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不治の病?

 誰が言ったか知らないけれど。恋の病は、お医者様でも草津の湯でも治らないと言われています。ですが、それ以外にも直せない不治の病はあると思うのです。その内の一つに罹患した患者が、どうやら村に来たようです。手早く隔離しましょうか。




 来訪者が気になり尾行している昼過ぎ頃。


 あの二人組には覚えがある。

 そう、師匠の周りを嗅ぎ回っている帝国の商人達だ。

 既に諦めたかと思っていたが、性懲りも無く戻って来たと言う事か。

 やれやれ。

 美しい花には無粋な虫が群がるようだ。

 だが、このクラウスの目の黒い内は見逃す事はできぬ。


 「……という事で現在スニーキングミッションを遂行中です」

 だけど、気分は寝起きドッキリ?

 声を顰めると自然とそんな気分になるのはなんでだろ?

 気配消失させて光学迷彩魔法で姿を消してるからかしらん?


 む? どうやら二人は従者と話している模様……。

 かと思えば二人はそれぞれ何処かへ行ってしまったな。

 せっかちな奴らだ。

 まあ、良いか。

 奴らの従者達から情報を集めるとするかな。

 敵を欺くにはまず馬からと言うしな……違うか。


 「お二人はどうされましたか?」

 「御自分で調べるそうだ」

 「それでは我々は?」

 「天幕の準備をせよ、との事だ」

 自分たちで調べるのか? 従者は使わないのか?


 「よほど焦って居られる御様子ですな」

 「仕方あるまい。子爵様の役に立たねばいくら子爵家の御用商人家の生まれと言えど、三男と次男では商才があるかコネでも無ければ良くて飼い殺し、悪くすれば放逐も止む無し、だからな」


 どうやらこの馬どもは馬鹿のようだなスルスルと内情を吐露してくれるぜ。

 まあ、どちらかと言うと自分の上司が無能だと嘆いているように見えるな。


 「我々も損な役回りを押し付けられたものだな」

 「然り。分別はあるが商才の無い次男様と、気弱な年若い三男様の方がまだ良い」

 無能だが害の無い上司と無能で百害ある上司なら前者を選ぶか。

 俺から言わせれば目くそ鼻くそだな。



 その後も天幕の準備をしながら二人の従者は愚痴り合っていた。何処かの村に寄っては女性にちょっかいを掛けたり、金に物をいわせて悪事を揉み消そうとしたり、その尻拭いをして恥をかいたとか。だから早く役目を解かれて帰りたいそうだ。



 情報収集はここまでだな。

 後はどうでもいい愚痴ばかりだ。

 さて、彼らの事情はどうでもいいので商人共の目的を果たせなくしてしまおう。

 然すれば奴らも引き上げるだろう。

 その為にも奴らの方を追いかけるか。

 さらば報われぬ従者諸君。



 「とは言ったものの。何処にいるのやら」

 取り敢えず村の中心に行くか。

 案外村長宅に戻っているかもしれん。

 犯人は犯行現場に戻ると言うからな。

 いや、まだ犯人じゃないか。


 「クラウスにぃー!」

 「ん?」

 俺を呼ぶのは誰か?

 てか、あの呼び方はカレンさんじゃあーりませんか。


 「どうしたの? カレン」

 「クラウスにぃ! 大変へんたいなの!」

 失敬な、それじゃ俺が変態みたいに聞こえるじゃないか。


 「落ち着いて、カレンどうしたの?」

 「あのね! あのね! アンネが呼んでるの! 一緒に来て!」

 言わんのかい!

 まあいいや、カレンじゃマトモな話が聞けそうに無い。

 アンネに聞くか。


 「分かったよ。行こう」

 「うん!」



 一体何が待っているのか分からないが、俺達は村長宅まで足早に向かった。



 「アンネ! クラウスにぃを連れて来たわ!」

 「……ありがとうカレン」

 「何があったのさ?」

 こんなに慌てたカレンも深刻そうなアンネも初めて見たぞ。


 「……実は―」


 だが、少女の不安を吐露する瞬間は続く大声で遮られた。


 「いい加減におしい! しつこいんだよ!!」

 「ぶふぉぉぃいひぃ!!」

 なんだ!? 壁を叩く様な鈍い音がしたぞ? ヴェラさんが誰かを殴ったのか!? ヴェラさんを怒らせた阿呆は誰だ?


