南国の海で燃え盛る炎。
お待たせしました。
海は大きく広く一つの星を覆っている。海は山から流れる川が幾筋も連ねて重なり海になる。そして天へと昇り。また山へ雨となり降り注ぐ。星の誕生から繰り返された自然のサイクル。この偉大なる海に抱かれれば日常の疲れも癒されるだろう。だから人は海に行くと感動を覚えるのだろう。海は偉大だ。生き物に必要な塩を与えてくれる。だからみんな海を綺麗にしよう。俺の師匠の瞳のように綺麗な色の海を。穏やかな海を…。……師匠。穏やかに済ましてくれませんかね? 褒めても無理? そうですか。
俺達が馬上で揺られて約30分、漸く海が見えてきた。
異世界で見る初めての海は師匠と二人きりの海だった。
水平線の彼方まで続く海は、遠くなるに従いその色合いを濃くしていく。
空と海が交わる領域は濃い色合いだが、人の領域に近い海は空を溶かし込んだ様な綺麗な碧だった。
使い古された言葉で言えばエメラルドグリーンとでも言えばいいのか。
まさに南国の海そのものだった。
「綺麗な海だね。師匠」
「ああ。本当に綺麗だ」
暫し二人で世俗の喧騒も忘れて見入っていた。
穏やかな海風は潮の香りを運び頬を撫でていく。
小波が潮騒を奏で時を小さく刻んでいった。
日常が非日常に取って代わられた瞬間だった。
「いつまでも見ていたいね」
「うん。それもいいね」
二人の他愛もないやり取りも海は静かに受け入れていた。
「この海の色って師匠の瞳みたいで綺麗だね」
「うん。そう……え? いっいきなり何を言ってるのかな?」
師匠が即答してくれない。
まだ照れがあるみたいだ。
「うん? 僕にはそう見えるよ? この白い砂浜も師匠の白い肌みたいで綺麗だよ?」
「……クラウス。風景に感心する事に何故、私を持ち出すかな?」
「師匠が綺麗だから?」
「……分かったから。人前では言わないように」
照れと諦めが綯交ぜになった様な顔で俯いていますな。
奥ゆかしいのも良い。
「少し海に触れてみるね」
「海の中には入らないようにするんだよ?」
「はーい!」
さて、海に来たのは良いけれど。
南国の海なんて来たことないぞ。
日本の海は人でいっぱいの芋洗い場だ。
ビーチパラソルが乱立し陣地争いが行われ狩場と化している。
憩いに来ているのか、疲れに来ているのか分からない海だ。
「透明度が凄いね」
遠浅の海岸だから余計に透明に見えるな。
「どれ、この生命誕生の海から塩を生み出してみるかな」
本当の所はどうなんだろうね? 海で生き物が生まれたのかね。
まあ今は良いか。
「魔力フィールド展開」
ふむ。海の水と言っても塩だけじゃないんだよな。
塩素、ナトリウム、硫酸、マグネシウム、カルシウム、カリウム、炭酸水素、ストロンチウム、ホウ素 、フッ素などなど。
……多すぎて把握しづらいな。
これは魔法で塩を作り出すのは一苦労だぞ。
仮に出来るとしても消費魔力量が半端じゃない。
一般人には無理だな。
「一般人にはな……」
そこは創意工夫ですな。
俺の場合は魔力フィールドのお陰で成分を把握出来る。
そして俺の手の中には塩の結晶がある。
昨日の夕餉の手伝いの時に拝借したのだ。
塩粒だった物を結合し結晶にしたのだ。
まあ小指の先程の結晶だがな!
「この結晶と同じ成分を抽出すれば良い」
それを結晶に結合して大きくするのだ。
ふふふ。
ただ浜辺に突っ立ってるだけじゃないのだよ!
魔力フィールドで海水に触れているのだ。
今も海水からナトリウムを抽出中なのだよ!
塩の結晶が徐々に大きくなっている。
「ふむ。透明だな」
なんだか岩塩みたいだなこれ。
塩は既に手の平大の石までの大きさになったよ。
「クラウスー? 何をしているんだい?」
「塩を作っているのー」
「なんだ塩を作っているのか」
クラウス謹製のお塩です。
海辺で塩!
「なんだって!? 塩を作った!? どう言う事だい? クラウス!」
「はい。塩です」
師匠に手塩に掛けて作った塩を手渡してみた。
「これが塩? 透明な石にしか見えないんだけど」
「ちゃんと塩だよ? 舐めてみる?」
塩イコール白い塊か粒しか知らないと分からないよね。
「わっ分かった。少し舐めてみよう…」
そして師匠のピンク色の小さな舌が塩の結晶に申し訳程度に触れていく。
バージンピンクの唇から覗く小さな舌が透明な結晶の上をゆっくりと上下に動いていく。
光を散らす潤いに満ちた舌は、満足いったのか綺麗な形の唇の中に収められた。
「確かに。うん。これは塩だ」
こうしてクラウス謹製エルフ印の塩が出来上がったのだ。
販売価格はグラム1万円からになります。
「家にあった塩を使って塩の結晶? を作ったの」
「なるほど…。クラウスは物を分けたり出来るんだったね。合わせる事も出来る訳だ…」
我は塩の錬金術師なり。
まあ冗談はいいとして、師匠もいい具合に常識と云う物が打ち砕かれつつありますな。
「私が師として教えるのは常識かもしれないな」
そうでもなかった。
師匠は遠く水平線の彼方を見ながら独り言ちてるよ。
まだ目のハイライトは消えてないから大丈夫か?
しかしその姿は哀愁を漂わせている。
「師匠には魔法以外も色々教えて欲しいですよ?」
魔法も他の事も師匠のルーツも全部な!
だから離さぬゾ! しっかりと抱きしめるゾ!
こう腰に手を回して後ろに……おや? いい具合な小山がある。
おっと。レディのお尻に断りもなく触れるとは紳士にあるまじき行為ですな。
失敗、失敗。
「大丈夫だよクラウス」
お? 師匠が微笑んでくれた。
「君をこのまま野放しになんて出来ないよ」
あれ? なんだか決意を秘めた微笑みですよ?
おかしいな? そんな悲壮感に満ちた微笑みなんて無いよね?
肩に置かれた手はじんわりと熱く。
その目は獲物を見据えた目だったりする。
「お手やわらかにお願いします」
「クラウス? 遠慮はいらないよね?」
師匠の心の火に余計に油を注いでしまったみたいだ。
使命感と云う名の火は、今や燎原の火よろしく燃え盛っているのだ。
ウレシクナイ。
海に来て、涼むつもりが、燃え盛る。
お後がよろしいようで。
読んでくれてありがとうございます。
時間が無いのに推敲が納得いかず手間取りました。
申し訳ない。
自分が読んでて楽しく無い物を読んでもらうのは納得いかないですよね。
なんとか時間を作り早く投稿出来るようにします。
それでは次回も会いましょう。




