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真夏の日の吸血鬼退治。その1

お待たせしました。

 暑い日は嫌ですよね。どこか避暑地に行って涼みたいものです。海外とか良いよね。でもね? 海外に行くなら気を付けなきゃいけない事があるよね。現地の情勢とか、路地裏の窃盗とか、真水をそのまま飲まないとか。それと伝染病にも注意が必要だよね? ワクチン摂取は必ずしよう。受けないと酷いことになります。異世界じゃ受けられないんだからね! 本当どうしようか…。



 師匠と離れ20日の早朝。俺は人知れず戦っていた。


 「ふふふ。ちょろちょろと動きやがって……」

 なんと鬱陶しいのだろうか。


 「人が修行してるってのに邪魔なやつらだ」

 早起きは三文の得と言うけど損した気分だ。

 せっかくの貴重な睡眠時間が!


 「人んちの窓から断りもなく侵入して良いと思ってんのか?」

 この虫けら野郎が!


 「勝てると思うな、小僧!!」

 その余裕を絶望に塗り替えてやる!


 「落ちろ! 蚊トンボ!!!」



 そして俺は魔力フィールドを展開して敵の迎撃に移った。



 「ふう。今年は、やけに『蚊』が多くて困るね」

 今ので10匹目だ。奴等、次から次へと湧いて出やがる。

 あの嫌な羽音を立てながら開け放った窓から侵入してくるのだ。

 人がせっかく新しい魔法の練習をしていたのに。


 そう、俺の修行の邪魔をする。お邪魔虫の蚊を俺は魔法を駆使して撃墜していたのだ。清々しい朝を迎え気力漲る早朝を利用して新魔法の開発を模索していた時に、開けられた窓から。ご機嫌い蚊が? と侵入して来やがったのだ。それに対する俺の返答は決まっていた。血行が良く元気ですけど結構ですから、と。お引き取り願ったのだ。


 にも関わらず余裕で宙を漂う蚊トンボどもに、俺は真空を味あわせてやったのだ。魔力フィールドを展開し。奴等をフィールド内に補足。真空球の中に閉じ込めて撃墜していったのだ。俺の魔力フィールド内から逃れる事が出来ずに奴等は地に落ちて息絶えた。虫も酸素が無ければ死ぬのだよ。


 「予定とは違うけど。これも練習になるのかもね」

 予定では朝靄を魔力フィールドで感知して、水を霧状に出来ないかと試すはずだった。

 靄と霧じゃ違うとは思うが水を霧状にしたいだけなので違いは省いた。

 求める結果は水滴の微小化だ。


 「一応は霧を発生させられるまでになったから良いか」

 仕組みは簡単だ。魔力フィールドで極小の無数の穴をイメージし、その穴に水を押し出すのだ。


 だが何故、その様な魔法を生み出そうと思い至ったのか? 理由は簡単だ。

 これも師匠の為だ。

 師匠が、ご帰還なされれば沐浴をなされるだろう。その時に不埒な輩に師匠の柔肌を晒すなど、このクラウス死んでも我慢できぬ! だが、いちいち師匠に報告し警戒を強いては、師匠も心休まる暇も無いだろう。そこで考えついたのだ。別に通しちゃってもいいのさ、と。霧に遮られて見えなければ、林の中に入った所で目的は果たせないのだ。そこからの俺の行動は早かった。靄が発生する条件として日中暑く。夜涼しくなる時を狙って、早起きするようになったのだ。靄の出る時を狙い朝起きて。窓を開け。魔力フィールドを展開する事はや2日目にイメージを掴む事が出来た。


 「三日目の朝に試そうと思ったら。いきなりの闖入者だもんな」

 魔力フィールドを展開して靄を感じ取り再度イメージを練ろうとした矢先だからな。

 前世でも蚊に刺されて嫌な思いをした俺だ。

 敵の羽音で俊敏に反応して奴等の攻撃をヒラリユラリと舞い遊ぶように回避したのだ。

 その回避力たるや、ニュー人類に覚醒したかと思える程だ。

 これも日頃の訓練の成果だろう。


 「ふふふ。今なら小さな空気の揺らめきすら感じ取れるな」

 蚊などに遅れを取る事などないのだ。


 「だけど気になるな。なんでこんなに蚊が多いんだ? 去年の記憶じゃそんなに多く無かったのにな」

 今年は雨季が長かったから蚊の多い地域から流れてきたとか?

