二十七話 答え
「………は?」
和也はあまりに訳の分からない質問に素っ頓狂な声をあげる。言葉の真実を確かめるためルーミアの顔を疑うような目で見る。
そこで見たのは、至って真剣な顔で俺を見つめる彼女だった。その表情から確認せずとも彼女は本気で言っていることが分かった。
(でも何故だ?何故今聞いたんだ?)
聞く時間なら他にも沢山あったはず。そもそもなんで、そんな質問をしてくるんだ?俺が麗奈にどんな感情を抱いていても、ルーミアには関係が無い話だ。別に答えなくでもいい。
だが、和也の性格上、質問を無下に断る事は出来ない。それも相手は真剣に聞いてきている。
和也は苦い顔をする。断ろうとしている自分に多少罪悪感がある。今も尚、ルーミアは真剣な眼差しで和也を見つめていた。
「……分かりましたよ。答えますよ」
俺は断る事が出来なかった。こんなに真剣に聞いてくるんだから、何か意味があるんだろう。それに答えないって選択を選んだとしたら、、
「危なかったわね。もう少し返事が遅かったら首が飛んでいたわよ」
……間違えなくてよかった。これ答えなかったら完全に殺されてた。今の言葉、冗談に聞こえるけど本気で言っているから怖い。
「でも、なんでそんな事聞いてきたんですか?」
「言ったでしょ?貴方の決意を聞こうと思ったの。いいからつべこべ言わず、さっさと言いなさい」
ルーミアの押しがどんどん強くなってきている。なんで、そんなに聞きたがるのかが分からない。
そんな真剣な顔で聞かれても……。
……気恥しい。他人への想いをいきなり聞かれても答えづらい―それも相手は茶化すつもりのない大妖怪だ。変な事言ったら殺される。
「どうしたの?まさか、恥ずかしいなんて言わないでしょうね」
「べ、別にそうゆう訳じゃない!ただ……」
「ただ……?」
和也はわざと視線をずらし、そっぽを向く。
「色んな想いがあるから答えづらいっていうか……」
それを聞いたルーミアからの反応はない。和也は怖くなって身を構える。だが、聞こえてきたのははルーミアの笑い声だった。
和也は視線をルーミアに合わせた。ルーミアは腹を抱えて笑っている。
「何笑ってんだよ!」
「い、いやごめんなさい。つ、つい面白くてね?」
和也は笑っているルーミアを見て、少しだけ不機嫌になる。あれだけ爆笑されれば、イラつきもする。
ルーミアは笑い続けていたが、段々、爆笑が微笑に変わり、優しい笑顔でこちらに語りかけてくる。
「私が悪かったわね。今度は、ちゃんと私から貴方に決意を聞くことにするわ。早速――貴方は麗奈が危険な目に遭っていたら助けてあげられますか?」
相変わらず、答えて何になると思う質問が飛んでくるが、和也は宣言する。
「あぁ――もちろん助けるし、守ってみせる…」
「………そして、彼女を信用し、信用される人になる事を誓いますか?」
「あったりまえだ!」
和也の返答に無言を持って答えるルーミア。和也は何かまずい事を言ったのではないかと心配になる。
そんな和也をよそに、ルーミアは密かに喜び、それに想いを馳せていた。
「あ、あの〜?ルーミアさん?」
「……何かしら?」
「合格ということでよろしんでしょうか?」
ルーミアは、さっきから自分に対する恐怖を隠すつもりがない和也に――何故だろう。急に意地悪したくなってきた。
(そうだ!いいこと思いついた!)
