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東方剣録伝 〜幻想郷最強剣士の物語〜   作者: 黒井黒
第二章 小さな異変と恋心
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二十六話 二つの物語

いつもより長いです!


紫から開いてもらったスキマを潜ると、先程まで闇に包まれていた空が青空に変わり、眩しく神社を照らしていた。季節は春真っ盛り。境内の桜が咲き誇っていて美しいのだがーーー今は鑑賞に浸っている場合ではない。


「待ってなさい…………今行くわ」


麗奈は和也がいる場所に向けて飛び立った。




〜ルーミアVS和也〜




ルーミアが何かをしたと思ったら、さっきから感じていた複数の妙な視線が消えた。ルーミアがやったという事は間違いないんだけど、何をしたかまでは分からなかった。


「さて、これで誰にも見られないわね」


「…………それで話ってなんだ」


俺がそう言うとルーミアは口を開いて、何かを言いかけた。だが何を思ったかルーミアは途中で言うのを辞め、その言葉が発せられることは無かった。そして、しばらく辺りに静寂が続く。


「やっぱり言うのや〜めた。話はまた今度にしましょ?」


「何故だ?話したいことがあるなら話せばいいだろ?」


「まぁまぁそんなに焦らないの。よく言うでしょ?言いたいことは拳で語り合えって」


そう言うと、ルーミアの妖力が急激にその濃さを増す。それに応じて、和也も戦闘態勢に入る。ルーミアの戦闘スタイルは変わらず、触手を使った遠距離攻撃だ。十本以上の触手がルーミアの周りを踊っている。


(今の俺ならあれぐらい躱せるはずだ!自分を信じろ!)


俺は剣先をルーミアに向け、脚に妖力を集中させる。イメージは麗奈が見せてくせた【神歩】だ。確かあれは霊力を媒介に自分の速度を加速させる技のはず。それなら、妖力でも霊力の代用は効くはずだ。まだまだ霊力に乏しい俺でも出来る。


「行くぞ...ルーミア!」


「来なさい...殺してあげる」


脚に溜めた妖力を一気に放出させる。自分も予想出来なかったスピードでルーミアに突撃する。


自分でも制御出来ないほどの速さ。それなのに、ルーミアの触手は完全にその速さについてきていた。


だが、和也も走りながら、ギリギリの所で触手を斬り落としている。それでもルーミアはその場で表情一つ変えず、微動だにしない。だが、和也の刃は確実にルーミアに迫っている。


ルーミアの触手をある程度斬り落とし、その距離が近づいて、和也の剣がルーミアを真っ直ぐ捉えようとしたーーその時。


「ッ!?まずい!」


和也は何かの気配を察知し、慌てて横に緊急回避する。


「ッ!?クソ!」


だが、一歩遅かった。和也は致命傷は間逃れたが躱し切るには至らず、肩を貫かれて血が噴き出している。大量の血が和也の白い男性用巫女服を紅く染め上げていく。


「ダメよ?馬鹿正直に飛び込んで来たら」


ルーミアの闇の槍で貫かれた左肩は大きく穴が開き、動かせそうにないぐらい損傷していた。


和也は刺された痛みで意識が飛びそうになるが耐え、刺さっている槍の柄の部分を断ち切る。刺さっていた槍がルーミアからの妖力供給が無くなり、消えると、風穴が空いた肩から血が一気に流れていく。


(やばい.....血が流れ過ぎだ。早く止血しねぇと大量出血で倒れちまう)


和也はまだこの戦闘中に、一切使っていなかった霊力を貫かれた肩に灯す。傷は完全には塞がらないが流れる血と痛みが少し治まった。だが、まだ激痛が和也を襲っている。そして、今もなお血は少しずつ流れ続けている。これは単なる応急処置に過ぎない。


和也は剣を強く握りしめる。左肩を貫かれたせいで左手に感覚がなく、あまり力が入らない。左手に持っている刀は和也の返り血によって紅くその刀身を染めていた。


(この刀につく血は本来俺のもんじゃねぇ。ルーミア.....お前でなければいけない)


「決めたぞルーミア。俺は本気で.....お前を殺す」


「.....そう。なら来なさい」


和也は強く地を踏み込み、そして蹴り出す。


(ルーミアは遠距離攻撃が得意な妖怪。なら近距離なら.....)


