持ちは決して分からないだろう。そして、蟻が羽根を生やしたとしても、空を自由に飛ぶ鳥と同じ気持ちにはならないだろう。

自由に空を飛ぶ鳥、女王に使われ自由の無い蟻。正反対な二つの生物は果たして分かり合えるだろうか?


鳥と蟻では、『生きている空間』『生きていられる時間』『種族の特徴』何一つ違う。生きている生物に共通して言えることだが――たとえ『種族を越えた絆』『禁断の恋』そういう関係になった時に、上辺には相手の事を分かっているつもりなのかもかもしれない。しかし、相手の本質、何を思っているかなんて言ってくれなければ分かりっこない。その発せられた言葉自体も、悪くいえばなんの信用性もない。その人の行動ひとつで、信頼は揺らぐ。絶対的な信用なんてある筈ないのだ。


つまり、最終的に言いたいことはひとつ。


『他種族同士では本当の信頼関係など築けない』と言うことだ。


そんな事を言うと、捻くれているだの、夢が無いだの言われるかもしれないが、それが『今の』現実だ。『夢物語』では語れない現状がこの世界にはある。他種族同士の戦争、仕える神の違いで、国がひとつ滅ぶ。ドロドロに腐りきった世の中。私はそれを長年掛けて見てきた。だから、私は人というものを少し信じられなくなってるのかもしれない。


だけど……こんな事を言った後では信じてもらえないかと思うけど、私はお伽噺や人が楽しそうに語る『夢物語』を嫌いではない。出来れば叶って欲しいと、本気でそう思っていたりする。それは決して嘘では無い。それが私の夢で、幻想郷の皆の夢だろう。


だけど、それを叶えるには様々な問題が発生する。


まず、越えられない課題は『時間』


人間が八十年生きるのに対して、妖怪は千年以上生きる。どうしても、その時間差は変えられない。妖怪一人が生涯を終えるのに、十世代以上人間が変わる。そんな中で、信頼関係を築くのは至難の業だ。


でも、一番厄介なのは『種族の壁』


人間と妖怪では明らかに、能力が違いすぎる。身体能力は勿論のこと――考えの違い、生息する環境、どれをとっても同じなんて事はない。


だけど……それでも私は信じていた。いつか『人間と妖怪が手を取り合える世界』が来る事を。


でも――その夢は意外と呆気なく砕け散った。


それは何かの手違いだったのかもしれない。それとも、誰かの陰謀だったのかも。又は、私の力不足。理由はともあれ、私は自分の夢を諦めてしまった。後手に回り、維持することだけに集中するしかなかった。結果的に私は無力だった、その一言に尽きる。いや、それ以外に考えられない程呆気なかった。私自身の力では何一つ救うことが出来なかったのだ。


でも、私は知っている。


私が一度捨てた夢を、自身の命が尽きるまで諦めなかった人を。妖怪、或いは人間からも裏切られても尚、それでも夢を捨てずに自分の信念を持って駆け抜けた人を。血を見るのが何よりも嫌いなはずだったのに、最後は自分も血を流し、そして、流させた事も。


そして、その子が一番信用していた『親友』も……。





話は変わって、幻想郷。博麗神社の倉庫を漁っている和也は、埃まみれの棚を咳き込みながら見てまわっている。今の博麗神社には和也一人。その隙に麗奈からダメと言われている倉庫を内緒で探っている。その麗奈はというと、小傘庵で今日も働かせている。この所、目立った妖怪の動きは無く、ある意味で不気味なぐらい平和な状態なので暇人に成り果てた麗奈を小傘庵に派遣しているという訳であり、そのお陰で博麗神社のお財布は少しずつ潤いつつある。倉庫も探せて、お金は入る……まさに、一石二鳥だ。

一方、神社の疫病神『ルーミア』はふらふらと黒い球体の中に入りながらどこかに行ってしまった。


ということで、ゆっくりと調べられるって訳だ。


そんな中で、疑問に思った事がある。


「何で無いんだ?他の巫女のはあるのに……」


博麗神社の倉庫には幻想郷の歴史と、歴代巫女の情報が記された書物が仕舞われている筈……なのだが。

その中でどうにも後にも、全く情報がない巫女が一人だけいる。


「……初代博麗の巫女『博麗霊花』」


書物には名前と功績が書かれているんだけど、それしか書かれてない。他の巫女は、能力とか、使用武器とか、他にも色々と書かれてるんだけど、博麗霊花だけは詳しい情報が書かれていない。


……それともうひとつ。


「やっぱり巫女ってだけあって、男はいないんだなぁ」


博麗の巫女は全員が女だった。


それもそうだ。それなら巫女なんて言わない。


でも、少し期待していたのになぁ。男が一人はいるんじゃないかなと思ってたんだけど、やっぱり幾ら調べても出てこなかった。全員が女性で、しかも十代で博麗の巫女になっている。


そして……。


「全員10代半ばで死亡……か」


資料には博麗の巫女を襲名した日と没年月日も記されていた。それを逆算すると、20代になった者が一人もいない。


その大きな死亡理由は、『戦死』となっている。


妖怪との戦闘で亡くなったものが大半を占める。だけど、書物を探している上で、一人だけ『病死』という異例な亡くなった人がいる。


それは十一代博麗の巫女『博麗麗良(れいら)


麗奈の先代の博麗の巫女だ。


麗奈の一つ前の巫女は唯一『病死』と理由で亡くなっている。具体的な病名は、『病死』とだけ書かれ、詳しいことは分からない。


パタンッと資料を閉じる。古い本の為、残っていた埃が舞う。


先代巫女のことは麗奈に聞けば一番早いと思う。


博麗の巫女について、もうひとつ分かったことがある。


それは、博麗の巫女は全員が全員、血が繋がってないという事だ。書物によれば、妖怪の賢者……つまり紫が、博麗の素質がある者を攫って育成すると書いてあった。こう書いてあると、紫について勘ぐってしまうが今は気にしない。


「さてと、疲れたしお茶でも飲むかぁ〜」


大きく身体を伸ばす。


なんで俺が埃っぽい倉庫を探してまで、博麗の巫女の事を調べていたかというと。


ただ単に気になったから……ってのはダメだろうか?