ジロジロと様子を伺っている和也にルーミアは敢えて強気な態度を取る。
「合格――って判断はまだ早いわね」
「えっ?まさか殺られますか?僕?」
「まさか。でも〜、守るっていうなら、それなりの実力を見せていただかないと」
和也の実力はさっき散々見せてもらったから、文句無しに合格なんだけど――何だろう。この虐めたくなるぐらいの怯えよう。
「じゃあ、具体的にどうすれば?」
「そうね〜?……単純に一撃勝負にしない?貴方は攻め、私が受けになる。そして、貴方は私に攻撃を当てれば勝ち、私はそれを受け止めたら勝ちってことで」
「はっ!?そんなの勝てるわけないだろ!?」
ルーミアからの提案に、和也は早速ネガティブ発言をする。それもそうだ。あれだけ、力の差を見せつけられては戦意も喪失する。
「まぁまぁ諦めずやってみなさいよ。もしかしたら勝てるかもしれないわよ?」
金髪美人の彼女が、笑顔でそんな冗談を言ってくる。はっきり言って、和也がルーミアに勝てる可能性は砂漠で針を見つけるぐらい難しい。
魔力、霊力、妖力の量はそのまま所有者の強さとなる。和也はルーミアの妖力で一時的に力を取り戻したが、その量は魔石を使った時と同じくらい。その魔石を使っても、倒せなかった相手に勝てる道理はない。そして、貰った妖力でさえも、馴染んでいないため、勝手に放出してしまっている。
「……本気で言ってるのか?俺が勝てると?」
「当たり前でしょう?私が嘘つくと思ってるの?」
彼女はそんな事を言ってるが、全く信用出来ない。理由としては戦闘時から今の態度は明らかに不自然過ぎる。まるで、最初から俺を殺す気が無かったみたいだ。
「………はぁ。分かった。その勝負受けて立とう。やるからには絶対に負けないからな」
「――えぇ。殺すつもりでかかって来なさい」
ルーミアの勝負宣言から、時間は前後して―――、、
桜が咲き誇り、幻想的な風景が見られる博麗神社ーーその情景に水を差す、半壊した境内で話す二人。
互いに、服は破け、体はボロボロ。一人に関しては出血が酷い。
今に倒れてもおかしくはない勝利者――博麗麗奈。
外傷は無いが、未だに意識が朦朧としている敗北者――八雲藍。
この二人の問答は既に始まっていた。
「……は?意味がわからないんだけど?」
そう言って、困惑した顔をする麗奈。一方の藍は脳への衝撃から、一時的に麻痺していた体各所の神経が戻り、動作を確認している。まだ完全には、回復はしていないようだ。
そんな藍が麗奈に向けてした質問――『和也への想い』
麗奈は、藍が何故そんな事を聞きたがるのか、それが分からなかった。
「……博麗の巫女とは、何者にも侵されない、侵されてはいけない絶対不動の権限を持っている。それが何故……幻想郷に来て、一年――記憶もない、大した力も無い青年にそこまで肩入れしているのだ」
(あぁ〜、そうゆうこと)
麗奈は何かを悟った。
藍の目の奥から見える激情は、怒りの感情。当人の表情には一切出ていない。だが、言葉の節々に感情が見え隠れしている事から、抑えきれてないんだろう。紫の式神である彼女が、こんなにも感情を表に出しているのは、私は初めて見た気がする。
それより、彼女の言葉から感じられる無知感――どうにも引っかかる。
この九尾は紫の式神。紫のやっている事なら、何でも知っているはずのお付き人。だが、おかしい。
紫が連れてきたはずの和也の事を、まるで他人の様な言い方をする。
(まさか、伝えてないの?……だとしたら、どうして)
紫の行動が読めない。自分の式神にも、内緒にしなければいけない事情があるということか。
それは和也の経歴に理由があるのか、それとも……。いや、今はそんな事どうでもいい。
「別に肩入れなんてしてないわ。ただ単にほっとけないだけよ」
「そういう割には仲がいいみたいだが?」
「そりゃ、一年も一緒に暮らしてるんだから、仲良くなるのは当然でしょ。そもそも、私とアイツが仲良くなって、何か都合が悪いことがあるの?」
麗奈がそう言うと、藍は黙りになってしまう。麗奈は麗奈でこれ以上、この話を掘り下げては欲しくない。
「はいっ!これでお話は終わりっ!私はアイツの所に向かわなきゃ」
麗奈が、話を続けさせまいと、強制的に話を締め、逃げるように飛び立とうとする。
だが、簡単に行かせてしまうほど、藍は甘くはなかった。
しかし、今の藍に麗奈を止められる程の力は残っていない――そう、力は残っていないのだ。
なら、どうやって止める?残り少ない力を振り絞って暴力に訴えるか?いや、それこそ愚策中の愚策。それなら、どうする?