ルーミアとは目の鼻の先。右手に持っている剣を下段から上段に向けて妖力を込めて強く振り上げる。


そして、和也の剣と何かがぶつかり合う甲高い音が辺りに反響し、地を震わす。


「なんだと!?」


「遠距離が得意なら近接は苦手とでも思ったの?甘いわね。そんな簡単に考えていいほど大妖怪って名は伊達じゃないのよ」


鍔迫り合いの中、ルーミアを見ると触手は既に消えてしまっていた。代わりにルーミアの手に握られている赤黒く血が濁ったような色をした剣が和也の妖力が篭った一撃をいとも簡単に止めてしまっていた。


「だったら!」


和也は痛む左腕を無理矢理動かして二撃目を放つ。だがそれも、鎧の様にルーミアの身体を包んでいる黒いベールによって防がれて、その刃は彼女にまで到達しない。


「だから甘いって言ってるじゃない」


赤黒い剣が和也の剣を弾く。和也はルーミアから一旦距離を取る。だが、すぐにルーミアに斬りかかる。


和也は二刀流、そしてルーミアは一刀流。本数の差は決して軽いものではない。それでも、和也の刃はルーミアに届く事は無い。


激しい剣の打ち合いが続く。


剣と剣がぶつかり合う音がより一層、速さを増していく。和也の剣と刀の『二刀流』はことごとくルーミアに防がれる。一見、和也が押しているように見えるがーーールーミアは和也の攻撃を受けてもその場に留まったまま、一歩も動いていない。


妖力で強化された和也は、相当なスピードのはずだが、それを涼しい顔で全て受け切るルーミアはそれ以上の化け物だろう。


(このままだと勝てない.....。不意をついて、何とかルーミアに一撃を食らわせる!)


和也は、刀をルーミアに投げると同時に跳躍する。妖力で強化された和也から放たれた刀は閃光の如きスピードで真っ直ぐルーミアに飛んでいき、その目先に迫る。


まさか、自分の武器を投げてくるとは思いもしなかったルーミアは少し驚きの表情を見せるが、すぐに表情が殺意の篭ったものに戻る。そして、かなりの速度で飛んできた刀を、半身になって逸らし簡単に避けてみせる。


「ここだッ!」


ルーミアが刀を避ける為に目線を逸らした瞬間ーーー和也はその僅かなの隙をついて、一気にルーミアに詰め寄る。


「.......」


「はぁぁぁッ!」


和也は、自分の今出せる全力でルーミアに一撃を叩き込む。


(確かな手応えはあった.....。倒してなくてもダメージぐらいは.....)


和也の不意をついた攻撃は、迷うこと無くルーミアに一太刀を浴びせた。その余りの威力に大地が削れ、舞い上がった砂埃が二人の姿を霧がかかったかのように隠している。


だが、突然自分の身体に異変が起こる。


「ゴホッ!....ゴホッ!.....なんだ?これ?」


込み上げてくる咳を手でせき止めようとする。だがその咳は勢いは凄まじく、咳き込んでしまう。


だが、そこで和也は違和感に気づいた。手にべっとりと何か付いてる事に感覚的に感じた。


手を口元から離す。


そして、掌を開き、違和感の正体を確認する。


そこには.....。




ーー『紅く濁った血液』が付いていた。




それを確認すると、今まで溜まっていたものが歯止めが効かなくなる。


手で口元を塞ぐが咳が止められない。


そして、それと同時に出される吐血が段々とその量と濃さを増していく。遂に和也は苦しくなり膝を地面についてしまった。


「ど...どうして?」


「.....どうやら時間切れのようね」


「ッ!?」


和也がその声に反応して周りを見ると、さっきまで砂埃がたっていた大地は砂が晴れて、開けていた。そして、声の主ルーミアは俺の目の前に平然と立っていた。


だがそれ以上に驚いたのが.....。


「.....なんでダメージが無いんだ」


ルーミアの身体にはさっきの攻撃の傷が一切無かった。


(確かに感触はあった!なのに何故!?)


