村への帰還。
ほうれんそう。報告、連絡、相談。これは社会人なら誰もが最初に教わる言葉だ。上司への報告。これを怠ることは時に致命的なミスに繋がる。他社員への連絡。情報が共有されていなければ業務が滞る。残業が増える。相談しない人なんて見向きもされなくなるだろう。上司にも同僚にも相談しないで事案が発生したら最悪左遷されるんじゃないかな? それだけ大切な事だと理解して欲しい。忘れてはいけない。ほうれんそうと聞いて、ほうれん草を持ってくる奴がいたとか聞いたけど流石に冗談だよな。……冗談だよね?
俺達は村に着いてから村長に報告をした。
「村の外れの林に魔獣が居たのですか?」
「はい。幸い一匹だけでしたので、私が仕留めました。安心して下さい」
「師匠が弓で仕留めたんだよ? 一発だったんだ」
あの御技を伝えるのは私の使命です。
「クラウス。それは分かった。だがこれは大人の話だ。子供は向こうの部屋に居なさい」
伯父さんよ。それはあんまりだ。
「いえ。クラウスが見つけてくれなければ村に被害が出ていたかもしれないのです。子供だからと遠ざけてはいけません。それにクラウスには聞かせておきたいのです。私の弟子として、ね」
「ありがとう! 師匠」
師匠! このクラウス何処までも付いて行きます。
地の果てまでも憑いて行きます。
「グリューン殿が、そう仰っしゃるなら構いません。クラウス大人しくしているんだぞ?」
「大丈夫ですよ。クラウスは聡い子です。聞き分けるよね? クラウス」
「はい! 師匠」
何故か師匠のプレッシャーが上がった。
そして身体が条件反射で動いた。
だが不満は無し。
「それで、どのような種の魔獣だったのですかな?」
「はい。あれはゴブリンでしたね」
ゴブリン? どこの異世界にも居るのか? いや、俺の知っている物に変換されて聞こえているのかもしれないな。
「邪神の眷族が、生き物を捕食し生み出した。この世界にありふれた魔獣でした」
「おお。群れを成す種ですな。確か単体では、それほど強くないと聞きますが本当なのですか?」
「ええ。村人とそれほど変わらぬ強さでしょう。鍛えられた兵士なら遅れを取る事はありませんね」
やはり最弱のモンスターなのか?
「ただし。単体であれば、です。奴らが厄介なのは群れを成す所です。時に数百の群れを作り人里を襲う場合もあります」
「数百も…。増えやすいとは聞きましたが多いですな」
数百とか大丈夫なんですか? 黒いアレのようにしぶとく増えるんじゃないだろうな?
「数も厄介ですけど、奴等を倒した後が問題です。死体を捨て置けば病を垂れ流し、死体から昇る黒い煙は集まればゴーストになるのです。実体が不確かなので魔法でしか対処できません。だから死体は全て焼き払うのです」
「倒した後も厄介ですな。今までエルフの方々に任せていたばかりに知らない事が多い。お恥ずかしい」
「いいえ。我らの役目ですから。これは長きに渡るエルフの使命です。気にしていません」
聞けば聞くほど厄介な生き物だな。
倒してもそのままに出来ないのか。
「それに数が増えることは、もう無くなるでしょう」
「それは本当なのですか?」
知っているのか? 師匠。
「本当です。今年に入った頃の事ですが、生み出す者が弱っていると聞きました。名はゴブリンの長ということで、ゴブリンキングと仮称しています」
「弱っていると? なぜ分かるのですか?」
「我らも、ただ狩るばかりではありません。観測する者が居ます。その者によれば力が弱くなり生み出すことが五日に一度、しかも三匹が限度だそうです。」
「そこまで分かっていて何故狩らなかったのですか?」
そうだよな。狩れば終わるんじゃね?