――あるじゃないか。動物や、昆虫には使うことが出来ない………そう言語の力がッ!
藍の今の戦闘能力は、脳への衝撃を受けて皆無に等しい。だが、言葉はどうだ?脳への衝撃を受けている為、処理時間はかかるが、その分、相手へ的確な言葉を当てれば、その威力は暴力を上回る。
「貴方は、あの男を……好いているな」
麗奈は、その言葉を聞いて立ち止まる。
「貴方がこのまま答えずに、この場を立ち去るなら、私はこの事を紫様に報告する」
藍の言葉の力は、麗奈にとっては効果抜群だった。麗奈が苦い顔をして、振り返るのがわかる。
「何言ってんのよ!?私がアイツのこと好きなわけないでしょ!」
反応してしまった麗奈は、もう逃げられなくなってしまった。体は宙に浮き、意識は前に行こうとしているが、麗奈の心がそれを許さない。
ここで、藍を無視して、行ってしまった場合を考えると厳しい状況になるからだ。
なるべく、リスクよりノーリスクをとりたい麗奈としては無視はできない。
「それでは答えてもらおう……貴方がどう思っているのかを。もちろん、今ここで聞いたことは一切他言しない。それは誓おう」
藍の言葉を、まるごと信用するわけにはいかない。だけど、無視するわけにはいけない。
「……別に何とも思ってないわ。アイツはただの居候よ」
……嘘をついた。
(いや、別に嘘をついちゃいけないなんてことはないし――そもそも、なんで私がそんなこと答えないといけないのよ!)
自問自答をする麗奈。一方の藍は大きくため息をついた。そして、徐ろに――何やら手帳らしきものを取り出した。
「三月二十八日――巫女はルーミアとの会合後、即座に布団に潜り、眠る。
三月二十九日――この日は特に無し」
藍は手帳に書かれている内容を淡々と読み上げる。今、読み上げてるのは、ルーミアが麗奈に初めて提案を持ってきた日からの麗奈の様子だ。
この狐……ずっと監視してたのか。
「三月三十日――ルーミアとの二度目の会合。何やら雰囲気がおかしい。
三月三十一日――どこかに出かける前に、『和也〜♡』と唸りながら、枕を抱き、ゴロゴロと回っていた」
「…………え?」
理解するのに、二秒も要したが、麗奈のそれからの反応は凄まじかった。
あの幻想郷一早いと言われる天狗を超えそうなスピードで、藍の手帳を取るや、お札を貼って燃やし尽くした。
「な、なにかあったかしら?」
「言っておくが、手帳を処分したところで、私が覚えているのだから意味がないぞ」
「なら、お前も殺るまでだ!」
藍はもう一度、大きなため息をついた。藍まで迫った刃は、藍の首の直前で止まった。プルプルと刀身が震えている。麗奈を見ると、真っ赤に顔を染めていた。
「この事は紫様には言わない。だから、貴方の本当の気持ちを教えて欲しい。それだけだ」
首筋まで迫った刃は、ゆっくりと下げられた。まだ、麗奈の顔に赤みが残っている。
藍の本気の気持ちに応え、麗奈の口がゆっくり開く。
「私は……アイツのことが――――」
――春盛の幻想郷。
この神社でも桜が咲き、風が吹くと――まるで花々がダンスしているようだった。
そんな幻想郷だけに、幻想的な風景が見られる。
桜舞う神秘的な博麗神社に、頬を紅に染め、愛の言葉を口にする博麗の巫女こと博麗麗奈。
その風景も相まって、彼女自身も狂おしいほどに美しかった。それは、あの九尾が息を呑む程だった。




