彼方からの便り。
お待たせしました。
お祭りって楽しいですよね。心がふわふわと熱に浮かされた様な高揚感と言いますか。まさに心躍ると言ったところでしょう。カタカナで検索すれば気分も理解できよう。……じゃなくて。祭りの間は楽しいですね。でも何事にも終わりがあります。祭りの最後は少し切なくなりますよね。それも祭りを楽しむ醍醐味でしょう。でもそんな切なさを味わう暇も俺には無いようだ。
宴の明けた次の日の朝だ。
「昨日は酷い目に会った…」
三姉妹による全方向自動接待を受けて疲れたよ。
左側から押し寄せる怒涛の肉ウェーブに揉まれ。
右側からは無慈悲な赤き暴君による水責めを浴びせられた。
後ろから羽交い絞めされて逃げ場の無い私は敢え無く沈没しましたよ。
「それ以外も酷い物だったな」
俺達を遠巻きに見てる年若い男どもの怨嗟の声が、そこかしこで低く響いていた。
ちくしょうだとか。うらやましくない、うらやましくなんかないぞ、とか。
俺ももう少し若かったら、ああなっていたんだ、とか。
まあ、おじさん連中は微笑ましく眺めていたけどな。
極めつけは、あの馬鹿二人組だ。
ティアが悪ふざけで俺の頬にキスなんてしたもんだから。
地べたを這いずり回って悔しがっていた。
そんなに羨ましいのかね?
アイツ等見たところ14、5歳ってところだろ?
ティアナは確か12歳だぞ。
奴らはロリコンか? いや異世界だから大丈夫なのか。
取り締まる条例も無いのだろう。
なるほど。
だからみんな2次元の世界に行きたがるのだろうな。
納得の考察であった。
「しかしティアナは、あれで12歳なのかよ。末恐ろしいな」
ヴェラさん譲りの綺麗な赤髪は腰まで伸びていて、少し強気な瞳が小さい顔に無駄なく収まっている。
大人びた雰囲気が似合う余裕の表情はカリスマ性に溢れていたな。
だが、そんな彼女にも弱点がある。
そう、胸だ。
彼女の母親のヴェラさんは微乳なのだ。
ならばその遺伝子を受け継いでいる彼女もまた微乳になるのだよ。
だってさ、ティアナってヴェラさんを小さくしたみたいに瓜二つなんだぜ?
まあヴェラさんの様な艶っぽさがないから、まだ少し幼さが見えるけどな。
「なんにしても。あの一家は個性的すぎる」
家長からしてアレだ。油断ならん。
「む? 伯父さんの事で何かあったよーな……何だったかな」
最近、忙しくて色々な事を放ったらかしにしていたな。
何かを伯父さんに見せるはずだったんだが……。
「部屋の中を見て思い出すか」
ベットがあり。机と椅子があり。木箱がある。
極々平凡な子供部屋って感じだね。
ベットは師匠と寝ても余裕の広さを誇る。
机は引き出しもない平凡な机だ。
椅子も何の変哲もないただの椅子だ。
木箱は、これは中身だけ平凡じゃ無いな。
石英の塊やら銀、鉄、銅、各種鉱石がある。
鉄製の仕込みステッキも入っている。
底には小箱に大事にしまってあるエルフ印の塩がある。
うむ。私の宝だ。
他には……。
「あ゛っ。コレ忘れてたわ」
そうだね。何か忘れてたと思ったらコレだよ。
「竹の水筒を見せてなかったよ」
作って満足したから忘れてたよ。
しょうがない。伯父さんに見せに行くか。
そうと決まれば即行動だ!
部屋を出て朝食を頂き出かけよう。
「お母さん。おはよう!」
「あら。おはようクラウス」
今日もお美しい。我が家の女神だ。
とても1児の母には見えない。
悪い虫が付かないか心配だ。
まあ。ダディ以上のイケメンでもない限り無理だな。
ダディはイケメンで誠実だ。しかし夜もそうとは限らない。
つい先日だったか夜に目が覚めた時だ。
とても他人様には聞かせられない物を聞いてしまった。
ダディは夜になるとワイルドになる模様。
「クラウス? どうしたの?」
「ん? お腹空いたなって思ったの」
「それなら直ぐに朝食にしましょう」
うむ。この美女があんな声を出すかと思うと複雑な気分になりますな。
精神衛生上問題があるので記憶の底に封印しましょう。
女神の尊厳は守られた。
実際にはマモレナカッタ……。
朝食を親子で美味しく頂いた頃には既に忘れてたりする。
「それじゃあ伯父さんの家に行ってくるね!」
「気を付けていってらっしゃい」
「僕も狩りに行ってくるよ。ディア」
「いってらっしゃい。トリス」
そして近づく二人。いつも通り平和だ。
平和な夫婦の愛空間を抜け出し俺は走るのさ!
「まいどまいど、あの空間にはいられないね」
道中も平和だった。むしろこっちのが平凡で良い。
農作業に勤しむ村人。長閑だね。
農作業に不貞腐れる二人。馬鹿だね。
お? いつかのお姉さんが男の人と仲良く歩いてるよ。
素朴だが、いい人そうな男の人だね。
俺は祭りの余韻も消えた長閑な村を村長宅へと歩いた。
「おはようございます。伯父さん居ますか?」
「おや。おはようクラウス。うちのなら奥にいるよ仕事の準備をしているから少し待ってな」
「おはようヴェラさん。それじゃあ待ってるね」
村長も暇じゃないよな。うんうん。
「あら? おはようクラウス」
げえっティアナ!
「おはよう。お姉ちゃん」
「どうしたの~? 元気ないわねぇ? 昨日の祭りで疲れたのかしら?」
白々しい! 君らのせいで疲れたんだよ!
