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いい塩梅は夢の中?

 何事も、やり過ぎは良くない。この世の中は絶妙なバランスで成り立っているのだ。アレは悪だから根絶しよう。コレは有害だから廃止しよう。などと言い始めたら全てがうまく回らなくなってしまう。だから熟考して物事を判断しなければいけない。仮に判断を誤ったからと言って断罪していたら限がない。不完全なのだから。人間とは不完全な生き物なのだから許す心を持ち合わせよう。だから師匠。俺も許してね?



 俺と師匠は家に帰り着いていた。


 「まるで娘が出来たようで楽しいわね」

 「い、いえ。娘だなんて、まだそのような関係では…」

 「あら? まだ、と言うことは、将来は娘になる可能性があるんですのね?」

 「ああ。それはその、言葉の綾と言いますか。その…」

 「そんなに構えなくてもいいのではないかしら? 私はただ同性と、このように話すのが楽しいのですから」

 「す、すみません」

 俺は、マザーと師匠のガールズトークを聞きながら夕餉の準備に勤しむのです。

 マザーが、ゆっくりしていてくださいと言ったけど。

 師匠は律儀に、お世話になるばかりでは申し訳ないと言って、手伝いを買って出たのですよ。

 だけどマザーの母性愛とか女子力に師匠は圧倒されている模様。

 まるで不慣れな後輩に先輩が優しく指導しているようですね。

 申し訳ありません。お姉様。

 いいのよ。貴女は私の妹なのですから、みたいな?

 いつかどこかで誰もが夢想した百合の世界ですな。

 でも、どう見てもマザーの方が背が低く。

 師匠の方が背が高いから姉妹逆なんじゃないかな。


 そう思うでしょう。

 しかし! 一見逆に見える関係ですが。これは背の高い不慣れな妹を優しく指導する背の低い艶のあるお姉様。

 と言うシチュエーションなのですよ! いわゆるギャップ萌えってやつだ。

 背の高い凛々しく毅然とした態度の妹は、実はお姉様の前では従順に従う可愛い妹に大変身!

 お姉様も普段は、おっとりしていて嫋かな仕草の淑女だが、妹の為ならば大胆な行動も厭わない。

 何と言う絆か! 何と言う姉妹愛か! 互が互いを支え合う姿は、まさに素晴らしいの一言に尽きる!

 そして、そんな妹にも婚約者がいるのです。婚約者の名前はクラウス。二人は普通に出会い。普通に恋をして。普通に結婚するのです。クラウス君は人族の好青年で、アデリーネだけを愛する一途な人。二人は永遠の愛を誓い結ばれるのです。でも、ただ一つ二人には違いがあります。そう、奥様はエルフだったのです!


 「クラウス? 何をしているんだい? 早く。このお皿をテーブルに運んでくれないかい?」

 「はーい!」

 しばしば妄想が肥大化するのですよ。

 ご容赦下され。

 そして俺は師匠から受け取ったお皿をテーブルに並べるのだ。


 椅子にはダディが座り。台所にはマザーと師匠。

 そして二人を甲斐甲斐しく手伝う俺。

 家族ですな。素晴らしい。

 今は4人だが行く行くは増えて行くだろう。

 俺にも弟か妹が出来。

 俺と師匠の間にも愛の結晶が生まれるのだ。


 などと将来の家族計画を練っていたら夕餉の支度は終わってたりする。


 「クラウス? 私の事は良いから自分の食事に専念するんだよ?」

 「はーい! 分かりました師匠」

 奉仕プレイに釘を刺されてしまった。

 そして師匠は自分でスプーンを使いスープを食している。

 師匠は恥ずかしがり屋だね。


 「あらあら? 私達に遠慮せず仲良くしてもいいんですよ?」

 「ぐっ! ゴホッゴホッ!」

 師匠がむせてしまわれた。

 スープにむせる。


 「べ、別に遠慮とかではなくてですね? 自分の事も出来ない者だとは思われたくないだけで…」

 「あっ。師匠。頬に雫が付いているよ? 拭いてあげるね!」

 すかさず奉仕プレイです。

 チャンスは逃さぬ!


