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真夏の日の吸血鬼退治。その5

大変お待たせして申し訳ないです。

 全てを賭けた死闘の末に待つ物ってなんでしょうね? 俺の死闘は今まさにクライマックスですよ。



 師匠と離れ20日目の昼近く。最悪の状況下。



 「チッ。まるでユスリカの蚊柱みたいだなっ!」

 魔眼で視ると燃え盛る火柱の様に踊っているぞ。

 こりゃ不気味極まりないな。

 こんな物の中にマザーが居るのか?

 そう思ったら胸の中から焦がれるような焦りが生まれてくるな!!


 「だけど勢いに任せて突っ込んだら駄目だっ!」

 焦るな。冷静になれ! 下手に突っ込んで俺が身動き出来なくなったらどうする! 誰がマザーを救えると言うのだ! 奴らに対抗出来るのは、この村では俺かドッドくらいなものだ。今は冷静になって魔力の回復を図るんだ。……だと言うのに何で身体は、すり足で前に進もうとするんだ!? 心と身体は別物だとでも言うのか!? 落ち着け!



 俺は心と身体の葛藤の末に何とか後ろに引くことが出来た。それでも少し憔悴した身体は魔力の回復を拒むように気怠さを手足に残していた。朝からの連戦の緊張と、魔法の連続使用に疲れを見せたのかもしれない。村人には知られず、知らせず、孤独な戦いを繰り返し、危機的状況を幾度くぐり抜けたか。人が刺される寸前を何度も防ぐ事は、精神的負担が思うより大きかった様だ。そこに来て自分の親の危機を目の前にしたら焦るなと言う方が無理な話なのだ。



 「よし…。行くぞ」

 俺の魔力も6割方回復した。

 もう、これ以上待てない。

 気分は最終決戦だ。

 具体的に言うと魔眼を持った人が、単身ビルに突っ込んで行って、ナイフ片手に縦横無尽に敵を切り裂いていく感じだ。あんな感じのBGMでも流れれば雰囲気出るんだろうけどな……。…今はこれ以上の冗談は思いつきそうにない。



 そして俺の戦いは始まった。力を抜きやや緩やかに立ち上がる。右足を前に。標的は右斜め上から少し動き出した蚊柱。魔眼で視認開始。身体に宿る魔力は和流の様に両手足に流れる。既に焦りは無い。確実に着実に目にする蚊の全てに等しく死を与える。そして動き出した蚊柱目掛けて俺の魔力が追い縋る。左右に分かれて挟撃しようとする蚊の動きを形を音を俺の視覚と聴覚は瞬時に捉えていた。



 「はい、そうですかと正直に攻撃させるわけないだろ?」

 これ以上飛び立たせてなるものかよ。

 さらに外側の左右から真空球で挟まれて落ちろ!



 展開された魔力フィールド内の蚊柱は、空気の無いバスケットボール大の真空の球の中に吸い込まれて行った。無数に漂う蚊の群れは呆気ない程に容易く真空球により。その短い命を散らした。後に残るは虫の屍。命の残り香も見せない骸だけが残った。



 「俺は今、少し虫の居所が悪いんだよ。あの馬鹿二人組のせいでな!」

 だから、これは八つ当たりだ。遣り場のない怒りをぶつける。

 ただの八つ当たりなんだからな。

 だけど悪びれる気も無い。



 残る4つの蚊柱は、一瞬の内に同胞を葬られた事に危機感を感じ取ったのか、俺を包み込もうと四方に飛び出した。虫なりに考えたのだろう。一寸の虫にも五分の魂と言ったところだろうか。それでも、こちらは最初から侮る気など微塵も無い。相手がその気なら、こちらにも考えがある。



 「お前らは陽炎でも追いかけていろ」

 お前らも陽炎の様に見えるしな。



 俺の姿が存在感が二重に離れて存在する。正確には光の屈折率を調節して俺の虚像を作り出し、俺は気配を消失させて移動。その際に空気の膜を作り自身の汗の匂いや二酸化炭素は、その虚像の中に押し込んだ。その虚像に、蚊の群れが我先にと群がりだした。だが、俺の虚像に触れる事は出来ない。そこに俺は居ないのだから。



 「本当の炎の様に見えるな。なら本当に燃えてみるか?」

 酸素密度を上げてやる。

 盛大に燃えて見せろ。



 今度は虚像に群がる蚊に、酸素の密度を上げた空気の塊をプレゼントしてやった。次の瞬間には大人の背丈以上の火柱が上がり蚊の群れ全てを飲み込んで天に向けて昇っていった。何故、燃えたのか? それは虚像を利用し陽の光の焦点を虚像の足元に当てたのだ。草がいい具合に燃え出して、圧縮された酸素の塊に引火したのだ。



 「今ので外に居る全部か」

 残る魔力は4割、行けるな。

 少し並行使用で減ったけど問題無い。



 そして掃討した蚊の死骸に一瞥をくれて、俺は家の中に進んだ。



 「中……には居ない? 否、隠れているな」

 俺の魔眼からは逃れられないよ?



