嵐のあとの平和な日常。
人は、日常の何気ないコミニュケーションから自分を取り巻く周囲の情報を手に入れている。些細な事であっても覚えていて損することはない。だけど覚えてないからと言って馬鹿にすることは間違っている。知らないのなら覚えればいいだけの話だ。人は初めから全て知っている訳ではない。だから俺も少しづつでも周囲を見ていこうと思う。何時か何処かで役立つと信じて。
異世界の幼児の朝は早い。先日、師匠が旅立たれてからは二日程は気が抜けた気分でいたが、三日目にもなると自然と意識が切り替わってくる。今も自身の寝床を綺麗に清掃中だ。
「ふう。ここまでやれば十分か」
自分で賞賛するのもなんだが上出来だと思う。
うん。
掃除のついでに手に入れた物も”秘密の小部屋”に収納済みだ。
これは、後で実験に使用するとしよう。
「さて、今日も一日が始まるな。今日はここ最近手に入れた能力の検証でもするか」
色々な事が起こりすぎて放置していた問題等だ。
朝食を済ませたら早速実験に移ろう。
今日の予定を組み立てながらマザーの手により生み出された母の愛を食した。今日の献立は豆のスープと少し固めのパンだった。豆のスープは玉ねぎやら人参や豆の入ったスープだった。塩加減もパンと一緒に食しても味が薄くなる事がない絶妙な塩梅で、瞬く間に俺の胃袋に収められた。うむ。今日も元気だマザーの愛が美味い。
その後”秘密の小部屋”の詳細を確認した。どうやら幼女神の言う通りコインロッカー六個分のスペースがあるようだ。色々と設定出来るみたいでスペースを区切ってみたり、温度設定を試したり、鉄のステッキの出し入れをしてみたり様々な事を試したりしていた。
「ふむ。ある程度は自分の思う通りに出来るのか」
しかし、何処まで思う通りに出来るか制限があるのかは、まだ分からん。
あの幼女神の事だから意外な落とし穴がありそうで怖い。
「思う通りに出来るとは言ってたけど無償で、とは一言も言ってなかったし書かれていなかった」
今まで試したものでは魔力を極端に消費した感じは無かったな。
精々が一割以下の低燃費だったしな。
「さて、そろそろあの実験を試みようじゃないか」
今朝方に手に入れたブツを使おう。
そうだな少しくらいは良いだろう。
そこで俺は手に入れたばかりの至宝を”秘密の小部屋”から取り出した。その輝きは俺の心の温もり。少し惜しくはあるが、大変重要な実験である。そのある種の使命感を胸に抱き”秘密の小部屋”を小さく区切り本命を入れる。そして手に残った方をもう一つ区切ったスペースに入れてある事を試みた。
「どれ、これを増やす事が出来るのだろうかね?」
設定開始だ!
……だけど、なんでこんなトコだけSFチックなんだろな。
空中に浮いてるタッチパネルみたいな設定画面。
うむ。あの幼女神はリアルを舐めているのだろうか?
これではファンタジー感ぶち壊しである。
まあ愚痴はここまでにして操作してみるか。
「ほうほう。ふむふむ。うむ。やはりそうか」
何がそうなのかと言うとだな。
やはり魔力を消費するみたいだって事だな。
しかも、物が大きかったり重かった場合は消費量が飛躍的に上がる仕組みだ。
やはり油断ならない。
知らずに大きな物を増やそうとしたら気絶して、挙句に中身をぶちまけていたかもしれない。
まったく、ハラワタをぶちまけるのは雑魚戦闘員だけでいいんですよ。
「他にも制限があるな。生き物は無理。食べ物系は消費魔力が特大。鉱物も同じく七割以上消費か。色々出来ると言っても俺の魔力次第だもんな仕方ないか」
まあ、それ以外なら嵩張らない鞄を持ってるって感じだよな。
「だが俺の欲しい物は、どうやら少ない魔力で事足りるようだ」
それでは実験開始だ。
うむ。魔力が少しづつ消費されて行く感じだ。
どれ、増えたかどうだか見てみよう!