前に倉庫を見たのは宴会の時。その時からここに興味があったんだ。いつか見ようと思ってたんだけど、麗奈やルーミアがいない日を見計らって覗いてしまったのは心が痛む。


博麗神社の倉庫なんだから麗奈には許可を取っておくべきだったか。そんな感情が湧いてくるけど、気にしてもしょうがない。


お茶を啜りながら、さっき見た本の事を思い出す。


何も情報がない初代『博麗霊花』


博麗の巫女での唯一病死している『博麗麗良』


気になったのはこんなところか。まぁすぐにどうこうするってことは無い。まったり調べていくとして……。


「紫……そろそろ出てきたらどうだ?」


「あら?気づいていたの?」


ちゃぶ台を挟んで向かい側にスキマが開く。顔だけをひょっこりと覗かせた紫はどこか不満げだが、それは知ったことではない。


「まぁあれだけ見られていた嫌でも気づく。それで?俺になんか用か?」


「突然だけど、貴方には謹慎してもらうわ」


「あぁ〜、ごめん今なんて言った?」


「貴方には地下で幽閉されてもらうわ」


「いやさっきと言ってること変わってんじゃん!?なんだよ謹慎って!それに今、幽閉って……」


「聞き間違いじゃない?」


「あまり俺を舐めない方がいいぞ?麗奈やルーミアから、地獄耳の和也と恐れられているんだからな」


そんな冗談を交わしつつ、気になる本題に入る。


「それで謹慎ってどういう意味?」


「そのままの意味よ。貴方には一度、地下に隠れてもらいます」


「……理由を聞いてもいいか?」


「あら?すんなりなのね」


「まぁな。俺はお前があんまり好きじゃないが、妖怪の賢者であるお前が言うことなら何かしら意味があるんだろ?なら、抵抗してもどうせ無駄ってことは分かってるからな」


俺はこの胡散臭い妖怪をどうにも好きにはなれないけど、こいつの能力だけは認めている。それを強めたのは、今日見た書物が原因だけど。

まぁ認めてるなんて言ったら、調子に乗るので言わないけど。


ふ〜ん、と紫は何か考えに耽った顔をしている。俺の言葉の真意を考えているのか、それは分からないけど。とりあえず、紫はスキマから出てきて、座布団に座った。


「理由ねぇ〜、説明するのは簡単だけど少し自分でも考えてみなさい?そう易々と教えてあげる程甘くないわよ」


「じゃあいい。帰れ」


「ごめんなさい!ちゃんと説明するから!」


紫特有のムカつく返しにイラッときた俺は神社を去ろうとするが、紫に泣いて止められる。


「なら早く要件話せよ……なんで俺が謹慎なんだよ」


「そうねぇ、さっき言ったこともあながち間違ってないのよ……貴方の周りで少しおかしい所はない?きっとあるはずよ」


俺の周りで変わったことといえば、麗奈が働き始めたぐらいしか思いつかない。


ん?いや……ちょっと待てよ?


「妖怪に……追われた?」


俺の独り言が聴こえたのか、紫はゆっくりと頷いた。


「そう、その通りよ。妖怪達は貴方に興味を示している。その理由は……まぁ言うまでもないわね」


「……あれか!?ルーミアとの戦いか!?でもあれは…」


「確かに貴方はルーミアに手も足も出なかった」


紫はすっぱりと言い切った。分かっていても、言い切られると少し胸が痛む。でも、本当の事だから文句の言いようがない。

そして、紫は続けて言った。


「でも、ルーミアが余計な事をして貴方に負けてしまった。本当に余計な事を……」


「で、でも!それでも完敗だったんだぞ?自爆みたいなことしてやっと引き分けまで持ちこんだんだ」


「そうね。実際貴方はルーミアに勝ててない。でも、結果だけを聞いた妖怪達はその事を知らないわ。それが引き金となり、今や貴方は妖怪達から『大妖怪を殺した人間』と思われて、自身の名を上げるための標的(ターゲット)。やったわね!人気者じゃない」


「そんな人気いらねぇぇぇぇッ!」


だからあんなに血眼で俺を追ってたのか……。今納得がいった。今思えば……人里へ向かう途中、下を見たら砂煙が立っていたのは……俺が人里にいるとやたら、妖怪が多く来るようになったのは……。


全部オレのせいでした!



「これで分かってくれたかしら。とりあえずほとぼりが冷めるまで、信用できる場所に行ってちょうだい」


「いつ?」


「今すぐに……よ?」


すると、俺は謎の浮遊感を感じて悟る。


「またこれかぁぁぁぁッ!」


俺は重力に従うがままに、落下していく。落ちている感覚を味わいつつも、薄ら目を開けて落ちてきた方を見ると。何かわからないが、黒い影が俺についてきていた。




「全く、好き勝手してくれるわね……ルーミア」



誰もいない神社でボソッと紫は呟いた。



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