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東方剣録伝 〜幻想郷最強剣士の物語〜   作者: 黒井黒
第二章 小さな異変と恋心
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二十話 甘い罠


「さぁやるわよ!」


彼女が手にしていた本が突然開き、辺りに力が撒き散らかれ、衝撃波が発生する。そして、彼女は少しづつ浮き始める。

この力の正体は妖力だ。パチュリーはあの本を媒介にして妖力を発生させているのか。


「貴方が飛べないなのは分かってるわ。今のまま飛べなくてもいいならいいけど、飛びたいなら想像しなさい」


「想...像...?」


「そう。浮遊術って言うのは霊力云々の話じゃなくて、要はイメージなのよ。霊力があっても想像力がない人は飛べないし、霊力が少ない人でも想像力に長けていれば簡単に会得出来る。それが魔法の基礎.....浮遊術よ」


想像力か。確かにこういう特異な環境にいないとあまり自分が飛んでいる姿は想像出来ないな。自分が飛べるなんて普通の人には想像もできないし、特別な環境にいれば容易にイメージ出来る。

なるほど...理にかなっている。


「ほらさっさと飛びなさい?飛べないと当たるわよ?」


パチュリーの周りに紫色の光の球が現れる。これは見慣れている。弾幕だ。フランとの遊び(地獄)が脳内に甦る。あれはあんまり痛そうに見えないけど当たるとすごく痛いし怪我もする。


「フランとの遊びで弾幕は見慣れている思うけど、覚悟しといた方がいいわよ」


「え?どうして?」


「フランはどちらかと言うと剣で戦う近距離型の戦闘スタイル。でも私は魔女らしく魔法で戦う超長距離型の戦闘スタイル。この私に距離を取られたらあの博麗の巫女でも苦戦するわよ」


彼女は冗談で言ってるのではないらしい。それは彼女の目が物語っていた。うん、本当に冗談であって欲しかった。

となると早く飛ばなくてはいけない。そうしないと本当にやばい事になる。想像しただけで悪寒が走る。だから尚更早く浮遊術を身に付けないといけない。


(想像する.....自分が飛んでる姿を...)


パチュリーは一切躊躇なく俺に向けて死の弾幕を放ってくる。これを避けれなければ俺は確実に死ぬ。だが、俺は目を閉じて自分が飛ぶ姿をより強くイメージする。


(強く想像しろ.....イメージは大空を羽ばたく鳥。その羽は大きく、速度は風を切れるほどに...。想像しろッ!自分が空高く空を飛んでいる姿をッ!)


ーーー時折想像は現実を超えるという


俺は今その一端を垣間見ているのかもしれない。俺は今、空を飛んでいる。浮遊感というのは何とも言えない違和感に襲われる。落ちているようで落ちないような妙な感覚だ。

和也はふとさっきまで自分がいた場所を見る。そこには隕石が落ちたかのような大きなクレーターが出来ている。

確か図書館にはパチュリーの魔法結界が張ってあったと思うんだけど。結界があってもこの大きさ...


「何とか初手は間違わなかったわね?」


「.....一応聞いとくけどもし俺が飛べなかったら」


「跡形もなく消し飛んだでしょうね」


声のトーンを変えず真顔のまま彼女はサラっと怖いことを言う。そして、俺はとりあえず地面に降りる。もう少し空を飛んでいる気分に浸りたいが、飛びなれてない俺にはまだ地上がお似合いだ。そんなカッコいいこと思っても本当はただ怖いだけだけど。俺が降りるとパチュリーも本を閉じてこちらに向かってゆっくりと降りてくる。

でも、そこで俺は不思議に思った。なんでこの魔女、改めてパチュリーは俺の世話を焼いてくれるんだろう?

親友の友達だからでもなさそうだ。


「...パチュリー」


「なに?」


「どうしてこんなにも親身になってくれるんだ?」


俺がした質問にパチュリーは眉一つ動かさない。無表情のままだ。何かをまずいことでも聞いたか?

