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鏡の迷宮を抜けて…。

お待たせしました。

 人は難問を前にすると穿ちすぎて時に誤解答を出してしまう。だけど後になって冷静になると、アッサリ解いてしまえるのだ。諸君も問題はあらゆる角度から見て解答の糸口を探し出して欲しい。まあ、女心は理解し難いけどね。頑張れ! 男性諸君! 解ければ明るい明日が待っているさ。



 俺と師匠は二人で手を繋ぎ歩いていた。


 「師匠? さっきは何で僕の名前を出したの?」

 「何故クラウスの名前を出したか。それはね。嘘をつくなら少し本当の事を混ぜる。そうすると無理がなくなるんだよ。私も無理なく話せたしね」

 「本当はー?」

 「後ろめたいから、それとクラウスの事を誇りたかったからかな?」

 師匠は悪戯が成功したみたいな顔をして俺に微笑んでくれた。


 「それで、これから何処に向かうのかな? このままだと村の西側かな?」

 「うん。このまま真っ直ぐ進むと、ドッドの所に行けるよ」

 「ふ~ん。クラウスの友達のドワーフの所に向かうんだ。名前で呼んでるんだね」

 「そうだよ? 友達だからね」

 む? 師匠の態度が少し変だ。何だ?


 「ほら。行くよ」

 「わっ。師匠、そんなに急がないで! 足、足の長さが違うのに!」

 なんだ? 急に急かしてきたぞ?



 師匠に急かされたからかドッドの家には早くに着けた。



 「こんにちはー! ドッド居るー?」

 「おう! クラウスか。少し待ってな! 今、荷の仕分けをしてんだ!」

 鍛冶場の奥からドッドの声が聞こえるな。

 荷物の仕分けですか。お疲れ様です。


 「分かったー! 適当に座って待ってるね!」

 「おう! もう少しで終わる。待っててくれ!」

 「師匠。座ろう? はい椅子にどうぞ」

 「それじゃあ座らせてもらうよ。うん? クラウスの椅子は無いのかな?」

 「僕なら大丈夫だよ。いつもの様にドッドと同じく適当に座るから」

 大丈夫ですよ。師匠を地べたに座らせる事などしません。


 「……。クラウス」

 「うん? どうしたの師匠」

 「ここに座りなさい」

 「へ? ここってどこ?」

 一体、師匠はどうしたんだ?


 「……私の膝の上だ。早く座りなさい」

 「はい?」

 待て、師匠は一体何を言っているのだ? 膝の上だと?

 師匠が椅子に座り。俺は椅子に座った師匠の膝に座る?

 そんなことになったら、あのオパーイが頭に当たるじゃないですか!

 なにそれすごい。

 俺は異世界に来てエルフ椅子に座る事になった。

 あれ? 字面だけだと酷く背徳的だ。


 「…嫌なのかい?」

 「そっそんなことないよ! 座ります!」

 嫌な訳無いじゃないですか。むしろご褒美? あれ? 幸せ過ぎて少し怖い。

 大丈夫だよな? 大丈夫だよね? 夢じゃないかしら。

 よし。触って確かめてみるか。

 うむ。確かに師匠の太ももだ。


 「それじゃあ失礼して…座ります」

 「うん」

 そして俺は俺の想像力の凡庸さを思い知った。

 この世にこんなに柔らかく。温もりに溢れ。優しく包んでくれる椅子があっただろうか。

 師匠の大山脈が、俺の頭を左右から挟んでくるフィット感。

 そして両手で、ぬいぐるみでも抱くようにして包んでくる安心感。

 柔らかな太ももは、どんな上質のソファーも敵わぬ優しい温もり感。

 そう、俺はフルアーマ・エルフ・チェアに座ったのだ。

 ああ。胎児まで還ってしまいそうな安息に満ちた時間だ。

 願わくば未来永劫続いて欲しい。

 あれ? 俺何しに来たんだっけ?

 まあいいか。


 「すまねぇな! 待たせちまった……な? 何やってんだ?」

 「へ? あっ。こんにちは、ドッド」

 ほんと何してんだ俺?


 「そっちの嬢ちゃんは誰だ?」

 「初めまして。クラウスの師であるアデリーネ・グリューンです。よろしく」

 師匠が俺を抱きしめながら立ち上がり挨拶をしてまた座った。

 もちろん俺を抱いたままだ。


 「そっそうなんだ僕の師匠なの」

 「クラウス? 他の人に紹介する時は名前で紹介するんだよ? はい。もう一度」

 あれあれ? いきなりスパルタですか?


 「僕の魔法の師匠で、アデリーネ師匠です」

 「よろしくお願いします。うん。クラウスよくできたね。えらいよ?」

 一転。褒められまくったよ? わけがわからないよ!


 「おう。話には聞いていた。俺はクラウスの友、ドッドだ。よろしくな」

 師匠の拘束力が10%上がった。

 クラウス君はエルフ椅子に少しめり込んだ!

 しかし柔いのでダメージは0だ!

 なんだか社長椅子に座って、ふんぞり返っているようだな。

 て言うか、師匠の鼓動が伝わってきますよ。

 そのぐらい密着してますよ!


 「それで、今日はどうしたんだ? まさか紹介だけして終わりじゃあるめぇな?」

 言いながらドッドは小鍋に水を入れて火にかけ始めた。

 お茶でも出してくれるんかね?


 「今日は鏡の材料が出来たから持って来たんだよ」

 「そうか! 出来たのか。クラウスは仕事が早いな! 良い鍛冶師になれるぞ」

 師匠の拘束力が20%まで上がった。

 クラウス君はエルフ椅子にめり込んだ。

 特殊効果の乳圧でダメージ2000。

 師匠! 僕のライフはもう0よ!