 雨の後に暑い時期になったから?

 考えても分からん。


 「ちっ。次のお客さんのご来場だ。蚊相手に手加減無用! 派手にぶちまけてやるぜ!」

 蚊だけに血祭りだ!



 死闘の末に50匹近くを撃墜した。俺もエースの仲間入りだね。



 「お父さん。今朝、起きたらね蚊が多かったんだ。どうしてだろ?」

 「そうなのかい? クラウス。そうだね…暑くなってきたから水たまりや沼から生まれて来たのかもしれないね」

 「あらあら大変ね。早く虫除けの薬を作らないといけないわね」

 そんなのあるんですか? マイ・マザーよ。


 「そうだね。でも直ぐには用意出来ないね。薬草を煎じてから固めて乾燥させなきゃいけない。最低でも四日は掛かるよ」

 「手間が掛かるんだね」

 「乾燥に時間がかかるだけだよ。でも去年は少なかったからね。薬草の数が足りるかな」

 対処は出来るけど数が心許ないのか。


 「見つけたらまた知らせるね!」

 「そうだね。多く出る場所が分かれば何とかなるかな」

 「見つけても気を付けるのよ? クラウス」

 「はーい!」

 撃ち落とすので心配無用ですマザーよ。



 俺は蚊の懸念を抱きながら朝食を終えた。

 そして自室で蚊の対処に考えを巡らせていた。



 「んー。蚊か。確か前世の知識ならば感染症が危ぶまれるとこだな。どうした物か」

 マラリア、デング熱、西ナイル熱、日本脳炎、黄熱。

 これらが、蚊が媒介する危険な感染症だったな。

 あっちではワクチンなんて良い物があるけど異世界じゃどうなんだろ。

 やっぱり無いよな。


 「何か発見があるかもしれない。現場を検証しよう」

 蚊の特徴が分かるかもしれない。


 「ふむ。ただの蚊のようだ。縞々模様か」

 んー。他に何か調べる方法は……。

 そうだ。


 「魔眼を忘れてた。魔眼で視てみるか」

 何が見えるかなー?



 だが軽い気持ちな俺の予想を遥かに超える物が見えてしまった。



 「なん…だ…これ? ドス黒い赤と……澱んだ黒?」

 なんだ? なんだこれ!? 蚊の死骸から妙な色の魔力が洩れてるぞ!?

 これ大丈夫なのかよ!

 恐怖心の度合いが低い俺でも分かるくらいに気味が悪いぞ。

 いつか視たマーブル模様の魔力なんて目じゃないぞ。


 「これって、予想よりかなり危険なんじゃないのか?」

 何か嫌な予感がする。


 「少し危険だけど。魔力を取り込んでみるか」

 前に淀んだ魔力を取り込んだ時に色々感じられた。

 今回も何か分かるかもしれない。


 「取り込むのは少しだけでいいよな」

 あくまでも調査の為だ。

 多く取り込む必要は無いな。



 果たして俺の予想は的中していた。



 「ぐっうぅ。なんだこれは……」

 指先ほどの魔力を取り込んだだけなのに!!


