二十一話 吸血鬼の思惑
〜紅魔館〜
俺は今深淵の闇の中を漂っている。それはもう絶望しかない闇の世界。希望も.....光もない。俺はそんな闇の中をただたださまよっている。
突如として迫り来る紫炎を纏い飛来してくる槍。緋の風が身を焦がす匂いと音はさながら炎で焼かれる罪人の気分だった。その尋常ならざる特異を受け、俺は.........
「ヴァァァァァァッ!!?.....ってあれ?」
「.....ようやく戻ってきたわね」
俺の帰還をそばで待っててくれたのは忘れもしないパチュリーだった。俺はその姿を見て涙した。
「貴方泣くほどつらかったの?」
「当たり前だろ!こっちは危うく死にかけたんだぞ!」
そう言って俺は戻ってきた感覚を噛み締めながら身体のあちこちを触る。
「よかった...身体はくっついてるな」
「何を大袈裟な。ただ二人にボコボコにされただけでしょ?」
「それが大問題なんだよ!それに元はと言えばパチュリーのせいだろ!」
全ての主悪の根源であるパチュリー容疑者に俺は怒りを露わにする。レミリアはなんとなく手加減してくれているのが分かるんだがフランは本気で来るから怖さしかない。
「あっそういえば二人は?」
「いるわよ。そこに」
パチュリーが指を指した方向にはテーブルがあり、そこには大人しく本を読んでるフランといつもどうりと言うか.....優雅にティータイムに勤しむレミリアの姿があった。
そして、俺が起きたのを気づいたのか、フランが本を閉じて歩いてきた。
「お兄様、ごめんなさい。浮気したのかと思って.....」
は?浮気?
「そうよ。和也...私という妻がありながら浮気なんて許されないわよ」
おい...ちょっと待てよ。この二人はなにを言っているんだ?レミリアは自分が妻だと証言している。そして、フランは浮気と言う全く心当たりのない単語を言葉にしている。
何か嫌な予感がする!
探せ!この二人の証言に繋がる証拠を!俺はこの紅魔館に来てから何か手がかりを見つけているはずだ!
.....あれだ!
俺が紅魔館に来て二日目。俺は大浴場に入っていた時、レミリア達の親父さんと会った。その時に親父さんは自分をこう名乗っていた。
「俺はお前のお義父さんになるモルス・スカーレットだ」
彼はそう言って自身を名乗った。最初は気にも止めなかったが今考えると、俺は何のためにこの紅魔館に招かれたのか。レミリア達の世話?いやいや、接していて分かったがこの子達は世話が必要な歳でもない。ならば何故そんな嘘までついてここに残そうとしたのか.....。それはつまり.....。
「すまない。二人ともソフィアさんを呼んできてくれるか?」
〜数分後〜
「どうしましたか?いきなり呼びつけて」
「すいません。どうしても確認しておきたい事があったので...」
俺の推測が正しければソフィアさんは俺に呼ばれることは事前に知っていたはずだ。だからそれなりの準備はしているはず。
「ソフィアさん.....。最初に聞きますが俺に隠している事はありませんか?」
「隠し事ですか?無いと思いますけど?」
ソフィアさんは意地でもしらばっくれるつもりらしい。なら俺も徹底的に問い詰めてやろう。この和也名探偵が。
「ソフィアさんは最初に俺にレミリア達の世話をしてくれと頼みました。だけどどうでしょう?彼女達は物を知らぬ子供ではない。それなのに何故今更俺に世話を頼んだんでしょうか?」
「ねぇねぇお姉様。和也がなんかカッコつけてるよ」
「そうねフラン。カッコつけてるわね」
彼女達の誹謗中傷はほっといて、俺はさらにソフィアさんを問い詰める。ソフィアさんはさっきの疑問を突きつけても表情は無のまま動かない。
「これではどうでしょう?貴方の夫のモルスさん。私は彼と浴場で少しお話をさせていただきました。その時に彼はこう言ったんです。【俺はお前のお義父さんになるモルス・スカーレットだ】と.....」
この話には少しだけ動揺が見えるソフィアさん。多分後でモルスさんはあのお説教を食らうと思うがそれは俺には関係ない。そして、ソフィアは開き直ったのかため息をついた。
「それで和也さんは何が言いたいのですか?」
「俺が言いたいのはつまり..........。俺をレミリアと結婚させるつもりでこの紅魔館に連れ込んだという事です!」
そう言うと辺りが静まり返る。レミリアもフランもパチュリーも何も反応しない。肝心のソフィアさんは笑いを堪えている。
「な、何がおかしんですか?」
「い、いや今更かよと思いまして....」
え?どゆこと?
「本当ならもうとっくに気づいていて了承してくれているもんだと勝手に思っていました。うふっ.....ごめんなさい.....笑いが止まらなくて」
とうとうソフィアさんは吹き出して笑っていた。レミリアとフランもつられて笑っている。パチュリーはなんだか呆れたような顔をしている。
「なっ...なんで笑うんだよ!」
「いやだってね?」
「そうね。あんなにカッコつけてる何を言い出すかと思えばそんな当たり前のことを言うなんてそりゃ笑うわよ」
俺とレミリアが結婚するのは当たり前のことなのか?いや違うだろ?