 「……お母さんが変な人を追い返そうとしたの。もう殴っちゃったけど」

 「うん。今、聞こえた」

 「アンネは相手がへんたいだって言ってたわ! へんたいって何?」

 「それはね。知らなくてもイインダヨー?」

 「そうなの?」

 カレンは小首を傾げている。

 カレンは困惑しているようだ!

 情操教育に悪いからカレンには見えないように、聞こえないようにしよう。そうしよう。


 「なんにしても見ないと分かんないね」

 百聞は一巻の終わり。

 見聞きする前に全ては手遅れだった!

 ……さて、冗談はここまでにするか。

 兎に角見てみるべ。



 そして家の中に見たものは……。床に転がる汚い豚とそれを殴り倒した赤毛の夜叉でした。



 「汚い手で触るんじゃないよ!!」

 「ぐふぅうぇ!!」

 見事な右ストレートでございます。

 小太りのおっさんが錐もみ回転で転がりながら床を顔で舐めている。

 死んだか?


 「ぶふぅうぃ! 素晴らしい一撃なのである。これほど熱い拳は久方ぶりなのである」

 どうやらヘンタイのドM野郎でした。

 これは不治の病ですね。

 処置無しやでぇ。


 「チッ、しぶといね。ヘルガーの三割くらいかい?」

 伯父さんどんだけ頑丈なのよ?


 「ぐふふ。やはり、か弱い村娘を手篭めにするよりも、気の強い御婦人に殴られる方が来るのである」

 何が来るんだか知らないけど、いや知りたくもないけどね。

 兎に角カムより、アウト願うかな。


 「それに小娘は怯えるばかりで役に立たぬ。やはり歳を重ねた分だけ遠慮が―」

 「五月蝿い。死ね」

 だけど続く言葉が発せられる事はなかったりする。

 だってヴェラさんに殴られたから。

 凄い鋭角な打ち下ろしです。

 容赦って言葉が見当たらないです。

 薄汚い豚野郎は再度床にへばり付くのです。

 って言うか、歳の事は女性に言ったら駄目やで禁句や! 要注意や!


 「ぐふふ。ま、まだまだ。これくらいで倒れる某では無い」

 セリフだけ聞けば不撓不屈のキャラみたいに聞こえるけど。

 やってる事はドMの豚野郎な訳で、非常に見苦しい事この上ない。

 この手の手合いは殴っても駄目だ。

 ならば、それ以外の方法で捕縛するべし。

 丁度豚野郎は這い蹲っている。

 今の内にヴェラさんに此方の案を伝えねば!


 「しぶとい上に気味が悪いんじゃ手の施しようが無いね……ん?」

 どうやら此方に気付いた模様。

 さっそくジェスチャーで伝えよう。


 まず布を見せる。

 これは直ぐに理解してくれたみたいだ。目で細めて見てくる。


 次にこの布を目の辺りに持っていく。それを後ろに回して結ぶ様に見せる。

 少し首を捻っているが概ね理解されたと思う。


 最後に豚野郎を指差して回す感じに手を動かしてから外に向けて指差す。

 ニヤリと加虐的な微笑みが見えたけどスルーしよう。

 ヴェラさんは豚野郎の方に顔を向ける。


 「ふん。あんたは自分が打たれ強いと思っているようだけど。そんなのは勘違いさ」

 「なに、を言っているの、であるか? 某が、打たれ強いのは、明白なのである」

 肉体面特化じゃなくて精神面とバランスが取れてたら良かったのにね!


 「それが本当ならこの布で目隠しするんだね」

 「ぬ? それで何が分かるというのであるか?」

 「目で見えて殴られると理解していれば誰でも耐えようと身構えるだろ。そんなのは本当の打たれ強さじゃないね。この布で目隠しされて、見え無い状況で殴られても耐えるのなら本物と認めようじゃないか」

 「ふっ。それは面白そうなのである。その挑戦受けて立つのである」

 布を手にした豚野郎が不敵な顔で見上げてるけど、全然カッコよくないからね?


