ドッドと僕の楽しい科学実験その2。
昨日の続きですよ。
宙に浮く。ああ。なんと素敵な響きだろう。前世では空に浮かぶ雲のようになりたいと考えていたものだ。だって空に浮いてる雲って、ふわふわしてて、柔らかそうで、わたあめみたいで甘そうな…。甘味が欲しくなってきたな。とにかく宙に浮くのは素敵だ。宙に浮きたい病に罹った私は略して、宙に病だと思う。
「ドッド? おーい? 起きてますかぁ?」
厳いおっさんの顔の前で手を振ってみた。
「おっ? おう。起きてるよ。大丈夫だ」
とか言いつつ頭が現実を処理不可能って感じの顔だぞ?
「この石を使って今から宙に浮いてみせるんだけど…。いい?」
浮くだけで驚いたら、これからの出来事に対処できませんぜ? 旦那。
「おう。やってみせてくれ。問題ない」
ドッドは正気に戻った。
ドッドは身構えた!
それじゃあ磁石を取り出しまして~、くっ付いているのを離してぇ~。
そう言えば反発する力が増したけど別に磁石としての整合性は失ってないのな。
S極とN極が反転するとかじゃないし。
反転すると言えば太陽の磁場は反転するんだっけか? 訳分からんな。
やっぱりこの世は不思議で満ちてるね。
と言ったところで準備完了だ。
「この下に敷いた引鉄石の上に、もう一つの引鉄石を置くね?」
さぁ、素敵なパーティーの始まりですよ?
「…おう」
すんげー食い入るように、かぶりつきで見てくるよ。
それでは置き~ます。
「…本当に、浮きやがった……。俺は、夢でも見てるのか?…」
おーおー。目をあらん限り開いてますよ。
だけど、これで終わりじゃないぜ!
取り出したるは、何の変哲もないただの板です。
これを浮いた磁石の上に置きまして、その上に乗り~ます。
「はい。どう? ドッド」
両手を左右にピンと伸ばしまして、ジーザスクライストスーパースターごっこですよ。
あっ、宗教関係者様、怒らないで下さい。小さな子供のお茶目です。
別に真似して巫山戯たんじゃありません。
ホントウデスヨ?
「クラウス……。おめぇ…本当に浮いているのか?……」
俺が埒もない事を考えてる間も、ドッドは呆けたような顔で俺を見ていたりする。
顎外れないんかね? 何か放り込んだら、そのまま飲むんじゃね?
「引鉄石と引鉄石の間に手を差し込んでみれば?」
幻では、ありませんよ? トリックです。タネも仕掛けも有る科学の力です。
ドッドやるんだ。どんと来い! 超常現象の世界へ。
「お、おう。手を間に入れればいいんだな?」
恐る恐るって言葉が似合いそうなくらい驚いてるね。
「…本当だ…。何も触れた感じがしねぇ…本当に宙に浮いてやがる!」
見たまえ、この小さな引鉄石を、これこそが超常現象の源なのだよ。
はっはっは。引鉄石の力を思い知ったかね?
全世界は引鉄石の元にひれ伏すことになるだろう!!
っと、まあ遊びはここまでだ。
「どっこいせ」
再びジジ臭。
「クラウス…。おめぇすげぇじゃねーかっ!!!」
「うわっ!!」
脅かすな! 人をいきなり持ち上げるな! ビビるだろ。
「こりゃ凄い事なんだぞ! もっと驚けっ!」
いや、十分驚いたから。ドッドのお陰で。
いきなりバカ笑いしながら持ち上げられたら誰でも驚くぞ?
「ドッド。僕はもう十分驚いたから。だからおろしてぇ!」
俺を掴んでぐるぐる回らないで下さい。
小踊りもやめて、上下に揺らさないでぇ。
胃の内容物が出ちゃうぅぅ。
リバースしちゃう!