「レミリアはいいのか?俺と結婚するのは?」
「いいに決まってるじゃない。だって私が貴方を選んだんだもの」
「何だって!?」
「だーかーら、私がお母様に頼んで貴方を連れてこさせたの」
そうか。俺は端から推理を間違えていたのか。犯人はソフィアさんじゃなくてレミリアだったのか。くそ!俺が推理を間違うなんて!また推理の練り直しだ!って今はそんな場合じゃない!
「レミリア?なんで俺なんだ?」
「好きに理由がいるかしら?」
そう言ってレミリアは腕にくっついてくる。もうダメだ。会話が成立しない。俺は助けを求めてパチュリーを見る。パチュリーは俺が助けを求めてるのを見るとわざと目をそらして知らん顔をする。
それならフランだ。フランなら助けてくれる。俺はパチュリーから乗り換えフランに救援を頼む。
それに気づいたのかフランは俺の腕にくっついていたレミリアを引き離す。
「お姉様離れて!」
「ありがとうフラ...「お兄様は私の夫になるの。だからお姉様は諦めて!」.....?フラン何言ってるんだ!?」
「フラン?いくら私の愛しの妹だからってこれだけは譲れないと言ってるでしょ?」
フランまでもが俺の腕に腕を絡ませてがっちりホールドしている。両手をホールドされた俺は身動きが取れない。
「ねぇ!お兄様は私の方がいいよね?」
「いいえ、和也は私を選ぶに決まっているわ。そうでしょ?」
うわ...悪魔の質問がやってきた。別に俺は二人は嫌いじゃないし、好きなんだけど.....。結婚っていうのはちょっと.....。
「「さぁ!どっち!」」
決断の時だ。これを間違えたら殺される。昨日の悲劇が脳裏を過ぎる。どちらとも傷つけずにこの状況を収める手は.....。
「ごめん二人とも。君たちの好意は嬉しいけど.....。俺は幼い子に興味がないんだ。ごめん...?え?何それ.....何持ってるんですか二人とも!?」
「貴方.....。それは失言すぎるわよ」
パチュリーが呆れ声でそう言った。そうして俺は初めて自分の言った言葉の重みが理解出来た。
「おい.....ちょっと待ってくれ!落ち着いて!なっ?」
「私達を子供扱いして求婚を断った貴方が今更何を言っても許されないわよ。許されたかったら婚約するしかないわね。私と...」
「お兄様は私と一緒になるの!お姉様離れなさい!」
レミリアのグングニルとフランのレーヴァテインが交わる瞬間。彼女の凶器は交わる寸前で止まった。そして、パチュリーやソフィアさんの表情には先程までの余裕がなくなって戦闘態勢に入っていた。
「来ましたね」
「えぇ来たわね。あいつが...」
〜紅魔館 門前〜
「紅白の巫女はお帰り願います」
「それは無理な相談ね。アイツを返してもらうまではこっちも引けないわ」
この紅白の巫女装束。特徴的な服装から彼女が今代の巫女、博麗麗奈だと判断できた。確か主人様が言うには博麗の巫女は和也さんが紅魔館に来て四日目に来ると言っていたが本当に来るとは.....。
「門番.....そこをどきなさい。でなければ痛い目を見ることになるわよ」
「私も出来ることなら貴方とは争いたくは無いのですが.....。一応上司からの命令なので抵抗させてもらいます」
巫女は面倒くさそうに刀に手をかけた。それを見て私も構える。
この巫女との戦いは初めて。彼女がどう動き、どう攻撃してくるのかは分からない。だけどそれは相手も同じ。
見た限りだと刀を主に使う剣客。小細工なしのまさに真剣勝負だろう。
「最後の忠告よ。今すぐに退けば.....「くどいッ!」...そう。分かったわ。なら私も躊躇なく行かせてもらうわよッ!」
巫女は地面を強く蹴り、私に向けて突進してくる。さすがと言うべきかそのスピードは人間離れしている。
「それでも私も人間ではないのでッ!!ッハ!」
麗奈の刀と美鈴の腕が交差する。けれど、鋭い刃を持つ麗奈の愛刀"土影"の一太刀を美鈴は腕一本で受け止める。たが、その腕には少し血が滲む。
これ以上押し切れないと分かった麗奈は一度距離をとった。
「あんた...妙な技を使うわね」
「技ではなくこれは私の能力です。【気を使う程度の能力】それが私の能力です」
「教えてくれてありがとう。でも、いいの?敵にそんなこと教えて.....」
「貴方とは真正面から打ち合いたいので...」
それを聞いた彼女は何を思ったのか無言のまま。徐ろに服の中を探り出した。そして、一枚の札を刀に巻き付けた。
「貴方の本気に応えてあげる。でもこれで終わりよ」
「私も簡単に負ける気はありませんので.....。いざ勝負ッ!」
ーーその勝負は一瞬で終わりを迎えた。
