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幕間―あるエルフの悩み―

お待たせしました。

 私の名は、アデリーネ・グリューン。

 人族の世の中で生きる奇特なエルフ。

 今の私は、バドル公国子爵ジークリード・シュミット閣下の信任を得て、調査の旅に出ている。

 現在の子爵閣下は、南方都市アスルで伯爵閣下の補佐の任に就かれている。

 子爵閣下は多忙ゆえ、私からの報告はテオバルト・ディンガー子爵にと言いつかった。

 このテオバルトなる男には閣下などと敬称を付けたくはない。

 私は、初見で会った時に寒気がした。

 人の事を上から下まで、値踏みする様に見てくるのだ。

 目は物を見るよう。

 口はいやらしく歪み。

 下卑た笑を一瞬見せたのだ。

 その後、澄ました様にしているものの。

 時折、私の身体を視線で探る様に見てくる。

 それも胸の部分をチラリチラリと、だ。

 初め寒気がし、次第に嫌悪が来て、最後には苛立ちを募らせる。

 そんな人族だ。


 先日も報告に行った時に言われた。

 『旅装のままでは窮屈だろうに、ゆるりとした服装に着替えてくればいい』と。

 誰が隙を見せるものか。

 あの一度見た好色じみた笑が顔の裏側にあるかと思うと。マント無くして、あの男の前には立ちたくはない。

 あの初見以降、私はマントで身体を隠す様にしながら子爵の前に立つ事にしている。

 断りの言葉も『急いで居ますので失礼。』と言っている。

 あの浅ましさには辟易する。

 同じ子爵位でも天と地ほどの開きがある。


 それもそのはずだ。

 シュミット子爵閣下は生粋のバドル公国の生まれだが。

 ディンガー子爵は帝国より遣わされた子爵だ。

 方や真摯に国の行く末を憂う人族だが、もう一方は支配側の人族だ。

 帝国の出だと聞き納得したものだ。

 昔、エルフの娘を拐かそうとした奴等だ。

 推し量るには十分な条件だ。


 だが何故、仮想敵国の子爵に情報を渡すのか初めは訝しんだが。

 一度目の報告の際に理解した。

 あの子爵は、こう尋ねて来たのだ。

 『それで、公都で塩の精製を任せられそうな者は見つかったのかね?』と。

 子爵閣下には前もって聞かれれば素直に報告してもらっていいと言われていた。

 疑うこともなく素直に思っていたがそう言う事なのだ。

 不自然さを出さない為に敢えて言い含めなかったのだ。

 私なら身構えてしまっただろう。

 シュミット子爵閣下は人を見る目がある。

 そして私は素直に報告している。

 故に帝国側に疑われる事もなく情報を集め。

 子爵を利用して公国に謀反なしと認識させていたのだ。

 情報操作と情報収集を兼ねた手管に少し驚かされた。

 大胆にして冷静沈着。虚を突く様はまさに貴族であった。

 路傍の石も宝石に変えると言ったところか。


 その一件以来、私も外ではこう言っている。

 『近年、塩が不足している。精製の為に魔力に秀でている者を探している』と。

 火魔法で塩水を煮詰めて塩を精製すると偽っている。

 さぞ滑稽な事に映るだろうが、だからこそ疑いもしないのだ。

 帝国は塩の量を調節し公国を良いように支配しようとしている。

 だからこそ無益な抵抗に見えて疑いもしないのだ。


 これは魔獣の襲来で流通路が途切れ途切れの今だからこその言い訳だ。


 だが最近これとは別の事で懸念がある。

 どうもディンガー子爵が帝国に塩の値上げを進言しだしたのだ。

 どうせ中間搾取しているだろうに。

 まだ金が欲しいと見える。

 人族の欲望を見誤ったか。

 これで値が上がれば公国の東西に伸びた流通路が仇となる。

 本当の塩不足に陥る。

 あの男は度し難い程の愚か者だ。

 塩の利益を得る代わりに不審を買っている。



 来る先の憂いを胸に、私はまた旅に出た。



 南東の開拓村。

 南方の開拓村と続き。

 次は南西の開拓村に向かった。


 東の開拓村の子供達は静かで控えめな大人しい子ばかりだった。

 南方の開拓村は明るく素直な子達だった。

 南西は……。

 良く言えば元気で自己主張の強い子達だ……。


 やはり率直に物を言おう。

 あれは山に棲む山猿だ。

 気性の激しいボス猿が群れを仕切っていた。

 クラウスと同じくらいの子供なのに気が荒く。

 年上だろうがお構いなしなのだ。

 悪戯三昧の悪ガキで手がつけられない。

 その癖、人を引き付ける何かを持っている。

 質が悪い。


 ……クラウスと大違いだ。

 あの子は今どうして居るだろう。

 私にいきなり告白し輝くような瞳をした。

 あの素直な少年は何をしているのだろうか。

 私の言い付け通りに課題をこなしているのだろうか?

 あんなに好意を寄せられたのは何時ぶりだろうか。

 私が師として導かなければ。

 あの笑顔をまた見たい。

 厳しく律して行こう。

 また一緒に寝るのかな……。


 いけない。

 何故か思考に余計な物が挟まる。

 遠くを見詰めて心を落ち着けよう。

 そう思っていた時だ。


 邪神の眷族。その残党を見つけたのだ。

 幸いな事に一匹だけだったので難なく狩れた。

 どうやら群れから、はぐれていたのだろう。


 クラウスに会う前に少し服が汚れた。


 奴等は狩れば身体から黒い煙を出す。

 肉体は残せば病になるので火で焼き払った。


 トモスト村に着いたら川の水で清めようと決めた。

 あの村には近くに人気の無い川が一つあった。

 村の西側にある林の奥の川だ。

 クラウスの家の近くだ。



 そして私は村に辿り着いた。


 「この村は長閑だな…」

 子供達が元気に走っている。

 その後ろを大人が追っている?

 …。

 ……。

 見なかったことにしよう。


 「さて、川に行くかな」

 西側の川に。

 だけど、先に少しクラウスの顔を見に行こうかな。

 先ほど彼の父親に会った。

 私が村長宅へ挨拶に入った時に入れ違いになったのだ。

 やはり親子だからか少し似ている。


 「やっぱり会ってからでもいいな」

 うん。元気にしているか様子を見よう。

 師としては弟子の成長を見なければいけないよね。

 うん。川はそれからでも遅くない。


 「あれ? …あの魔力の気配は……」

 向こうから彼が走って来る。

 あんなに必死な顔をして。


 「あっ! そんなに慌てたら転んでしまう」

 手を振って注意しよう。


 ……なぜ余計に勢いが増すのかな?

 怒って注意しなきゃ。


 ……でも、少し嬉しい。

 そう思ったら怒る気が失せてしまった。

 だから怒るよりも違う言葉が口に出た。


 「ただいま。クラウス」

 「おかえり! 師匠」


 彼は私に飛び付いて来た。

 だから私は受け止めた。

 なぜだか安心してしまった。




 だから、ただいまと言う言葉も違和感が無かった。

後半は悩みと言うより惚気?


幕間は20話縛りはキツイので少し緩めました。

次回また会いましょう。

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