 家具の下や部屋の影に揺らめく魔力が見える。椅子や机の下に居る蚊を全て真空の渦の中に吸い込んだ。部屋の影に風を押し込んで表に押し出した。天井付近に居た蚊は気圧を下げて引きずり下ろした。その全てを真空の渦に飲み込み。文字通り真空の中で息の根を止めてやった。



 「これで家の中は片付いたな。だけど小屋の辺りに少し居るのか?」

 部屋の隅から隅まで見たけど他に蚊は居ない。

 両親の寝室も、客室も、俺の部屋も、台所もリビングも全てだ。

 だけど、おかしい。

 マザーが居ない。

 もしかしたらダディの使う小屋に入って難を逃れたのか?

 なら助けに行こう。


 「待っててくれよ!」

 裏口から出て直ぐに行こう。



 小屋に向けて移動する際にも蚊を数匹纏めて葬った。そして小屋から異変に気づき向かって来る蚊も全て真空球の餌食となり散っていった。



 「無事で居てくれよ……」

 もう魔力は1割くらいしか残ってないんだ。



 そして俺は小屋の扉を少しづつ開けていった。そして中に居たのは……。



 「く~~」

 「がぁ~~」

 寝こけている二人組だった。


 「こんなオチってないよ!」

 あーもうダメだ力が抜ける。



 そして俺は力なく扉に縋り付いて脱力したのだ。その後、小屋の中にあった縄で丁重に二人を拘束して扉を閉じた。



 「少し休もう。そろそろ昼だしな」

 なんださっきのアレは、コントか!?

 疲れたから俺はもう椅子に座るぞ。


 「でもなんで居ないんだ?」

 マザーは何処に居るのですか?

 気が抜けて机に突っ伏すぜ。


 「あらあら? クラウス。もう帰って来ていたの?」

 マイ・マザー来た! 探し人来る! これで安心出来る。


 「どうしたの? 疲れてしまったのかしら?」

 「んーん。お腹が空いて動けないの」

 変に心配させない様にしないとね。


 「それならお昼も近いし昼食にしましょうね。直ぐに作るわ」

 「お願い。お母さん」



 無心な感じで空腹を理由に昼食を要求し、俺は無心で昼食を食した。

 その際に何故、家に居なかったのかを聞いたら。ダディを送り出した後に油が少し足りなかったので伯父さんの家に行ったのだとか、そこでダディと合流。そのまま一緒に居たんだけど昼食の準備を理由に一足先に帰って来たと言うのが事の顛末です。まあ無事で良かったね。しかし家を開けっ放しとは少し無用心じゃありませんかね? マザーよ。如何に寝室や大事な物が入った部屋は鍵がかかっているとしてもだ。この辺は田舎故の行動なのだろうかね? 日本にもあったな、そういうのが。



 「ただいま。おや? クラウスはもう食べたのかい?」

 「お帰りなさいトリス。クラウスったら、お腹を空かせて机に抱きついていたわ」

 「そうなのかい? それなら仕方ないね」

 「お帰りなさい。お父さん」

 それ以外にも色々ありますけどね!


 「あっ。そうだお父さんに言わなきゃいけない事があったんだ」

 「うん? 何かな?」

 小屋の中の眠れる馬鹿達を教えなきゃ驚かれるな。


 「小屋の中にね? 村のオジさんに怒られて逃げてきた二人が居るの」

 「ああ。いつものあの二人か、それで?」

 知っているのかダディ。

 ……まあ、ある意味有名だしな。


 「今日も悪さをして、逃げ込んだ小屋で寝ていたから縄で縛ったの」

 「そうか。それじゃあ兄さんの家に連れて行こうか。悪さをしたら村長の家に連れて行かないとね」

 そこで協議の末。追って沙汰が下されるのだろう。ご愁傷様です。


 「それじゃあ僕とドッドさんの二人で連れて行くね」

 「うん? ドッドさんが来るのかい?」

 来る。きっと来る。


 「おーい。クラウス、居るか?」

 「あら。お越しのようね?」

 ほらね?