「何故、私が無傷なのかは後に話すとして…まず立ちなさい」


ルーミアが和也の肩に手を乗せる。和也がその行動を不自然に思っていると急に、肩がジンジンと熱くなってくる。


「うぉ!?」


ルーミアが肩に触れた所から妖力が流れ込んでくる。さっきの攻撃でゼロに等しかった力が段々戻ってくる。風穴が開いていた肩も少しだけだが、傷口が小さくなって出血量も減った。


力が元に戻り、和也は膝をついていた身体を起こす。


「…どういうつもりだ」


「そんな怖い顔で睨まないでよ。私は貴方を助けたのよ」


(さっきまで殺そうとした奴が何言ってんだ)


ルーミアの態度はさっきと一変して、魔女の森で初めて出会った頃の優しい雰囲気に似ていた。先程までひしひしと感じていた殺気は一切感じられない。


だからと言って油断する事はない。何時でも動ける様に準備をしておく。


「なんで俺を助けた?」


和也がそう聞くとルーミアはより一層柔らかい表情になり、笑みまで俺に見せている。和也はそれに不気味さを覚えた。


「突然だけど貴方に決意を聞こうと思ってね?まぁそれの答え次第では本気で貴方を殺すかもしれないけど」


俺はそれを最初は何かの冗談かと思った。だけど、ルーミアの表情、話す時の姿勢から見ても、それは本気の言葉だった。とても嘘をついているようには見えなかった。


つまり、これからされるルーミアからの質問に上手く答えられなければ本当に死ぬかもしれないという事だ。


その時になったら、俺はもちろん抵抗はするが、今まで闘ってきて分かった事がある。



ーー俺はまだこの人には勝てない。



感覚的にそう思ってしまった。この人とは、まだ力の差があり過ぎる。記憶も失い、戦闘経験も浅い俺が勝てる相手じゃなかった。格が違うとでも言えばいいんだろうか。だから、これに勝てた麗奈は本当に強いんだと改めて思った。


これは俺の運命を左右する重要な事だ。これに答えられなければ.........死ぬ。


和也はルーミアの言葉を息を飲んで待つ。そして、ルーミアが口を開いた。



「麗奈の事.....どう想っているの?」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ルーミアと和也の戦闘が行われる中、こちらでも、もうひとつの物語が進もうとしていた。



〜幻想郷上空〜


麗奈は今出せるトップスピードで幻想郷の空を駆けていた。春の兆しを見せる幻想郷の空はまだ寒く、ピリピリと冷たい風が麗奈の傷口を擽る。だが、そんな事お構い無しに駆け抜けていた。


傷を負い、その痛みが残る麗奈を突き動かす想いはただ一つ。


「和也.....死なないでね」


和也を思う気持ちだけが彼女をその場所に向かわせている。


だが、そんな麗奈は突然立ち止まる。


(おかしい.....。今頃とっくに和也の所に着いていてもおかしくない。なのに一向に進んでいる気がしないのは何故?)


麗奈は違和感を感じ、周りを見渡す。


常人から見れば、一見何も無い綺麗な青空だが.....。


(.....空気に妖力の淀みがある。幻術系の妖術のようね)


何を思ったか麗奈は静かに目を閉じる。


(こういうのは目で見てはダメ。心を落ち着かせて、心の瞳.....心眼で見ないと術は破れない)