 さてと、あちらの準備が整う前に此方も準備を進めるかな。

 まずは、村長宅前の広場に移動します。次に広場の地面に向けて魔法発動。この時使われる魔法は水魔法と土魔法です。最初に土の中から水分と移動して乾燥させる。次にカラッカラに乾いた土を土魔法で無数の小さい粒状に押し固める。最後に粒同士を激しく擦り合わせ粉状に砕きます。魔法で分解しないのは全て均等な大きさになるからだ。不揃いの方が自然の砂に見えるからね。少し足りないから”秘密の小部屋”に入ってる川砂も足そう。


 そして作り出した砂場の規模は直径2メートル、深さ2メートルの円柱状だ。



 「クラウスにぃ。これなあに?」

 「今に面白い物を見せてあげるね。だから大人しくしてるんだよ?」

 「分かったわ!」

 楽しい実験の始まりですよ。


 「……兄さん。向こうも準備が終わったみたい」

 「良し、それじゃあカレンとアンネは物陰に隠れてて」

 「「うん」」

 さあ、薄汚い豚野郎を綺麗に片付けてやろうじゃないか。


 「さあ、キリキリ歩きな」

 「ふふふ。何が起こるのか楽しみなのである」

 俺も実験が楽しみだよ。

 さて、鉄のステッキの柄を取って砂場に挿し込むかな。

 うむ。十分に深く刺さったな。

 そして目隠しされた豚野郎が所定の位置に着いた。


 「さあ某を楽しませるのである!」

 お望みとあらば応えましょう。

 魔法発動!


 「ぬ? …な、なんであるか!? お、落ちる!?」

 とてもシュールな絵だな。

 目隠しされた小太りの男が砂場に沈むのは。


 「どうなっているのであるか!? う、動けないのである!」

 そりゃ首まで身体が埋まっていれば動けないだろ。


 「な、ならば魔法で出るまでである!」

 そんなことをさせると思っているのかね?


 「なぜである!? 魔法が発動しないのである!」

 うん。ソウダネ。


 「くっ! もう一度である!」

 豚野郎は再度魔法を発動させるみたいだ。

 だけど、魔力が形になる前に一部の魔力を強奪する。

 そして奪った魔力を破棄。


 「なぜであるか!?」

 喧しいので眠らせるか。


 「うっ! ぐ、ぐるじい、ので…あ…る」

 やっと眠ったか。

 まあ、どちらかといえば気絶かな?


 「凄いねぇクラウス。いったいどうやって沈めたんだい?」

 「ふしぎだわ! わたしにはさっぱり分からないわ!」

 「……何をしたの? 兄さん」

 どうやってと聞かれてもねえ。

 砂の流動化……と言っても理解できないよな。

 いつもの通りに法螺話でもしますかね。


 「これはね。川底を調べていた時に分かったんだ」

 「そうなのかい?」

 そうなのですヴェラさん。


 「川砂の中に砂鉄が無いか調べていて、砂が邪魔だから風で吹いて飛ばそうとした時にね。そしたら水の様に波打ったのを見て面白そうだから色々試してたら分かったんだよ。それで砂場の下に風を送ったから上に置いた物が沈んだの」

 「クラウスも変わった事に興味があるんだねぇ」

 「面白かったわ!」

 「……砂が水みたいね」

 鉄のステッキを使って下に風を送り込んだからね。

 砂と砂の間に空気がある状態だから砂は水の様になって体重の重い豚野郎は沈んでしまったのさ。


 「でもなんでこいつは眠ったんだい?」

 「んー…師匠から教わった護身術?」

 「なんだか難しそうだね。後はいいよ」

 とても簡単なんだけどね。

 土魔法で砂を操り首をキュッとね。

 要するに絞め落としたわけですよ。


 「明日の昼頃には徴税官様と護衛の領兵が来るから押し付けちまおうかね」

 「そうだね。それじゃあ逃げられないようにするね」

 鉄のステッキを回収しながら、砂の上の部分を強固なイメージで薄く硬く固める。

 その後に布を結んで団子を作り、それを豚野郎の口に当てて猿轡だ。

 最後に籠を被せて終了。


 「手際が良いねクラウス」

 「師匠のお陰?」

 なんだか免罪符代わりになってきたな。


 「そろそろ家に帰るね。お腹空いたし」

 「ああ、早く帰ってあげな。ディアも待ちくたびれているだろうしね」

 「またね! クラウスにぃ!」

 「……またね兄さん」

 マザーの美味しいお昼を食べに帰ろう!

 腹が減っては戦はできぬと言うしな。





 そして俺は昼食を求めて家路を急いだ……のだが、またしても邪魔者に遭遇した。

読んでくれて、ありがとうございます。


治せない病が無くなるとイイデスネ。

無理だとは思っても思わずにはいられないです。


それでは次回も会いましょう。

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