「ゴブリンキングは狡猾で用心深い奴です。自分の配下に周りを二重、三重に守らせて万全を期してから生み出すのです。時には囮を出したりして逃げ延びた先で生み出す事もあるんです」
「魔獣と言えば知性も感じられない獣だと聞きますが。ゴブリンキングは違うようですな」
「侮れぬ奴です。それもあと一息ですよ。今回のゴブリンも体中に擦り傷だらけでした。エルフに追い立てられたはぐれ者だったのでしょう」
「そう言えば村に来る前にも倒されたと聞きましたな。村への被害は無いと考えて良いのですか?」
既に一匹狩り終えていたのか、流石は師匠。
「問題ないでしょう。その内にゴブリンキングを倒したと朗報が来るでしょう」
「数年前の様な悲惨な事態は避けたいですからな。倒されるのを願うばかりです」
「そうですね。私はまだ加わる事ができませんでしたが、壮絶であったと聞いています」
前に聞いた帝国が介入した事件か。
聞けば人災でしかない嫌な事件だったね。
「これで今回の報告を終わります」
「この村を代表して感謝致します。ありがとう」
然り気に握手を求める伯父さん侮れないです。
でもヴェラさんを気にしてか軽くで済ませたようだ。
まあ村の長だもんな。
謝辞も表すか。
今回は許そう。
「それでは行こうか? クラウス」
「はい師匠」
師匠と手を繋げるし許そう。
そう俺は許せる男だ。
そして、村長宅を退場だ。
「クラウス。君は目が良いのかな? 我々エルフも目は良い方だけど。今回は私より先に気付いていた」
「んー。森が静かだったからかな」
「森が静かだった?」
「うん」
本当の事を言ってもまた師匠の心象が悪くなりそうだしな。
ここは最もらしい事を言って切り抜けるか。
「いつもなら鳥の鳴き声とか聞こえるのに静かだったんだよ」
「確かに言われてみれば静かではあったね」
これは本当だ。
「お父さんに森の中での事を色々聞いたりしたから気付いたんだ。鳥は危なくなったら逃げるって、だから誰か居るんじゃないかって見てたんだ」
「トリス殿の薫陶の賜物か。それでもよく覚えていたし気付いた事は良い事だよ」
ダディを褒めてくれるのも良いけど。
師匠のナデナデの方が数倍嬉しいです。
もっと撫でて!
「私も少し気が緩んでいたのかな……」
「師匠?」
「何でも無いよ。行こうクラウス」
「はーい!」
行きますとも。何処までも付いて行きます。
その後は昼食を取りマザーとダディに色々報告した。
驚いてはいたけど、師匠が付いていたのでそれほど心配もしていなかったらしい。
今も三人で談笑している。
俺はと言うと自室で作業中だ。
「んー。この羽の部分がな。まだディテイールが甘いな」
前世でもフィギュアの形には妥協しませんでしたよ。
見る専門だったけどな!
「だが今じゃ魔力がある。自分の思う通りに作れる。異世界万歳だ」
フィギュア職人が聞けば泣いて悔しがるだろう。
3Dプリンターにも負けないぜ!
「光を受けて水の入った部分が発熱し蒸気が発生。管から羽部分の入った機関に蒸気が入る。これで蒸気の力を鉄棒に伝えられる」
うむ。蒸気機関はこれで良い。
問題はその先だ。
これをドッドが忠実に作ってくれれば良いのだ。
だが師匠が居るまでに制作は完成しないな。
師匠にも実物を見せたかった。
「これを三基も作れば負荷も下がるだろうか」
色々試して見よう。
成功した暁には一つ偉業を成し遂げられよう。
師匠との約束にも一歩前進だ。
「だけどドッドにはもう一つ別の物を作ってもらうか」
今日の魔獣との遭遇で備えをしておくべきだ。
そう思うのだよ。
「師匠との約束を阻むものに容赦はしない」
ふふふ。俺が根絶やしにしてくれるわー。
「ふふふ。ははは。あーっははは」
魔獣は浄化だぁああ。
この日バートン家に不気味な笑い声が小さくこだました。
もちろん大人三人に届くことはなかった。
読んでくれてありがとうございます。
報告って大切だよね。
次回も会いましょう。