極限集中の賜物である心眼で幻想郷の景色を想像する。幻術系の妖術とはかけられたことを把握するのが困難なだけあって、その術の存在に気づいてしまえば破るのは容易だ。


幻想郷を飛び回る博麗の巫女にとって、飛ぶ時の景色とは重要なものだ。どう行けばこの景色が見える、巫女とはその全てを覚えてこそなんぼの役柄だ。


神社から十五分。その間の景色を脳内で再生する。そこで景色が食い違えば、術が……とける。


そして、目を開けば、そこは神社の境内だった。


「……そう。最初から騙されていたのね。全く私とした事が冷静さを欠いていたわ」


麗奈は自分の不甲斐なさに頭を掻く。進んでいるつもりでここにずっと無様に立っていたのだ。


「そりゃ頭も掻きたくなるわよね…。それで?こんな事した奴は誰かしら?出てくるなら早く出てきなさい!こっちも急いでんのよ」


麗奈がそう呼び掛けると神社の影から人影が現れた。


金色の瞳に金色の髪。ゆったりとした長袖ロングスカートの服に青い前掛けのような服を被せている。漢服のような中華風の装いで頭には二つの角が付いた帽子を被っている。


そして、最大の特徴は後ろについた九本の尻尾だ。


「……貴方は」


「久しぶりだな。博麗麗奈」


かつて存在した妖怪の中で、群を抜いて強大で凶悪な妖怪【九尾】


様々な伝説があるが、大体の伝説に共通する事はその美しい容姿で王に溺愛され、国を滅ぼしかねない力を持つということだろう。


そして、彼女の服装はその主と似たもので統一されている。それはつまり、主への忠誠心を示すと同時に主の所有物であることを示している。

主の所有物である彼女を攻撃したらその主に背いたことと同等の意味がある。そして、その逆もあるという事だ。


「.....紫の式神で八雲の名を持つ貴方が博麗の巫女の邪魔をするなんて、とても賢明な判断とは言えないわね」


「今の私は紫様の式神【八雲藍】ではない。ただの九尾【藍】だ。今から私が行うことは単なる妖怪の戯れだ」


「あっそ。それで何の用なのよ?さっきも言ったけど私は忙しいの」


「それこそ賢明な貴方なら分かっているではないか?」


麗奈は目を細めて、藍を睨みつける。


その際に全身を霊力で強化する。その行動は普段の麗奈であればなんとでもない行為だったが、今の麗奈は手負い。その行動の余波は強化された自身の身体に『痛み』となって帰ってくる。


包帯が巻いてある脇腹の傷口が開き、白いはずだった包帯を赤い布に変えていく。


「私が言うのもなんだが…いいのか?自分の身体を虐めるような行動をして」


「アンタに心配される筋合いはないわ。それに今は自分の心配してるより…………アイツの事が気になってね」


(そう…こんな会話をしている合間にも、アイツは戦っている。私の目標はそんなアイツを救いに行く事。……それを邪魔する奴がいれば、そいつは、、)


「ぶっ飛ばすしかないわね」


麗奈は腰に差している鞘から自分の愛刀を抜く。それを持つ右手は少し震えていた。


「苦しいなら苦しいと言ったらどうだ?貴方が今ここで刀を収めるなら、私は何もしないと誓おう。私も出来るなら無駄な戦闘はしたくない」


「それで?私が刀を収めたらアイツの元へ行かせてくれるの」


「いいや。事が済むまで、私とこの神社に居てもらう」


それを聞くと、麗奈は震える右手に力を入れて握り直す。それを見て、藍は警戒を強める。


「それを聞いて私が諦めるとも思ってるのかしら?」


「それが出来たら私も苦労はしないのだがな」


もう言葉はいらない。両者の思考はもう固まった。


互いに自分が最も得意とする構えで、敵を迎え撃とうとする。麗奈は刀を下段に構えて、藍は腕を袖の中に入れ、妖力で創った弾『妖弾』が一つ、二つと彼女の周りに出現する。


麗奈は痛む身体に鞭を打ち、藍に突撃を開始する。脚を踏み出すと同時に、持っている札を三枚、藍に向かって投げる。麗奈は札と並行して、駆けだす。


藍は落ち着いて、三枚の札を撃ち落とす。


「…!?」


撃ち落とされた札は起爆するかと思いきや、煙を放出して、麗奈の姿をすっぽりと隠した。


「真ん中……と見せかけて上か!」


麗奈の陽動は意図を見抜かれ、失敗する。藍が上を見ると、煙を飛び越えて斬り掛かろうとしている麗奈がいた。

藍は三発の妖弾を麗奈に向けて、発射する。発射された弾は真っ直ぐ麗奈に飛んでいく。そして、麗奈の腹を貫いた。

だが、貫かれた麗奈は顔色一つ変えない。藍が不思議に思っていると、、


「ッ!?こちらも囮か!」


倒された麗奈の体は透けて、核になっていた札が顕になる。札はその場で役目を終えて、燃え尽きた。

それを見届けた藍は自分の背後に妙な気配がして振り向こうとする。

だが、そこには背後に回り込んでいた麗奈がいた。


「……博麗式剣術【浮月】」


腰を低くして刀を振り上げる麗奈。藍はそれに咄嗟に気づき、背後に飛ぶ。間一髪の所で刀身が藍に当たることは無かった。


「惜しかったわね」


「そうだな」


藍は自分の肩を押さえてそう言う。藍の肩は刃が当たった訳でもないのに血が流れていた。


(……油断した。まさか斬撃が飛んでくるとは思わなかった。だが、このくらいの傷は問題ない)


藍は傷に妖力を流し込み、回復させる。傷はあっという間に元通りになった。


「ホント反則よね。こっちは全力で灯しても治らないってなのに」


「それが人間と妖怪の差だ。諦めろ」


「それじゃあ、アンタにこれは出来るかしら?」


麗奈がそう言うと、彼女の周りに風が舞い起こる。藍にはそれが霊力で起こした風だということがすぐに分かった。そして、彼女が何をしようとしているのか、それも大体見当はついていた。