 そして件のドッドと案件の馬鹿を伴い村長宅へと俺達は向かった。



 「あら。来たわねクラウス。お昼頃になるとは思ってたけど……後ろのソレ、何?」

 「うん。お騒がせ物件だよ」

 「その例え言い得て妙ね」

 「お前らも子供なのにな。なんでかコレの方が餓鬼に見えてくるぜ。お前らの話し方には知性を感じるぞ」

 ドッドの小脇に抱えられた難物には知性の欠片も見えないし感じられないよ。


 「まあソレはどうでも良いわ。それより汚れた布を頼みたいんだけど良いかしら?」

 「おう。構わねぇよ今すぐやろうぜ」

 「なら家の裏側に行きましょう。ほら、クラウスもボーッとしてないで行くわよ?」

 「はーい」

 うむ。小さい淑女は容赦ないな。

 疲れてる幼児にも容赦ない。

 俺の手を引いて連れて行くね。


 「ほら。あそこにある桶の中身がそうよ。後は頼んでいいかしら?」

 「任せてよ!」

 「終わったら知らせてね? 私は昼食の後片付けがあるのよ。お願いね」

 「はーい」

 意外と働き者だね。後は任されよ。


 「そんじゃあさっさとやっちまうか」

 「うん。手筈通りにお願いね」



 そして俺達は桶の中の汚れ物を綺麗にして行った。汚れ物はドッドに任せ。俺は家から持ち出した石英の塊である物を作り出した。それは試験管だ。石英で透明な試験管を作り、蓋は円錐形の試験管の入口に合う物を作り出して完成させた。



 「おし。汚れた水は別の桶に全部移し替えたぞ?」

 「ありがとう。後は任せて!」

 「おう。それじゃあ畳んだ布を置いてくるぜ?」

 「お願いね」

 ドッドが汚れを落とし別の桶に移し、俺が布を乾かして畳む。

 見事な分業でした。


 「さて、次はこの桶の水を少し減らすかな」

 適量あれば良いのだよ。

 この手の平大の試験管に入る分だけでな。


 「うん。これで十分だな」

 これに汗の成分が凝縮されているのか。

 さて、さて奴らに有効なのかね?



 勝利の鍵を握り締め俺達は一路、西の空き地へと向かった。その場所でドッドに土の魔法である物の作成を頼み。俺は自室に戻った。消費した魔力を回復する為に。



 「あー。夕方までに魔力回復しないとな」

 全回復しないと何があるか分からん。


 「おっと、カウントはどうなってるんだ?」

 すっかり忘れてた。

 どれどれ?


 魂[001/100]

 徳[0170/1000]+120

 15P

 COMBO BONUS +1+2+3+4+5+6+7+8+9+10+11+12+13+14P


 合計120P


 「うっわ。凄い上がってるよ?」

 15Pって事は150匹以上160匹未満を倒したって事か? コンボの数も凄いな。


 「確認できたし魔法磁石で回復しますかね」

 まだ終わってないしな。



 迫り来る最終決戦に向けて、最後の確認をしながら最大値まで魔力の回復に努めた。



 「そして最後の夕暮れが訪れる、か…それとも明日の朝日が拝めるかな?」

 出来れば師匠に会うまでに終わりたくは無いね。

 無論、出会った後も生涯添い遂げて見せるがな!


 「クラウス。準備は出来たぞ。いつでも行ける」

 「ありがとうドッド。それじゃあ配置に付いてくれるかな?」

 「おう。必ず倒すぞ」

 「うん」

 そうじゃないと報われないもんね。



 そして夕闇が迫る頃。不快な羽音を立ててイビルモスキートと思われる群れが西の森から静かに近づいてきていた。待てども帰って来ない配下に焦れて巣穴から這い出て来たみたいだ。その羽音を合図に俺達は作戦通りに動いた。



 「まずは、この試験管の中の物に頼りますかね」

 これで、決戦の趨勢を決めましょうか。

 ついでに暗視魔法も発動。



 俺は魔力フィールドを展開して試験管に入っている液体を指定の空き地に散布した。今朝、会得したばかりの霧魔法によってだ。霧は上手い具合に空き地に噴霧され辺りに汗の成分を十分に行き渡らせた。



 「次にダメ押しだ」

 たっぷりと嗅ぎ分けると良い。



 次にドッドに準備してもらった管に、二酸化炭素を集めて押し込んだ。その出口は空き地の真ん中にある。これはドッドに土魔法で民家の近くまで管を通してもらったのだ。奴らを二酸化炭素と汗の両方で誘い込もうと言う作戦だ。



 「集まって来たな。それじゃあ次だ」

 魔眼で視ると火が夕暮れの空に舞い踊っている様で綺麗だな。

 その正体は禍々しくてもな。

 だから本当に綺麗にしよう。

 本物の炎で綺麗に燃えてもらうんだ。


 「二酸化炭素の次は酸素だ。ドッド頼むよ?」

 あと少し、あと少しだ。

 ……よし今だ!