俺が心配になっているとパチュリーは口を開いた。


「貴方に世話を焼くのは単なる気まぐれ。でも.....強いていうなら興味があるから」


「興味?確かに外の世界から来て博麗の巫女の所に居候してる時点で普通ではないと思うけど...」


「そういう意味じゃないわ」


そう言うと彼女は何故か俺に近づいてくる。その顔は少し俯き、表情が読み取れない。だけど確実に紫髪を揺らしてこちらにゆっくりと向かってきている。

そして、一言も発しないまま俺と彼女との距離がお辞儀をしたらぶつかるぐらいまで縮まった。すると、彼女の右手が俺に向かって伸ばされた.....


「.....え?」


そして気づくと、その手は俺の後ろに回されて左手もいつの間にか加わっていた。下を見ると俺よりも身長が低い彼女の頭が俺の胸にくっついている。この状況から考えるに俺は今抱きつかれている。うん、相違ない。


「.....興味があるのは貴方の体よ」


「そ、そんな甘い声で言われても、ま、ま、惑わされたり、し、し、ないからな!!」


「思いきり動揺してるじゃない」


「ま、まさか男性紳士代表の私がこ、このような事で動揺してるわけないじゃないですか!それに貴方も立派な淑女なんですからどいてくれやがれです」


「口調とキャラが安定してないわよ...」


彼女はため息混じりにそう呟く。どうやらパチュリーは純情でみんなから定評がある俺をからかっているのだ。だが、それに惑わされる俺ではない。けど一つ言わせてくれ。


ーー柔らかい



そして、その幸福な時間も突如として終わりを迎える。


ーー曰く幸福とは儚い一瞬の出来事である。


ーー曰く不幸とは長い絶望の始まりである。


突如として開かれた扉には二人の少女がいたという。一人は金髪でキラキラとした宝石の様な羽を持つ少女。一人は水髪に灰色の羽を持った少女。

ある一つの行動で少年はその彼女達の逆鱗に触れてしまった。


少年の罪は二つ。


一つは『色欲』

二つは『怠惰』


七つの大罪に数えられるそれを少年は一度に犯した。少年は魔女に抱きつかれて欲情してしまった。少年はそれを拒む事を拒否した。

少年は扉の前にいる少女達を見て全てを悟った。

彼女達の手にはいつもより物騒な槍と剣。『グングニル』『レーヴァテイン』が握られている。少年の幸せは儚く一瞬の花と散り、絶望は文字どおり一歩一歩と近づいてくる。少年は恐れをなして逃げ出そうとするが体は動かない。

そこで少年は気づく。この事の元凶『パチュリー・ノーレッジ』が居ない事に。体を動かせない少年は視覚を操作し、彼女を探す。そして、発見した。少年と目が合った彼女は声に出さずに口を動かした。


ーー男なら覚悟を決めなさいーー


少年には彼女がそう言ってるように聞こえた。その後は一瞬の出来事だった。動けない少年を槍や剣を持った少女達が.......後はご想像にお任せしよう。こうして少年は再起不能になりその日を終えることになった。


これが世にいう『紅魔大罪事件』である。

(そんな事件はない)




「全く私の親友に手を出すからそうなるのよ。...この浮気者」


「私はただ何となくイラッと来たからやっただけなんだけどね。そう、イラッとね」


彼女達はそこに力無く倒れ込んでいる和也に向かってそう言った。和也は意識朦朧にその言葉を聞いていた。目は開けられない。言葉も発せられない。だけど耳は少し機能しているらしい。

耳元で服が擦れる音がする。そして、甘い吐息と共に声が聞こえてくる。


「悪かったわ。私の発言の間違いを正すと"興味があるのは貴方の体の中に宿る力"よ」


.......大事な部分がすっぽりと抜けてるじゃんか


そこで和也の意識が途切れた。





〜和也気絶中〜



「貴方達はこの変態をどうしたいの?」


パチュリーが意識が飛んでいる和也を死んだ虫をつついているかのような行動をしている吸血鬼二人にそう言った。


「「結婚する」」


「和也.....貴方イバラの道を進んでるわよ」


それが今の彼女達が和也に対する評価だった。



【色欲】

誰彼構わずに性的な欲望を持つと、取り返しのつかないことになってしまうなどの大罪。


【怠惰】

怠け、放棄を表す大罪


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