磁気が反転せずに俺の胃が反転しちゃう。
「おっと、すまねぇすまねぇ。どうも興奮しすぎて我を忘れちまった」
だからって笑ってこらえてなんてあげないんだからね!
…ツンデレじゃないよ?
「ドッド。ひどいよ~」
まったく。お子様の扱いは慎重にしてよね?
デリケートなんだから!
「悪かった! このとおり謝る! すまん」
そんなに畏まらなくても分かったよ。
「しっかし、クラウスは凄いな。人が翼も無しに宙に浮くなんざ。俺は今まで生きた中で、見た事も聞いた事もねぇぞ?」
でしょうな。宙に浮くなんて俺も聞いた事も…あった。
初まりのエルフだ。天を駆けたとか師匠から聞いたな。
神話のお話だ。飛べもしよう。
「ドッドも凄いのは理解できたでしょ? そこで僕は、この凄い引鉄石を使って人の為になる道具でも作れないかな? って考えてるんだ」
ただ凄いだけじゃ意味がない。これを使ってこそ意味がある。
お金も使わなきゃ意味がない。使わず貯めるだけなんて、ただの紙切れですよ?
価値ある物は使ってこそ真価を問われるんだよ。
「クラウス。お前は本当に子供か? なんだか大人を相手にしているみてぇだ」
「今はどこの村も人が居なくて大変だからって聞いたんだ。だから何か出来ないか考えたんだよ?」
問題の前に大人も子供もあるまい。
「へっ。生意気言いやがって。……だが嫌いじゃないぜ。そういう気概はよぉ!」
いてぇー! 頭がもげるわ! ごつい手で頭撫でるなし!
「ドッドにも考えて欲しいけど。先に僕の考えを出そうかな」
「やっぱり何か考えてやがったな? 油断ならねぇぜ」
だからその漢臭い笑顔はやめれ。ニカッとすんな。
「この引鉄石を使って作る物はね。荷物を運ぶのに使う車輪の無い輸送道具なんだ」
「荷車がいらないだと? どうやって使うんだ?」
食付きがいいね。やっぱり有効性が理解できるんだろうな。
ドワーフの鍛冶見習は鉱石やら何やらの荷物運びから始まるんだろうし。
山の中を重いものを運ぶのは、いかに膂力に優れたドワーフでも辟易するだろう。
荷車じゃ車輪が壊れれば、直さなきゃ使えないしね。
「おいおい。もったいぶらずに教えてくれよ」
「慌てない慌てない。教えるよ。」
一休みして、姿勢を正すかね。
「この引鉄石を一枚の板に付けるんだ。板の端に一個づつで、合計四個付けるんだ。これで荷物を載せる方は完成だよ」
「確かに、そりゃ簡単だ。だがそれだけじゃねぇんだろ?」
モチロンですよ。
「車輪になる部分も教えるよ。これも簡単だよ。引鉄石を地面に固定して、荷物のある場所から運びたい場所まで繋ぐんだ。その時に引鉄石を敷いた場所からずれない様に、木で出来た細長い板で上に浮いてる板を運びたい場所まで沿うように置いていくんだ。これでズレないでしょ?」
これにて磁石輸送機の出来上がりなり。
例えば上に載せる引鉄石が反発しない程度まで板の方の磁石を調整しておけば、その上に置く引鉄石が反発される事もないだろう。
そこは作りながら最適解を探そう。
「くっくっくっ。はっはっはっ。こりゃさっきの驚きが小さくなるようなとんでもない発明だな!!!」
喜んでいただけたようで何よりですよ。
「よし! クラウス。おめぇの事は俺達ドワーフが面倒みるぜ! こいつは俺達ドワーフの助けになる! 大親方に言えば必ず同じ事を言ってくれるぜ!」
おや? 意外な所で協力を得られそうだぞ? ドワーフのコネクションが得られましたよ?
やべー。もしかしたら師匠との約束が直ぐに成されるやも!?
テンション上がってキター!!