 「えっ? どこかな?」

 「自分じゃ分からないから僕が拭いてあげるよ!」

 最もらしい事を言いつつハンカチーフで師匠の白く美しい頬を拭いていくのです。

 優しく的確に、綺麗なヴァージンピンクの唇の横の汚れを拭うのです。

 うむ。綺麗になりましたな。

 ひと仕事終えた気分ですな。


 「あ、りがとう。クラウス…」

 「どういたしまして!」

 おや? 白かった頬が薄くピンク色になってしまいましたな。

 こればかりは拭き取ることは出来ませんな。

 もったいなくて出来ない!

 白のカンバスに恥じらいの赤。

 この芸術を拭き取るなんてとんでもない!

 この芸術は人類の宝なのです。


 「これで綺麗になったね! いつもの可愛い師匠だよ」

 「かっ! 可愛いだなんて! 何を言ってるんだい!? クラウス!」

 「二人は本当に仲がいいね。自分の息子が嫁を迎えると、こんな感じになるんだね」

 「楽しくて良いですわね? あなた」

 ダディ良い事言った。



 そして真っ赤になった師匠を囲んで家族の団欒がありました。



 「何だかクラウスと居ると落ち込んでいる暇もないね」

 「そうかな?」

 ベットに腰掛けながら師匠は言うけど何かあったかな?


 「そうだよ。貴族や塩の事で悩んでいた私だけど、クラウスは陽の光で水を沸騰させて私を驚かせているじゃないか」

 「ああー。確かに?」

 悩むより驚かせてばかりいるもんな。

 落ち込む暇も無いな。


 「それなら悩みが無くなれば良いんだね」

 「クラウス?」

 アホな派遣貴族なんて手出し出来ない様にしてしまえばいいんだよ。

 塩の値上げ? 上等だ。値上げするなら塩を増やしてしまえばいい。

 西と東から塩を持って来れないなら南で塩を作ればいい。


 「僕が師匠の助けになるよ! だから安心して?」

 「クラウス?」

 だのに、どうして師匠の笑顔は怖いのでせうか?


 「君は一体何を考えているのかな? 師である私に話してみたまえ」

 「え? 悪い事は考えてないよ? 本当だよ?」

 「うんうん。誰でも初めはそう言うんだ。だけどね? 師弟の間柄に隠し事は無用だよ? さあ、全て話しなさい」

 あるぇー? 師弟の信頼が50%まで落ちちゃってます?


 「本当だよ! 今日の陽の光の実験を応用して海の水から塩を作り出そうってだけなんだ。別に山程作ろうだなんて考えていないよ? 小山ぐらいだよ! 可愛いもんだよ!」

 いきなり市場破壊はしませんよ? ジワジワと帝国を嬲るくらいだよ!

 だのに、何故師匠はうなだれているのでしょうか?


 「クラウス……。君は塩の王にでもなるつもりかい? 私は塩漬けのクラウスなんて見たくないよ?」

 「僕は塩漬けなんかにならないよ?」

 むしろ件の貴族を塩漬けにしてやりたい。


 「私を思っての発言なんだろうけど、それはやり過ぎだ。精々周辺地域に塩を融通するくらいでいいんだよ。帝国貴族が危惧しない程度で良い」

 「はーい!」

 過ぎたるは猶及ばざるが如し、と言うしね。

 何事もやり過ぎはいくないね!


 「それでも良い考えではあるね。君の友達と一緒に考えるんならやってみても良いよ」

 「ありがとう! 師匠」

 敵に塩を送り油断したところを後ろからバッサリと斬り捨てましょう。


 「クラウス? 重ねて言うけどやり過ぎないでね?」

 「ワカッター」

 師匠はお見通しのようだ?





 そして師匠の憂いを断つべく。俺は最善の一手を夢の中で模索するのだった。

読んでくれてありがとうございます。


師匠の敵は弟子の敵。

いつか誅滅する日がくるかも?


次回もお会いしましょう。

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