そう一瞬で.....。
敗北した美鈴は気づいた時には地に伏せていた。何も大袈裟にではない。
勝負は秒.....いやコンマの速さで決着したのだ。
誰一人として彼女が何をしたのか分かった者はいない。
未だに何をされたか分からない美鈴。だが腹部には確かにやられたであろう激痛が証拠として残っている。
「一体.....なに.....が.....。ゴホッ!!」
「貴方の力は広範囲を強く守るのには適しているわ。だけど一点集中。狭い範囲に強烈な一撃を叩き込めばダメージは通る」
美鈴は薄れゆく意識の中で、麗奈の刀。その剣先を見る。
そこには先程まで刀身の腹に巻かれていた札が巻き付いていた。
それを確認して美鈴は意識を失った。
〜紅魔館 図書館〜
「パチェ.....見えたかしら」
「.....いいえ全く」
和也達紅魔館組はパチュリーの水晶玉で麗奈の戦闘を観戦していた。
先程の戦闘の意思疎通をしている二人の表情には驚きは無かった。それは博麗の巫女は強いと共通認識で分かりきっているという余裕なのか。それとも強いと知った上でそれでも尚勝てると思っているのか。
どちらにせよ二人には動揺というものがない。それに比べてフランは.....。
「え?今何したの?全く見えなかった.....」
二人と比べると多少なりとも動揺を見せている。
「でもなんで麗奈が.....。ソフィアさん手紙出してましたよね?」
「えぇ送りましたよ。和也さんを拉致しますと....」
「え?嘘ですよね?」
(嘘である)
「嘘じゃありませんよ?だってレミリアと結婚させるのにあの人は邪魔ではないですか。そうは思いませんか.....巫女さん?」
図書館の入口には既に博麗の巫女麗奈が来ており、彼女が開けた扉の奥ではメイド達が無残に敗れ去った痕が残っている。
和也は麗奈と目が合う。
すると麗奈はそれに気づくとあからさまに視線を外す。
「大人しくそいつを返しなさい。どうせ門番との戦闘をその水晶玉で見てたんでしょ?なら分かるわよね。私には勝てないってことが」
「分からないわね人間。この誇り高き吸血鬼が人間如きに劣るとでも?そんな事を本気で思ってしまってるのならば哀れね。貴方のその自信は地に落ちるでしょうね」
レミリアの態度は和也が経験したことのない、レミリアに対しての恐怖心を駆り立てた。これがレミリアの妖怪としての姿。翼を広げて、堂々と構え、優雅に喋る。これが妖怪【吸血鬼】としてのレミリア・スカーレットなのだと。
「一つ聞くけどあんたら吸血鬼がそいつを攫う理由ってなんなの?そいつはただの人間。なんの取り柄もないただの人間よ?」
「.....地味に傷つくんだけど」
麗奈の何気ない言葉に心に傷をつけられた和也を誰もフォローしないが、レミリアは堂々とこう言った。
「ここにいる和也と、この私レミリア・スカーレットとは既に婚約の契が結ばれている!だから諦めろ博麗の巫女」
.....和也は麗奈が完全にキレた事を雰囲気的に悟った。もれなく先程まで麗奈を挑発していたレミリアまでもが困惑した表情をしている。
「え?私なんかいけないこと言った?」
「多分.....言っちゃいけないこと言ったんだよ.....きっと」
「和也.......アンタ帰ったら分かってるわよね」
「あっ.....はい」
和也は帰ったら起こることを完全に把握した。
(帰ったら殺されんですね分かります)
レミリアも何とかさっきまでの雰囲気を取り戻して、喋り始める。
「和也は渡さないわよ!これから子供も作って幸せに暮らすのだから」
(あ〜!やめてくれ!これ以上麗奈の機嫌を損ねないでくれ!)
そんな和也の思いも虚しく、麗奈の機嫌はクライマックスに悪くなる。レミリアは火に油を注いでしまった。麗奈の態度はみるみる内に悪くなっている。フランなんかはもうガタガタ震えている。
パチュリーとソフィアさんはこっそりどっかへ行ってしまった。
「おい.....小娘」
「はぃぃ!?」
「.....塵一つ残さんから覚悟しとけよ」
先程までのカリスマはどこえやら。レミリアは完全に戦意喪失して床にペタンと膝をつけて座り込んでいた。そして、今日俺は新たな発見をした。
麗奈は究極に機嫌が悪くなると言葉遣いが荒くなる。
麗奈は戦意喪失したレミリアを見ると刀に置いていた手を下ろした。そして、俺の方を見ると.....。
「和也.....話はじっくり神社で聞かせてもらう」
「.....はい」
区切れの良くない終わり方でしたが、この続きを書こうと思い、この終わり方にしました。次の冒頭は紅魔館から神社に帰る時からの物語になります。