「本当!? やったー! それじゃこの発明はドワーフの皆に上げるよっ!」
「おいおい。いいのかよ。お前が作った物じゃねーか」
かまへん、かまへん。構いませんよ!
偉大なる偉業を成し得る為なら。起源の主張なんぞしません。
そんな小さくてみみっちい些事にかまけてられませんよ。
それにドワーフだ。そうそう悪い様にはしないだろ。
こういうことは子供の俺じゃ無くて、この大陸に昔から生きてるドワーフだからこそ皆も納得するってもんだよ。
「いいんだ。この石に巡り会えたのも。ドッドがこの村に来てくれたからなんだし。それにこの村を守ってくれてるんでしょ? その感謝のお返しだよ」
「クラウス…おめぇは! 本当にドワーフを喜ばせる天才だな! コイツ!」
だーかーらー! また持ち上げるな!
「ドッド! まだだよ。まだ終わってないよ」
「うん? まだ何かあるのか?」
あるんですよ。だから下ろして?
「道具なら名前を付けなきゃ」
「確かにそうだな…。ふむ。引鉄石を使った道具だしな…」
まあ簡単に覚えられそうな名前がいいよね。
「ドッド。引鉄石で出来た道だから引鉄石道なんてどう? それでドワーフが作ったって事でドワーフ石道なんてどうかな?」
「ほぅ。引鉄石道でドワーフ石道ねぇ…。いいじゃねーか! 分かり易いし誰が聞いても覚えられそうだ!」
安直だけれど、名前は語呂が大事ですよね。
「そうだ。ドッド、引鉄石ってどれくらいあるのかな?」
「引鉄石か? それこそ山程あるぞ。そうだなさっそく知らせを送るか。ドワーフの友の頼みだ! 必ず返事が来るぜ!」
なにその心の友的な言い回し、と言うか。いつの間にやら対等な立場からクラスチェンジして心友になりましたよ?
パンパカパーン。クラウス君はドワーフの友の称号を得た! なんちゃって。
「なぁクラウスよ」
「なーに? ドッド」
なんじゃらほい?
「多分だがな。この発明はデカイ儲けになると思う」
「うん」
「お前は、この発明を俺達ドワーフにやると言った。だけどな? 見返りは受け取ってくれ。じゃねーと気がすまねぇんだよ」
利益ですか。確かに提供するだけの関係じゃ対等だなんて言えないよね。
遠慮も度が過ぎれば嫌味になるしな。
「分かった! それで対等、だね?」
「おう! 分かってるじゃねぇか!」
そして俺達は男同士の固い握手を交わすのだった。
「でも、僕はまだ子供だから大人になった時でもいいよ?」
「だな。小さい内に金なんて持ってたら、クラウスなんて小さくて運びやすいから何処かに持ってかれちまうな!」
あっはっはっはっはっ……冗談でも怖いこと言うな。
いらんフラグはへし折ってやる。
「それなら余計に持っていられないから、ドワーフで内緒で預かっていて? 欲しい時に言うから」
「そうだな。お前に迷惑はかけられねぇ。こいつは秘密だな」
だからっていきなり小声で喋らんでもいいよ。
「お前は人族にしちゃ欲があまりねぇよな。だから気に入ったんだけどな」
「そうかな? でも僕も欲しい時は欲しいって言うよ?」
師匠とかな! あの人は絶対に俺の妻にするぞー!
「まあ程度の問題だな。人族の貴族なんぞ最悪だ。特に帝国の貴族に限るがな」
「ふ~ん」
そうなのですか。要注意だな!
ここでも、また帝国の黒い噂を耳にするな。
できるだけ関わり合いたくないぜ。
磁石を使った鉄道のような物です。
そしてドワーフの後ろ盾も得ました。
さて、これで磁石は一端区切りが付いたかな。
だいぶ削除したショックから立ち直りつつあります。
でわ次回をお待ち下さい。