その獲物を前にした様な笑顔でよく言えたものだよ。
「あら? その手に持っている物はなあに?」
「これは伯父さんに見せるんだよ」
「クラウスどうしてそんな形をしているの?」
「これは水を入れるためだよ」
「クラウスどうして水を入れるの?」
「それはね? 旅をする時に水を飲むためさ!」
なんだこのやり取り。
確かに? ティアナも赤いよ? だけど赤いのは髪だから。
ずきんは被ってないから!
「そうなの。水を入れる物なのね」
俺の手の中にある水筒を珍しそうに見てくるね。
皮の水筒しか見たことないだろうから珍しいか。
「おや? おはようクラウス。今日は朝早くからティアと仲が良いね。双子じゃなくティアの方が好きなのかな? オジさんの読みが外れちゃったよ」
「おはよう。伯父さん。相変わらず元気だね」
そして相変わらずチョイ悪おやじだね。
この村長は大丈夫なのか?
「お父さんったら。また変なこと言って、うちの村は大丈夫なのかしら?」
娘も呆れる程だ。駄目だろう。
「大丈夫だよ。クラウスの手の中にある物を使えばね」
「本当なの? そうは見えないんだけど」
目敏いね! 伯父さん。
「はい。これを見せに来たんだよ」
「クラウスは丁度いい時に来てくれるね。今日はアンリカ村へ向かう知り合いの商人が来るんだ。それを貸してはもらえないかな?」
「良いよ。また作ればいいし。あげるよ」
まだ材料はあるしね。
「無料で貰う事は出来ないね。何らかの形で返さなければいけないよ」
村長の矜持ってとこですかね? 分かる気もする。
無料の施しは怠惰を生みかねない。
一時ならば薬になるが、長く続けば毒になる。
伯父さんの大人の表情が、そう物語っている様だよ。
「んーん。それなら伯父さんに竹を貰ったから。その代わりって事でいいかな?」
「ふむ。私が竹を運び。それをクラウスに渡す。受け取ったクラウスが竹で物を作り。作った物で代金とする。なるほど納得出来る事だね。クラウスは幼いのに賢いね」
それほどでもない。
この方法は信頼の上に成り立つ支払い方法だ。
片方が自分の利益しか考えない者なら途端に成り立たなくなる。
まあ伯父さんの顔を見れば理解はしているようだけどね。
「それでは確かに代金を頂いたよ」
「はーい」
「……なんだか男だけで分かり合っているわね」
女性には理解しがたい? 理屈っぽいのかな。
「それじゃあ僕は行くね?」
「もう行ってしまうの? クラウス」
少年は旅立つのだよ。ティア君。
「んー…。決めたわ。今日は、お休みだしクラウスに付いて行くわね?」
「え?」
何、言ってんの? この娘。
「さあ。行きましょう。ほら! 早く」
「ええ?」
「ティアをよろしく頼むね。クラウス」
おい! 伯父さんよ! 双子じゃなくてティアをけしかけてきたのかよ!
ああ。確かに『双子』はけしかけていないようだな!
ちくしょうめ!
大人は汚い! 契約の穴を突いてきやがる!
口の端が少し動いているぞ!
「それで? 何処に行くの?」
聞きもせずに引っ張って行くとか少女は怖いね。
「ドッドさんの家に行くんだよ」
「へぇ。ドワーフの鍛冶師の家に行くのね。立ち寄った事もないし少し楽しみだわ」
そりゃ用も無いのに鍛冶場には行かねーよな。
「行くわよ! クラウス!」
「わっ! 引っ張らないでよ!」
幼児連れ回しは犯罪ですよ?
少女、幼児ヲ連行中。
「ここが、あのドワーフの家ね」
普通のセリフなのに穿って聞こえるのは中二病のせいかね?
「そうだね。僕が呼ぶから大人しくしててね?」
「大丈夫よ? 私はクラウスより大人なんですからね」
でも伯父さんの娘だから油断できないのよね。
「おはよう! ドッド居るー?」
「クラウス。呼び捨てで呼んでいいの?」
「おう! クラウスか? 奥に居るから勝手に入っていいぞ!!」
「ね? 大丈夫だよ」
「そうみたいね……」
ティアナさんや。怯えることはありませんよ。
私とドッドの仲なのです。
呼び捨ての一つや二つどうということはない。
「おう! 今日は早いなクラウス」
「うん。伯父さんちに用事があったからね。早く来ちゃった」
「そうか。村長の家にか。うん? そっちの嬢ちゃんは…確か村長の娘か?」
「おはようございます。ヘルガーの娘。ティアナと言います」
「そうか。俺はクラウスの友。ドッドだ。よろしくな!」
「はい。よろしくお願いします」
ティアナさんや? 何故に俺の肩を掴む握力が強くなるかね?
実は怖いとか?
まあ、見た目は厳い巌の様なドワーフだけどさ。
気の良いドワーフなのよ。
大丈夫だよ。
「そうだ。クラウスに言わにゃならん事があったんだ」
「うん? 何があるの?」
「今日か明日に大親方から送られてくる物があるんだよ。この前手紙が来ただろ? あれに書かれてあったんだよ。忙しくてすっかり忘れていたんだ。昨日見つけて思い出した」
「へ~何が送られてくるんだろ」
あるよねー。忙しくて忘れる事。
「今日来るならそろそろ着いてもいいくらいなんだがな」
そんな噂をしてるとホントに来るよ?
『ドッドー! 居るかー? 俺だダッダだ!!』
噂をしてたら本当に来たよ。
読んでくれて、ありがとうございます。
みなさん暑い中、如何お過ごしでしょうか。
私は暑さに弱く陸に打ち上げられた魚の様になっています。
執筆にも影響を受ける程です。
早く秋か春にならないかな。
それでは次回も会いましょう。




