二十五話 大妖怪の思惑
「.....ただの人間だ...妖怪。お前は俺の大切な人を傷つけた。その代償.....お前の命で償って貰う...」
和也は、二本の剣をルーミアにその剣先を向ける。ルーミアは和也から溢れ出す妖力に一歩後ずさる。そして、決意する。
「.....私も手を抜けるほど甘くはなさそうね」
ルーミアは自分の右手を真っ直ぐ伸ばした。
「.......?」
「.....私はねわざわざ貴方達を呼び出すために、この空間を作り出したのだけど.....もうその必要も無いようだから」
ルーミアがそう言うと、突然黒い煙がルーミアの突き出した右手に集まり出した。そして、それと同時に和也の周りから幻想郷中を覆っていた、太陽を遮る漆黒の空間が段々消えていく。
「これは.....」
各地に散っていた妖力が一斉にある場所に集まっている。
.....そうルーミアの右手にだ。
妖力は黒い煙として分散されていた。それが今ルーミアの下に集まって来ていた。そして、その右手に黒い玉として凝縮されている。その玉に凄まじい量の妖力が集まっている。
(止めないといけないッ!)
俺の直感がそう言っている。だが身体は動かない。脳では分かっているのに身体がついてこない。身体自体が近づきたくないと言っているように感じた。
数分だろうか。俺は動けないまま幻想郷は闇から光に変わり、失われていた朝が来た。だが、その代わりに.....。
「正真正銘これが私の本気よ」
「.......っ!?」
ルーミアはそう言って、右手を握りしめて妖力が集められた黒玉を自分に吸収させる。すると先程までとは比べ物にならない妖力量にとなる。そして、そのルーミアを包むように黒い妖力のベールが全身を覆っていた。
その姿はまさに.....。
「怪物め.....」
「.....貴方にだけには言われたくない」
ルーミアの妖力は麗奈と戦っていた時と数十倍に膨れ上がっていた。彼女の妖力が慣れ親しんだ身体に戻ってきた事によって感じ取れる妖力の量より、体感ではその量の数段圧力が増していた。
「.........」
「どうかしたのかしら?」
ーーおかしい。
(麗奈は確かルーミアには一度勝っているはずだ。それも本気のルーミアと.......。ならさっきまで手加減しているルーミアに麗奈が劣るわけがない。何故なんだ?)
そして、俺は一つの答えに行き着いた。
「.....そういうことか」
「.....?」
「やっとお前達の思惑が分かったって事だよ」
ルーミアは無言のまま和也を見つめる。そして、和也はルーミアの返答を聞かずに言葉を続ける。
「麗奈を含め、ルーミア!お前達はグルだった。わざとこの異変を起こすことを前々から話していたんだろ?そして、俺が帰ってきた時を見計らって異変を起こした。俺が予想するに異変を画策した理由は、俺の修行が目的か?だから麗奈も、あれだけ反対していた俺の異変解決もすんなりと許した。安全だと分かっているから。.....どうだ大体合っているだろう?」
「.........」
「無言は肯定と見なすぞ」
無言を貫いているルーミア。その表情からは感情が読み取れない。それを見て、和也は剣を下ろす。
「.....もうこれ以上戦う理由がない。俺は麗奈の所へ行くぞ。どうせ麗奈もああ見えて対した傷じゃないんだろ」
俺が背を向けて帰ろうとした時、ルーミアが口を開いた。
「答え合わせ.....していかないの?」
「する必要も無いだろ?」
「聞いた方がいいわよ.....貴方のために」
和也はそれを聞いて、歩みを止めた。そして、ルーミアに慌てて向き直る。
「.....お前何する気だ」
「言ったでしょ?答え合わせよ」
ルーミアの一言一言にただならぬ殺気がこもっている。和也は下ろした剣を再びルーミアに向ける。
そして、ルーミアは和也の元へ歩き出しながら言葉を発する。
「貴方の言っていることは大体合っているわ。.....でもね?肝心な所だけが合っていないのよ」
ルーミアは段々和也に近づいてくる。和也はより一層警戒を強める。だが、そんな和也をお構い無しにルーミアは近づく。
.....挑発するように妖力を撒き散らしながら
和也はいっそのこと斬りかかろうかと思った。だけど、それは出来なかった。.....ルーミアのあの余裕は、何から来ているのか分からなかったからだ。無闇に突撃するのは正しい判断じゃない。
いや、それは言い訳だ。恐れているんだ。
ーー大妖怪の本気の殺意に
手の震えがルーミアが近づくにつれて大きくなる。だが、それを悟られないように強気でいないと。
「.....答えを教えてくれよ」
「それはね.....」
そう言うと、さっきまで歩いていたはずのルーミアが突然目の前まで近づいていた。
あまりの速さに和也は一瞬の膠着した。
その時にルーミアは和也の耳下に口を近づけ、甘い吐息を漏らしながら言った。
「.....私は本気だっていうことよ」
和也は咄嗟にルーミアから離れる。