 「クラウス。さっそく見せてくれ」

 「う、うん。わかった~」

 ようやく解き放たれた。

 だが頭が沸騰しそうだよ?

 お陰で少しふらつくぜぇ。


 「はい。この籠に入ってるよ。銀と銅さえ有れば直ぐに作れるよ」

 「一つ。二つ……。五つも作ってくれたのか。材料を持って来る少し待ってくれ」

 ドッドが棚から銀と銅を持って来てくれた。

 ついでに樹脂も持って来た。

 俺が忘れてもちゃんと持ってきてくれる流石はドッドだ。


 「さっそく始めるね」


 そして俺は石英ガラスに薄く銀を付着させて行った。

 次に銅を薄く伸ばす。最後に樹脂を乾かして終わりだ。

 今のところ1個につき5分と言ったところか。

 最終的に30分くらいで5個を作り終わるな。

 師匠に贈るわけじゃないから少ない時間ですむな。

 もはや慣れた職人技の様に滞りなく作成出来る。

 師匠のは逸品物だから微妙な歪みも妥協しない。

 厚みもしっかりした匠の品です。

 実は特殊加工で硬度を格段に上げてある。


 その特殊加工とは何か? もちろん魔力付与である。ある時ふと思ったのだ。石英も鉱石だ魔力付与が出来るはずだ、と。どのような付与にしようか考えた時、石英のモース硬度を思い出したのだ。石英の硬度は7。6の軽石より硬く。8のトパーズより脆い。と言う事を。まあ比べる材料が無かったので石英同士をぶつけたのだがな。一方は素の石英で、もう一方が魔力付与した石英の塊。ぶつけた瞬間に素の石英が欠けてしまったんだ。魔力付与した方の石英には殆んど傷がなかった。実験は成功した。確実に硬度7以上の魔力石英が誕生したのだ。


 そして師匠の鏡には強靭な硬度と弾性を付与したのだ。

 これで師匠の美しさを映す鏡は、損なわれる事がない鏡へと姿を変えたのだ。

 もちろん指輪もな!


 「はい。終わったよ~」

 「おう! お疲れ! 良い出来だな。これなら高値が付くだろ。俺のを見てくれ! まだ少し歪んじまうんだよ」

 「ああ~。少し歪んでるね。でも、もう少しで綺麗に作れるよ!」

 「おう。クラウスにゃあ負けていられねぇぜ!」

 そして男同士称え合っていたのだが……。

 どうも師匠の視線がひやりとする。


 「クラウス楽しそうだね」

 何かしましたかね? ご機嫌ナナメですか?

 楽しいかと言われれば楽しい。

 だがこのクラウス。師匠の事以上に楽しい事などありませんよ!

 うむ。正直に言おう。


 「楽しいよ! でも師匠の為に作るともっと楽しいよ!」

 「そっそうかい? 私の為に作るのが、そんなに楽しいのかい?」

 「うん! その指輪を作った時が一番だね!」

 「ほおぉ。指輪なんか作ったのか。どれ、どんな指輪を作ったんだ?」

 「師匠。少しだけ貸して良い?」

 「うん。構わないよ」

 そして師匠から指輪を受け取りドッドに見せたんだけど。

 どうも、ドッドが矯めつ眇めつ見始めてしまったよ。


 「ほほぉ~。こりゃ凄いな。蔦と葉っぱの模様か。かなり精巧な出来じゃねぇか。こりゃ作り手の愛を感じる逸品だ。この透明感も他とは段違いだ。やるじゃねぇかクラウス!」

 「まあね! 師匠への愛を込めた指輪だよ!」

 「嬢ちゃん。大事にするんだぜ? これには値が付けられねぇこの世に一つだけの品だ」

 ドッドは大仰に言いながら師匠に指輪を返したね。

 やだよ~照れるじゃないの。


 「ええ。これは私の弟子が作ってくれた宝物です。大事にしますよ」


 師匠は、さっきまでの不機嫌が綺麗さっぱり消えて、良い笑顔でドッドに答えた。

 そして左手の薬指にそっと指輪をはめた。

 その指輪は誇らしげに輝いていた。


 「いい返事だ。おっと、そろそろ湯が沸くな。鏡は横に置いとくぞ?」

 「うん。わっまぶしっ!」

 光が鏡に反射して俺に当たったじゃないか!

 下からくるぞ! 気をつけろ!

 俺は横に避けるぜぇ!


 「ふう。眩しかった」

 「こりゃ沸騰しちまったな。少し冷まさなきゃいけねぇ」

 なんだよ湯気が出るほど沸騰させたのかよ。


 ……ん? 光、眩しい、熱い、沸騰、湯気……。

 そして……鏡。


 「謎はまるごと解けた!」

 「きゃ! どっどうしたの? クラウス?」

 「なんだ? いきなり騒いでどうしたんだ?」

 素で驚いた師匠が可愛いが今は置いておこう。

 俺は今まで澱の様に心の底に沈んでいた疑問が解明されたのだ。


 「師匠! 竹の問題が一気に解決するかもしれないよ! ドッド! その為に協力して欲しいんだ!」

 「え? 竹の問題が? 一体どう言う事?」

 「んー? なんだか分からねぇが、あの問題が解決するのか? 本当か?」

 ああ。簡単なトリックだ。

 それで全て解決する。

 用いる道具は三つ。

 光と鉄と水この三つが交わる時。

 一つの答えが導き出されるのだ。



 俺はその内容を呆けた二人に説明した。

読んでくれてありがとうございます。


今回の話は中途半端になった二つを合わせて作ったんですよ。

そしたら予想以上に推敲が手間取りまして、申し訳ない。


それでは! 次回も会いましょう。

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