「ほほう……。この輝きは、間違いなく私の欲しい物だ。うむ。結果は上々だな」
ふふふ。どうやら実験は成功のようだ。
これから少しづつ増やして行こう。
いつ何があるか分からないからな。
魔力は残しておこう。
「さて、そろそろ良い頃合だ。次の実験の場所へ行こうか」
彼女にも実験に付き合ってもらおうか。
俺は有意義な実験結果を手に入れ意気揚々と次なる検証へと足を運んだ。次に試すのは、あのお嬢様が齎した結果の検証だ。
お嬢様の来襲は悪い事ばかりでは無かった。彼女のお陰で一つ分かった能力がある。それは利用を危ぶまれた能力”思考同期”だ。使用者の精神に強く影響を受けるのではないかと思われた能力だ。だが、そうではなかった。俺が強く思いを込めて共鳴させようとしたが……それは呆気なく弾かれてしまった。それは護衛の騎士も同じだった。彼女らには俺の魔力で言う事を聞かせられなかったのだ。
「そこから導き出される結果…」
それは、どれだけ相手に心を許しているかだと思う。使用者と被使用者との間に心の繋がりと言われる物。つまりは何らかの絆が無ければ思考を同期させる事は不可能なのだ。
「それがこれか……」
相手に好意が無ければ成立しない。まさに人間関係を表している様ではないか。相手を好ましく思う。だからこそ、この能力は成立する。なら、悪意や嫌悪感が有ればどうなるか? 答えは簡単だ。お嬢様の様に弾かれる。答えは何時もシンプルなものだ。
「確かに分かり易いよな…」
そして考察が進めば、その理論を実証するのは道理なのだ。時に危うい行為だとしてもだ。
「糞餓鬼め……うらやましくなんかないいぞ……」
「畜生っ! 畜生!」
その栄えある実験の対象に選ばれたのが、この村の不良物件である馬鹿二人組だ。
「クラウス。変な物見るんじゃないわよ?」
「はーい」
見事に俺の魔力が弾かれているよ。
相手がティアナだと顕著に反応するな。
そんなに好きなのか。
望みは毛の先程も無いというのに…。
同じ男として哀れに思う…。
手を繋ぐくらいでそこまで悔しいのか。
「早く行きましょう。せっかくクラウスが迎えに来てくれたのにお昼に遅れちゃうわ」
「うん」
反応も見れたし十分だな。
一日目はカレン。
二日目はアンネ。
そして三日目のティアナ。
双子の時は然程反応は強くなかった。
だが、ティアナを伴った時はどうだろう。
彼らの魔力は嫉妬の炎に燃えて俺の魔力を強く弾いていた。
さらば若人よ。
どうやら世の中は世知辛い。
男を磨いて出直して来い。
「ねえ、お姉ちゃん」
「なあに? クラウス」
「お姉ちゃんは誰か好きな人はいないの?」
俺は心配だよ。
そこまで理想が高いと将来どうなるんだか。
「んー。正直に言うと、この村には好きになれそうな人は居ないわね」
「そうなんだ」
田舎の村じゃ無理なのかね?
都会に居る小洒落た男の人が好みなのかね?
「お爺様の居る町になら、将来有望な人は居るかもしれないわね」
「お爺ちゃんは町長なんだっけ?」
「そうよ。よく覚えていたわね。えらいわよ」
そんな子供を褒める様に頭を撫でる事じゃないぜ。
いや、幼児だから良いのか……。
「お爺様の事を話していたら。なんだか会いたくなってくるわね。おばあ様は元気かしら」
「僕、覚えてないや」
「それはそうね。クラウスが、抱っこ出来るくらいに小さかった頃に会いに来てくださったんだもの」
それ乳幼児じゃないですか。
そりゃ記憶してないわ。
「その内会いに来てくれるわよ」
「うん。楽しみだね」
どんな祖父母なのかね。
会うのが楽しみだ。
その日は何気ない事から俺を取り巻く周囲の情報を得られた。
こうして平和な一日は過ぎて行く。
平和ですね。
何も起きなくて平和過ぎて後で何か起こるんじゃないかと思えるくらいに平和です。
それでは次回も会いましょう!