 俺の魔力の高まりに応じてドッドが火の魔法を撃ち出した。その火の玉が集団目掛けて飛んで行く刹那に俺が圧縮した高密度の酸素が管を通り火の玉と交差した。次の瞬間には俺は魔力を足元に集め。民家の屋根目指して飛んだ。あの日、師匠に届けと飛んだ時を思いだして、足元に魔力を集めて跳躍の力としたのだ。



 「うっひー。飛んでるよ」

 あとは音を立てない様に風で浮力を得て華麗に着地だ。


 「よし。成功だ」

 アレで死ぬなら世話ないからな。



 あの程度で燃え尽きる訳が無いのだ。だから炎で慌てふためく敵を遠くから狙撃するのだ。俺は手早くステッキの柄を外し杭を入れて構えた。気分はスナイパーだ。



 「狙い撃つぜ」

 一度は言って見たいよね!

 魔眼と望遠魔法を同時発動!


 「何処だ、何処だ~……。居た!」

 焼ける仲間から、ふらつきながら離れているな。

 だけど逃がさない!


 「往生しろや!」



 圧縮された空気が杭を撃ち出した。鉄の筒から飛び立った木の杭は血吸い虫に向けて飛翔する。吸血鬼の心臓めがけて打ち込む様に。



 「イエス! クリーンヒット!」

 やってやったぜ!


 「ん?」

 あれ? なんでもう1匹いるんだ?


 「構うか。1匹も2匹も同じだ!」

 奴も狙い撃つ!



 何故か、もう1匹が火の中から現れたが構わず撃ち抜いた。だが不意に思ったのだ。あんなに『小さかった』のだろうかと。



 「クラーウス! 一匹大きいのが逃げるぞ!」

 「え!?」

 なんだってー!?


 「あっ。ほんまや」

 林の近く弱りながら這い蹲る大きな蚊の化け物が居るし。


 「最初の爆風で吹っ飛んでいたのか!?」

 じゃあ俺が撃った2匹は大きくなった配下か何かか!?

 ええい。構わねぇ奴も撃つ!


 「あり? 弾がねぇ」

 アパーム! 誰か弾をくれ!



 鞄の中には2本の木の杭しか無かったのだ。それに気付いた時には既に手遅れだった。



 「ちょ。どうするよ。もう逃げそうなんですけど!」

 どうする! どうする!?

 やばいよ! やばいよ!!


 「あー。今鞄の中にある物はー!?」

 気分は猫型決戦兵器ですよ!

 肝心な物が出てこない!


 「ぬ!? これに託すか!」

 頼むぜ! 君に決めた!



 手にした塊に気付き、俺は即座に錬成を開始した。銅の塊を細く長く杭の様な形へと形成し、鉄の筒に入れて、最後の瞬間を迎えた。



 「お前に恨みは無い。だけどお前を討たなきゃ恨まなければいけない。だから、さよならだ」

 ありったけの魔力で空気を圧縮してくれてやる。

 せめてもの手向けだ。



 瞬時に銅の杭をイビルモスキートに向けて撃ち出した。そして標的は穴を穿たれて事切れていった。夏の日の吸血鬼を夕闇の中で闇に葬ったのだ。皮肉な物だ。月が見える時は不死身の吸血鬼でも。異世界に居る血吸い虫は不死身では無かったのだ。



 「やったな! クラウス。全部倒しちまったな!!」

 「うん。今ので最後だね。もう近くには一匹も居ないよ」

 ぬ? 手の甲が光ってるな。

 なんだろな?



 魂[099/100]+98

 徳[1000/1000]+830

 COMPLETE BONUS

 ▽



 「へ? なんだこれ?」

 コンプリートだ? 三角矢印押してみるか。


 「どうした? クラウス?」

 「何でもないよ」

 気にせんでもイイっすよ。

 ポチっとな。




 そして矢印を押した俺は、意識を失ってしまったのだ。

読んでくれて、ありがとうございます。


推敲途中で付け加えたら何故か6千文字行ってました。

のりに乗って書いていたらご飯も食わずに書き続けていました。


これにて真夏の日の吸血鬼退治は終わりです。

次は少し幕間かもです。


それでは! 次回も会いましょう。

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