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幕間―ある神の意思の微睡み―

お待たせしました。

 海が見える。その海の前に佇む人影が見える。それは金色の長い髪を靡かせ。何も映す事のない碧い瞳で海を眺め。薄く開く紅い唇は感情の色が抜け落ちている。少し高い背は砂浜に影を落とす。腰の横に彷徨う腕は絡まる自身の髪にも何の反応も示さない。足は砂浜の上にただ置いてあるだけ。一枚の絵画の様に切り取られて、そこに在る。




 「……ん? アレは…。そうかコレは夢じゃな? …ふふふ…。懐かしいなぁ…。此方の世界に渡った直ぐの頃じゃな」



 自分の存在意義も、考えも、興味も、色も、形も、何も無く。ただただ時間だけがあった頃。私が世界に生まれ落ちて、無為に時間の海原に漂っていた始まりの日。私が初めて命を作り出そうと諸手に目を向けた日。そして初めての失敗に訳も分からず命の形を眺めた日。あの日が私の誕生の日。あの命が私が初めて産んだ私の光り。



 「ふふふ…。初めは妙な自信に溢れ、失敗を疑いもせなんだな。自分は神として生まれ、何もかもが思うがままに出来ると、信じて疑いもしない。傲慢にすぎる。なんと稚拙か。なんと無邪気か。命を生み出すとは極めて難儀な事。そして斯くも喜びに満たされる事なのにな。本当に何も知らな過ぎたものよな」



 そう。契約者の解れた形と千々に乱れた心の糸を有るべき姿に戻そうとしたのだったな。自分には出来ると高を括って糸を勢い良く解いたのだな。結果、盛大に縺れた。今になって思うに何も考えてなどおらんかったな。



 「そのせいで初めは話す事と聞く事しか出来なくなっていたな。契約者には悪い事をしたな。何も考えられず動くことも出来ない木偶を生み出したもんじゃ」



 到底、人とは呼べない人の形をした何かを生み出しただけだったのだ。自我が無ければ生きているとはとても言えない。



 「始めの百年は酷い有様じゃな。はい、はいと応えるだけのイエスマンを何度、生み出したか……。思うに心と言うものを理解する事すら気付きもしなかったな」



 外見ばかり取り繕って、中身に頓着しなかったのだ。それでも形も酷い物だった。左右の腕が逆だったり。足の長さが左右不釣り合いであったり。辛うじて人の形を成していただけに過ぎない。



 「そして次の百年で、そこで漸く心と言うものに興味を示した……のだが、コレも酷いな。何で男なのに男を好きになる様になど作り替えたのだか」



 次の新しい物に手を伸ばせば、そこでもまた好き勝手に弄り回した。そして作ったからには、生み出したからには試すのが必定。その時に5体ほど生み出し何度かシミュレーションを重ねたのだった。



 「余りの醜態に我ですら眉を顰めたものだ。故に配慮し記憶を見る事を躊躇うようになったのだな」



 流石に200年も過ぎれば少しは分別も付いてくると云う物。いくら自分の内側にしか目を向けていなかったとしてもだ。それに元々は外の世界には少しも意識が向くことは無かった。



 「だいたい記憶にアクセスすれば、幾分紛れ込んでしまいかねなかった。あんな物を加えれば自我が崩壊しかねん」



 その頃には、異物を混ぜれば更に混迷の度合いを深めるという事は理解出来る様にはなった。



 「そして次の百年で、漸く人らしくなって来たな。まあ……中身が殆んど乳幼児の様になってしまい。見た目が大人なのに、あ~だの、う~だのしか言わなかったからな。自我の成長速度を上げ忘れたのが原因だったな」



 他にも酷い失敗が幾つも有った。臆病になったり、気性が荒くなったり、海月のように怠慢になったり、泣き喚くようになり、……最後に自殺したり。この時、初めて衝撃を受けた。自分の生み出した命が自分でその命を断つ。その行動に酷く動揺した。



 「…ふふふ。自分ではいくらでも作る癖に、自分ではいくらでも破棄する癖に、自ら死を選ぶ事には驚いたものだ」



 何故そうなったのか試行錯誤し幾年月が無駄に過ぎた事か。そして行き着いた先で悔恨の念が生じた。



 「もう五百年も過ぎていたのだったな。そして己が力が尽きそうになると漸く気付いた………愚かよな。一つの事に没頭するあまり肝心の力の源が目減りしている事に気付きもしなかった」



 初めて焦りを覚えた。何も生み出せる事も出来ない侭に自身の消滅を予感した。気付いた時には全てが遅すぎた。



 「そのせいもあり。姿も保てず小さく成り下がった。初めは長かった手足が、気付けば子供の様になっていたのだ。唖然とする他なかったぞ」



 そして初めて問題の原点を見つけた。それは、この世界で受肉させる術が無かった事だ。



 「いくらシミュレーションしても不都合が出る訳だ。心の有り様は成長するからこそ形作られると言うのに初めから完成品を押し込もうとしていたのだ。だが、それらは問題では無かった。受肉させる術が無かったのが問題だったのにな」



 自分がしていた事が、ただ土塊を捏ね回しているに過ぎなかった。徒労だと気付いたのが残り10年を切った時だった。



 「何とか人の種に心を移す事を考えたのだったな。それでも全てを移す訳には行かなかった。容量が、感情のうねりが入る器が無かった。漸く七割方入る器を見つけて見れば今にも死に絶えそうな命だったな。だから急遽心の幾つかを封印してから死にそうな種に命を吹き込み。そして心を移し込んだ。恐怖、後悔、良心。これらが無くとも別段不都合は無かったな。どうせ肉体が成長すれば心は封印されていても身体がある程度補佐してくれるからな。痛みを覚えれば少しは躊躇う。それでも微々たる物なのだがな」



 そして初めて達成感を覚えた。初の試みは成功したのだから。



 「無事に生まれた時には嬉しくもあった。同時に母性などと云う物も芽生えたな。」



 何の因果か、漸く全うな命を世界に産み落としたのだから。



 「まあ。再会してみれば、あの様に成っていたのだがな。酷いもんじゃ。我は言わば母にも近い存在であるのにじゃ! 言うに事欠いて小さいは無いじゃろ? 微笑みかけてやろうと思ったが気が変わったわ」



 感動の再会になるかと心躍らせていたのにだ。



 「そりゃあ笑顔の作り方なんぞ知らんかったがな! それでも不出来ながらも微笑んでやろうとしたのに! あやつの性格や趣味趣向を纏めた台本通りに進めてやろうとしたのに!」



 少し悲しくもあった。



 「それでも母性故か五年掛けて解れを繕ってやったな。我は寛容にして寛大であるからな」



 そのついでに力も授けたのだ。



 「そして我は眠りに就いた。だが、この様な夢を見ると言うことは……」



 目覚めが近いのかもしれない。



 「ふふふ。あやつめ、あれだけ渋っておきながら我に早く会いたかったのか? 中々に愛い奴じゃな」



 それでも期待し過ぎるのも如何なものか。



 「そうじゃ。あやつは此方の予想を超えた事をしでかす。気を引き締めて挑まねばな」



 薄闇に光が見えてくる。



 「さて、契約者よ。お主はどの様に姿を変えたのやら。会うのが楽しみじゃ」





 そして神の石から神の意思が目覚めて行く。

読んでくれて、ありがとうございます。


意外な裏側? でした。

どんな評価されるか少しドキドキですね。


それでは次回も会いましょう。

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