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八つ目の大罪  作者: act
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第3話 七つ

放課後。


教室に残っているのは数人だけだった。


窓の外では、部活動へ向かう生徒たちが校庭を横切っている。机を引く音も、廊下を走る足音も、昼間より遠く聞こえた。


一ノ瀬麗は窓際に立っていた。


朝からずっと人に囲まれていたのに。


今は一人。


透は席を立たない。


向こうが来るのを待つ。


予想通り。


一ノ瀬がこちらへ歩いてきた。


「話、しない?」


「ここでなら」


「二人きりの方がよくない?」


「よくない」


即答すると、一ノ瀬は少し笑った。


「警戒してる?」


「昨日会ったばかりだからな」


「私の能力が怖い?」


透は一ノ瀬を見る。


「条件も分からないものに近づく理由がない」


一ノ瀬は一瞬だけ黙った。


それから。


透の前の席へ腰を下ろす。


机一つ分。


近すぎず。


遠すぎず。


「じゃあ情報交換」


「先にそっち」


「ずるい」


「話しかけてきたのはそっちだろ」


一ノ瀬は頬杖をつく。


軽い調子。


でも。


透はその表情を見ていた。


昨日。


人を好きにさせられる。


そして。


自分と同じような人間がいる。


そこまでしか出していない。


まだ何か知っている。


「私みたいなの。他にもいるよ」


「根拠は」


「ある」


「何人」


「多分。七種類」


透の目が止まる。


七人ではなく。


七種類。


言い方が引っかかる。


「能力が?」


「そう」


「なんで七つ」


一ノ瀬は少しだけ視線を外した。


答えるか迷っている。


その間。


透は口を挟まなかった。


待った方がいい。


黙っている人間は、相手が沈黙を嫌えば勝手に喋る。


案の定。


一ノ瀬が口を開いた。


「七つの大罪って知ってる?」


透は数秒考える。


「傲慢。強欲。嫉妬。憤怒。色欲。暴食。怠惰」


「ちゃんと知ってるじゃん」


「名前だけ」


一ノ瀬は自分を指す。


「私は多分、色欲」


透はその言葉を頭の中で転がす。


色欲。


人を惹きつける。


確かに。


単純な連想なら合う。


ただ。


「多分?」


「誰かに正式認定されたわけじゃないし」


「じゃあ仮説」


「そう」


「七つあるっていうのも?」


「半分は仮説」


「残り半分は」


一ノ瀬の表情が少しだけ変わる。


透はそれを見逃さない。


「誰かから聞いた」


一ノ瀬は答えない。


それで十分。


情報源がいる。


本人より詳しい誰か。


「誰」


「それは秘密」


「じゃあ交換になってない」


「あなた何も出してないけど」


「出すって言ってない」


一ノ瀬が目を細める。


透は気にしない。


能力の内容を話す必要はない。


触れる必要があることも。


何が聞こえるかも。


相手がどこまで知っているのか分からない以上。


自分から条件を渡すのは馬鹿らしい。


「あなた、何ができるの?」


「分からない」


「昨日、聞こえたって言ったじゃん」


「聞こえた。それだけ」


嘘ではない。


全部でもない。


一ノ瀬は透の顔をしばらく見る。


見透かそうとしているようだった。


透は視線を外さない。


先に折れたのは一ノ瀬だった。


「ほんと話しづらい」


「そう」


「普通、もうちょっと興味持つでしょ」


「持ってる」


「全然見えない」


「見せる必要ないから」


一ノ瀬が小さく息を吐く。


でも。


怒ってはいない。


むしろ。


面白がっている。


それが少し面倒だった。


「能力って、強くなることもあるみたい」


「どういう意味」


「最初から全部できるわけじゃないってこと」


透は黙る。


それは重要だった。


自分の力も。


今見えているものが全部とは限らない。


「誰から聞いた」


「だから秘密」


「そいつも能力者?」


一ノ瀬は答えない。


また。


沈黙。


透は頭の中で整理する。


七種類。


七つの大罪。


能力の成長。


情報源。


一ノ瀬以外に。


知っている人間がいる。


「じゃあ、あなたは何を知りたいの?」


一ノ瀬が聞く。


透は少し考える。


「全部」


一ノ瀬が笑った。


「欲張り」


「そうかもな」


言ってから。


透は自分の言葉に少し引っかかった。


欲張り。


ただの言い回し。


それだけのはずなのに。


妙に残った。


◇


校門を出る。


夕方の空気は昼より冷たい。


一ノ瀬は隣を歩こうとした。


透は歩幅を変えない。


「一緒に帰らない?」


「帰らない」


「即答」


「家知られたくない」


「そこまで警戒する?」


「知り合って二日」


一ノ瀬が笑う。


「じゃあ途中まで」


「別々で」


「冷たいなあ」


「普通」


交差点。


信号が赤になる。


透は立ち止まる。


一ノ瀬は横にいる。


道路の向こうでは、仕事帰りの人間が駅へ流れていく。


自転車。


バス。


車。


どこにでもある夕方。


でも。


透は少し前から違和感を感じていた。


黒い車。


交差点の向こう。


さっきから位置が変わっていない。


エンジンはかかっている。


運転席。


人影。


透は直接見ない。


窓ガラスの反射だけで確認する。


一ノ瀬も。


一瞬。


そちらを見た。


気づいている。


透は何も言わない。


信号が青になる。


「じゃあ、また明日」


一ノ瀬が手を振る。


透は頷かない。


そのまま別の方向へ曲がる。


一ノ瀬も反対へ歩き出す。


数十メートル。


透はコンビニのガラスへ視線を移す。


黒い車。


動かない。


一ノ瀬を追っている。


少なくとも。


自分ではない。


透は歩き続ける。


助ける。


そういう発想は浮かばなかった。


一ノ瀬自身も気づいている。


能力もある。


今すぐ介入する理由はない。


ただ。


誰が見ているのか。


そこは気になった。


◇


黒い車の中。


助手席の男がスマートフォンを耳へ当てる。


「対象を確認」


短い返事。


男は少し離れた歩道を見る。


一ノ瀬麗が一人で歩いている。


「色欲。単独です」


通話の向こうから何か聞かれる。


男は辺りを見渡した。


会社帰りの人間。


学生。


自転車。


タクシー。


特に不審な人物はいない。


「問題ありません」


『引き続き監視を』


「了解」


通話が切れる。


男は前を見る。


色欲と呼ばれた少女は。


何も知らないように歩いていた。


少なくとも。


男には。


そう見えていた。


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