異世界の匠の業。
お待たせしました。
技術の進歩は日進月歩だ。常に新しい技術を求めて人は進化を繰り返す。特に日本人は小型化に拘る。資源が無いから出来るだけ小さくし、軽量化する事でコストを抑えているのだろう。それ故に既存の物も魔改造してしまうのだ。とても小さくな! これはもう職業病みたいなものだな。治らん。だが、異世界のドワーフも似たような物らしい。まるで日本の職人のようだった。
師匠からの手紙が届いた。
それは師匠と離れて三ヶ月後の昼下がりの頃だ。
「これが師匠からの手紙」
「ああ。嬢ちゃんが用心して俺宛に送った物だ」
しかも、ご丁寧に偽装して送るとは用心深いことだね。
確かにドッドに託せば俺の手元に来るよ。
よく考えているね。
「読めるか? クラウス」
「大丈夫だよ」
マザーが読めるだろう。
てか幼女神から授かった能力で読めるだろう。
多分。
「そうか。なら本題に移ろうか」
「そうだね」
今日の用事がそれで終わりな訳ないからね。
「今日呼んだのは他でもねぇ。クラウスに教えてもらった技術を幾つか改良できたから見てもらおうと思ってな」
「おおー! 見せてよ! ドッド!」
俺の拙い説明で作った物をどこまで改良出来たんだろ。
「まずは方角が分かる道具だな」
「小さい箱に入れるとか話してたよね」
「ああ、そうだ。クラウスに一番最初に驚かされたやつだな」
そういえばそんな事もありましたな。
「本当は随分前に出来上がってたんだがな? 忙しくて見せる暇がなかった。それがこれだ」
「へ~。これかぁ」
そこに出された物は確かに洗練された物だった。始めて作った時の鉄の切れっ端を葉っぱの上に置いただけの物とは比べようもない仕上がりだ。
「木で出来た箱だね。その中にそれぞれ形の違う両端の尖った指針が鉄の棒の上に置いてある。うん、分かり易いと思うよ」
「おう。誰にでも使えて、誰にでも手に入れられる様に安く作ったからな。それで十分だろ」
ほほう。消費者の目線で考えられるとはドッドもやりますな。
しかし安い物があるなら高い物もモチロンあるんだろな。
「そんでこっちが金持ち向けに作ったやつだ」
やっぱりあったのか。
次に出された物は先の物よりもグレードの上がった品物であった。流石はドワーフと言ったところか。物作りの匠は更なる進化を遂げていたのだ。
「おおー。鉄で出来た箱だね。それに蓋が透明だよ。これならもっと使い易いね」
「まあな。だが、その分金が掛かる仕上がりだ」
うんうん。
そりゃそうだろう。
材料が鉄やら石英やらだからね。
だけど、少し物足りないな。
やっぱり文字で方角が分かるようにしないとな。
「ドッド。紙とインクあるかな?」
「ん? あるぞ。何かに使うのか?」
「うん。この方位指針をより分かり易くしようと思ってね」
「方位指針か。いい名前じゃねぇか。ほれ、紙とインクだ」
然り気に命名である。
「ありがとう。それと方角の文字を教えて」
「ああ、いいぞ。これが北で、これが南だ。そしてこれが西と東だな」
ほうほう。
そう書くのか。
「それじゃあドッドに良い物を見せてもらった御礼に僕も良い物を見せるね」
「ほう。クラウス一体何を見せてくれるんだ?」
「まあ見ててよ」
ふふふ。ドッドだけが腕を上げた訳じゃ無いんだぜ?
俺の修練の結果を見せて上げよう。
まず、紙を置きます。
次にインク壺の蓋を開けます。
最後に魔力フィールドを発動です!
「なっ!? なんじゃこりゃああ!」
往年の名優みたいなセリフ吐くんじゃないよ。
しかも殉職のシーンのやつじゃないか。
まだ終わってませんよ! 始まったばかりだよ!