 その時に俺が感じた物は、身の毛もよだつ化け物の気配だった。俺の頭の中に、その映像が、存在が、形が、行動理念が、羽音が、邪な魔力の色が、途切れ途切れに頭の中に流れ込んできた。奴の存在は、ただの蚊じゃない。


 そう奴は、邪神の眷族…。

 の死骸の血肉を啜り成長した蚊。

 仮に名を付けるなら『イビルモスキート』正真正銘、蚊の化け物だ。


 奴の特性も少しだが分かった。イビルモスキートは危険極まりない化け物だ。伝染病なんて生易しい物じゃない。幼児くらいの大きさで、人を刺すと身体を中から溶かし大人だろうと数十人を殺せる凶悪な魔虫だ。既にどこかで被害者が出たのだろう。人を内側から溶かして吸い出す様がイメージとして頭に流れ込んだ。これは危険だ。周知する必要がある。だが、肝心の被害を知る術は無いだろう。全て奴に吸い取られて残るのは衣服だけなんだから。気付いたら衣服だけ残して人は消える。まさにホラー映画のようだ。


 だけどそれだけじゃない。イビルモスキートの配下は通常の大きさの蚊だけど。こちらも凶悪だ。刺されれば強烈な目眩と寒気。高熱で倒れ身動きも出来なくなる。動けなくなった所をイビルモスキートが来て刺し殺すのだろう。



 「やばい…。これ絶対にやばいよ」

 いや待て、冷静になれ、落ち着け。

 今日、来たのは何だ?

 偵察か何かだろ?

 イビルモスキートの気配は遠くに感じたぞ。

 あの形容し難い魔力を取り込んだ時に分かったろ。

 アイツは近くに居ない。


 「それに今はこの魔力をどうにかしないと…」

 こんな気味の悪い魔力は残しておけないだろ。

 この魔力が師匠の言っていた黒い煙か?


 「師匠はどうしてたっけ? 火で燃やす? 部屋の中じゃ無理だろ」

 どないしようか?



 俺が考え倦ねていた間に、窓から部屋の中に光が射し込んで来た。



 「おぉ? 気持ち悪い魔力が陽の光で少し薄まっていった?」

 どういう事だ? 奴らの魔力は陽の光に弱いのか?

 奴等自身は陽の光の下でも大丈夫なはずだ。

 魔力だけは例外なのか?


 「少し試してみるか」

 以前開発した魔法だ。

 これが有効かどうか試してみよう。

 魔力フィールドを展開して発動だ。



 『魔力よ、陽の恩寵を賜れ、菫光きんこうけがれを焼き払へ!』



 「おお!! 消えたよ! やった!」

 除菌だけじゃないんだな!

 部屋の中の汚れた魔力が一気に消え去った!

 もしかしたら血吸い虫に有効かもしれないな!

 冗談で吸血鬼に効くかね? と思ったけど意外な所で威力を発揮したぞ!


 「だけど直接の害を取り除けた訳じゃないんだよな」

 少し考えよう。

 何故、俺の家にだけこんな数の偵察が来た?

 林の近くだからか?

 奴の気配を思い出せ。

 奴の気配は西側に感じたろ。


 「森の方に潜伏しているのか?」

 西の大きい森の中か。

 そこから偵察を出しているのか。

 奴は邪神の眷族の血肉を啜っただけあって動物よりも人を標的にしている。

 なら森に近づかなければ不要に気づかれる心配もないか。


 「少し危険な賭けだけど奴の出した偵察部隊を各個撃破して誘き出すか」

 待っていても事態は好転しない。

 なら誘き寄せて倒すべきだ。

 どれくらいの数の人が居るか確認の為に送り込んだんだ。

 偵察を消されれば自分で調べに来るはずだ。

 虫だけに知性の欠片も感じられなかったからな。


 「ふう。覚悟を決めるか」

 師匠と添い遂げるまでに死ぬわけにはいかない。

 家族も殺させない。

 村も守るんだ。





 そして俺は異世界に来て初めての戦いに向かうのだ。

異世界に来て初の緊張?

主人公の戦いの火蓋が切って落とされました。


次回をお待ち下さい。


熱にやられて少し休んでいました。

本当に皆さん熱中症にだけは気を付けて下さい。

最悪、死にます。

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