「.....危なかった」
先程まで和也がいた所を見ると、地面から太くて長い黒い針が飛び出していた。あれを避けなければ心臓を一突きにやられていた。
突然の死の恐怖に冷汗が流れる。
一方のルーミアは何処か嬉しそうな表情をしていた。
「言ったはずよ。私は本気だって」
「どういう事だ!」
和也がそう言うと、ルーミアは突然静かになった。そして、表情が段々とこわばっていくのが分かる。
「.....それを話す前に」
ルーミアは指を弾いて音を鳴らす。和也にはそれがどういう意図があってやったのかわからなかった。
.....数分前
〜スキマ〜
何も無い、ただただ暗く広すぎる空間には妖怪と人間。
【賢者】紫と【博麗の巫女】博麗麗奈、その両名がこの光景を何も言わずに見ていた。
異変を解決する筈の博麗の巫女が異変を眺めている。そんな異様な光景を見ている者はここに居る紫以外はいない。博麗の巫女の腕と腹からは血が流れている。その血液は麗奈が貼っていた札を紅に染めていた。
「.....全くやってくれたわね。まぁ私が油断したのが悪いのか」
麗奈は血に染まった札を違う札に取り替えた。脇腹にも包帯を巻いてはいるが止血は出来ても、痛みまでは取れない。今も激痛が麗奈を襲っている。ここまで血を流したのはいつぶりだろ、と麗奈は考えていた。
「それにしても、アイツのあの力.....紫.....何か知ってるんじゃないの?」
麗奈を隣で戦況を見守っている紫に声をかけた。だが、それに返答はない。
座って治療に専念している麗奈は紫の表情は見えなかった。
「.....紫?」
「.....何かしら?」
「.....いや何も無い」
麗奈は紫を怪しむように見つめる。表情は確かに見えなかったが、麗奈は紫に何か不穏な気配を感じ取った。
紫と麗奈の関係は深いものだ。麗奈は生まれてから今まで紫に支えてもらっている。だからこそ、麗奈は紫という妖怪が読めない。だけど、それを紫に直接聞くことは無い。聞いても大体答えてはくれないからだ。
麗奈は一旦紫のことは置いといて和也とルーミアが映っているスキマを覗く。
そこにいる二人は見つめ合って何かを話しているようだった。スキマが開いている距離が二人のいる場所と遠くて音声までは聞こえない。だけど、さっきまで太陽を遮っていたルーミアの能力が解けていた。
(ルーミア.....何を考えてるの?)
この異変は修行だけの目的だったはず。なのに私には本気で攻撃し戦闘不能にして、あまつさえ散らばらせていた妖力を取り込んで本気状態になっている。そして、和也と一体一で何かを話しているようだし。
(私を先に離脱させた.....という事はアイツとサシで話したいことがあった?.....ルーミアの狙いはなんなの?)
私が考えながらその状況を見ていると、突然和也の様子がおかしくなった。それと同時にルーミアがゆっくりと和也に迫っている。
「和也ッ!逃げなさいッ!」
声は届かないと分かっていても叫んでしまう。ルーミアから感じる妖力が妙に殺気立っている。
私が叫んでも和也はそのまま動かず、ルーミアは和也の目の前まで来てしまう。
ルーミアは和也の耳元で何かを囁いている。そして、ルーミアの足元が動くのを見て、この後起こることが予測出来てしまって私は思わず目を閉じる。
「.....大丈夫よ」
紫がそう言ったのを聞いて恐る恐る目を開ける。和也は間一髪の所で躱していた。私はほっと胸を撫で下ろす。
だが、ルーミアはまた奇妙な動きを見せる。ルーミアは自分の指を弾いて音を出した。
すると、いきなりスキマが閉じてしまった。
「ちょっと!何してんのよ!」
「やられたわね。.....全て消えてしまったようね。せっかく用意したのに.....」
「どうゆうことよ!」
和也が危ない所でスキマが閉じてしまったことによって、少し私の気が立ってしまっている。
「ルーミアの能力で私のスキマが封じられてしまったという事よ」
「つまりもうあっちの状況は確認出来ないってこと?」
「近くにスキマを開けば行けるだろうけど.....。今の貴方の状態だと死ぬだけよ?」
確かに紫が言っていることは正しい。今の私は霊力の制御が傷のせいで出来ない状態。今ここで行っても瞬殺されて終わりだろう。
「.....でも.....それでも」
麗奈は納得いかないような顔をしている。それを見て紫はため息をついた。
「.........分かったわ」
「......ありがとう」
「ただし条件があるわ」
紫が指定した条件は二つ。
一つ目は絶対に戦闘に関わらないこと。
二つ目はスキマを開く位置は神社からという事。それはルーミアに気づかれないようにするためと紫は言ったけど、それは違う。これは紫のいい意味での意地悪だろう。
傷はまだ痛む。だけど今はそんなの関係ない。早くアイツの下に行かなきゃ。
紫にスキマを開いて貰い、それに私は飛び込んだ。
紫はそれをただ暗い顔して見送った。
「.......【〜〜】そろそろ切れるわよ」