「何って。文字を書いてるんだよ?」
「そりゃ分かる。分かるが、なんでインクが筆も使わずに紙に書かれているんだ!?」
「魔法のせい?」
「訳が分からんぞ……」
ふむ。
それなら詳しく教えましょうか。
ドッドが理解出来ないと言ったので詳しく教えることにした。簡単な話だ。これも水魔法の応用なのだよ。インクと言えども液体に変わりない。だから、水のように魔力で操れるのではないかと考えて試したのだ。結果それは予想通りに事が運んだ。インクは意思を持ったように動き、俺の思う通り紙の上に舞い降りた。綺麗に滲む事ない仕上がりは、まるで印刷されたような出来栄えである。
「ふむ…。そいつが本当だとしても余程の修練を積むか、大きな魔力を持つ者でもないと使いようがねぇな」
「やっぱりそうだよね」
ドッドも同じ事を考えたか。
これは魔法を長く、深く、研鑽しなければ思いつかない方法だ。それに人族であれば限りある魔力を、文字を書く事に使うという発想も無いだろう。俺の様に魔法で発動しない魔力を使った低燃費な方法でも無ければ思いつかない筈だ。勿論、現代知識があればこその発想なのは言うまでもない。
「それで? こいつはなんて魔法になるんだ?」
「んー。描写魔法?」
「描写魔法か。なるほどな」
だって、この世界だと印刷って概念があるか疑わしいからね。
無難に描写にしたのだよ。
どうやら問題なさそうだし良いだろ。
「しかし、クラウスを驚かそうとして逆に驚かされるとはな。俺も、まだまだだな」
「そうでもないよ。ドッドの凄さは伝わったよ! この手の平に乗るくらいの方位指針は良く出来ているよ」
「へへっ。クラウスにそう言って貰えるなら作った甲斐があるぜ」
しかと匠の腕を見せて貰ったよ。
うむ。
「それじゃ最後の仕上げをしても良いかな?」
「おう! 任せたぜクラウス」
任されよ。
そして最後の仕上げとして、方角の書かれた紙を方位指針の箱の中に固定して完成させた。
「いい出来だぜ。これで方角が分かり易くなったな。しかも方角の間に短い線があるから更に分かり易いな!」
「方角と方角の間に線があると、もっと分かり易いかなと思って書いたんだ」
北西とか南東とかね!
次に出された物はドッドの研鑽の賜物だった。
「綺麗な鏡だね。それに木の枠に入れたんだね」
「ああ、そのままだと味気ねぇからな。知り合いに作らせた木の枠の台に嵌め込んだ。これが売れればそいつにも新しい仕事を任せられるぜ」
なるほど。
自分だけで完結せずに他の人にも仕事を作るのか、ドッドもよく考えてるな。
「もう鏡作りは完全に物に出来たね」
「おう! 鏡作りは任せとけ」
自分の仕事に誇りを持つドッドが、最後に俺に見せたのは蒸気機関の更なる進化だった。
「凄いよ! ドッド!」
「こいつには手を焼かされたからな。そう言って貰えるなら作った甲斐があるぜ」
これは凄いよ。
だって、更なる小型化が進んでいるんだもの。
前に作った物は大人が両手を広げたくらいの大きさだ。
それが半分程にまで小型化がなされているのだ。
「どうやって小さくしたの?」
「へへ。そいつは見てのお楽しみだ。開けるぜ?」
カバーを開いて御開帳ですか。
「おお~。羽を二重に付けたんだね」
「そうだ。垂直だった羽を斜めに湾曲させて短く付けた。それをもうひと組前に繋げて短くなった分を補ったんだ」
そりゃ凄いな。
これはまるで前世の蒸気タービンみたいじゃないか。
「こいつは小さくなったが力は変わらずだ。苦労したぜ、どうやったら小さく作っても力を変えないようにするか」
「凄いよ。小さくなって形も綺麗になってるし。これはもうドッドの技術だね」
「ああ。大親方にも自信を持って見せられるぜ」
そうか弟子としては師匠に自分の腕を見せたいという事か。
これは自慢の逸品になるだろうな。
「これで竹を削る場所も大きく取らなくてすむってもんだ」
「そうだね」
うん、うん。
これで更に竹を削る事ができ……る?
「あっ。竹を削って肥料にするのを忘れてたよ」
「はっはっは。作らせた本人が忘れるもんじゃねぇぞ」
「だね。そう言えばどうなってるんだろ。ドッド知ってる?」
「村長が知り合いの商人に頼んで運んでるぞ。今度、聞いてみたらどうだ?」
「うん。そうしてみる」
伯父さんの事だから抜かりないとは思う。
でも、一応聞いてみるか。
そして異世界での技術改革は今日も続く。
読んでくれて、ありがとうございます。
技術進歩の話でした。
地味に新しい魔法も作った主人公です。
あれば便利そうですよね。
ノートを書く手間が省けそうです。
それでは次回も会いましょう!