「博麗式剣術【剣舞】か。確かその技は、自身が剣を振るたびに力、霊力といった能力が上がっていくという技。最初は名前こそ無かったが、貴方の剣の太刀筋があまりにも美しく、そして巫女が踊るという『神楽』に似ていたことから、その名がついた」


「よく知ってるわね。なら…覚悟は出来たんでしょうね」


麗奈が霊力の風を纏いながら、ゆっくりと藍に近づく。


「確かに強力な力だが、その反面、力の行使に相当身体に無理をかけるはずだ。貴方の体では持って、後数分が限度だろう」


「アンタを倒すのに数分あれば事足りるわ」


「痩せ我慢は良したらどうだ?本来の力なら私如き、五分もかからんだろう。だが、今の貴方は手負い。そんな体で【剣舞】を使っては体が持たないだろう」


そう言っても、麗奈は聞かずに藍に向かって歩いている。彼女の脇腹はルーミアとの戦闘でやられ、傷つき、血が流れている。そして、今【剣舞】を使い、その量を増やしてしまっている。

藍は素直に心配していた。いつも紫様が気にかけている麗奈をこんな事で死なせてしまっても良いものかと。ここで死なれては不味い。

だが、そんな藍の心配をよそに麗奈は力を使い、自身の体を傷つけていた。


「覚えておきなさい式神。人間の想いってのはね…時に、恐ろしい力に変わったりするもんなのよ」


その瞬間、藍の視界から麗奈の姿が消えた。普通の妖怪よりも格段に動体視力が九尾でもその姿は見えなかった。

藍は咄嗟に自分を妖力の衣で包む。すると、姿は見えないが何かがぶつかっている甲高い音が鳴っている。音のした方を向くと、衣が少し削れていた。


藍はそれを見て、妖力の衣を強く、濃くしていく。依然として麗奈の姿は見えない。分かっていることは、今まさに攻撃を受けていて、衣が段々削られていっているという事だけ。

そして、確実に麗奈の刃はその深さを増していっている。


(これが【剣舞】の力。攻撃をする度に強くなってきている。こちらも何とかして反撃しなければ…)


反撃しようと妖弾を撃とうとしても、その分防御に回す妖力が少なくなる。そうすると、刃が藍に届いてしまう。麗奈は相当な数、藍に剣を振った。そうなると、藍自身に当たった攻撃は想像もしたくない程のダメージになるだろう。


(だが、私の攻撃が当たれば、そこでカウントストップ。威力は一番最弱まで戻るはずだ)


藍は一か八か、攻撃に転じる。妖弾を自身の周りに円形状に作り、麗奈が突撃しにくい様にした。そして、その中の一つの妖弾が弾けて消えた。つまり麗奈がそこから向かって来ているということ。


「そこかッ!」


藍はここぞとばかりに、防御をやめ、全力の弾幕を放つ。だが、手応えはない。


「残念だったわね。これで終わりよ!」


声がする方を見ると、藍の頭上から麗奈の刀が既に振り下ろされていた。

それを藍は頭部に受ける。

麗奈の力で強化された一撃は、藍ごと地面をへこませ、地割れを起こさせた。さすがの九尾もその一撃を食らって、立っては居られなかった。藍はクレーターとなった地面に力無く倒れた。


「安心しなさい。峰打ちよ」


麗奈の言った通り、藍に外傷はない。意識もちゃんとあった。


「でもやり過ぎたかしら?」


「何故……何故だ?」


「アンタまだ喋れたの!?どんだけタフなのよ」


藍は地に伏せたまま、体をピクリとも動かさない。いや、動かせない。


「まぁいいわ。私はこれからアイツのところ行かなきゃいけないから」


麗奈はそう言っても、飛び立とうとする。


「少し……待ってくれ」


だが、藍に呼び止められた。仕方なく麗奈は倒れている藍の頭元にしゃがんだ。


「それで一体なんのなの?」


麗奈は体を地に伏せ、ようやく顔を横に向けられる様になった藍に聞いた。


「何故…貴方は…あの男に固執する」


「あの男?」


「あの和也という…男だ。博麗神社に住まわせているそうじゃないか」


「固執ってのがイマイチピンと来ないわね?」


麗奈は首を傾げる。やっと体を起こせるようになった藍が麗奈を見つめる。





「では問おう……………貴方はあの男(和也)をどう想っている?」





麗奈の力は別に能力とかじゃないです。能力はのちのち出ます。和也も同様です。

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