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アマガタリ  作者: ひよりの
第二章
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 宮兵見習いのチガヤのお話です。彼には、誰にも知られていない、もうひとつの顔があり……





 チガヤには、だれらないかおがある。


 宮兵見習みやへいみならい。


 アオバたちとかたならべて訓練くんれんする。


 やりり、あせながし、ときにはしかられ、ときにはくだらないはなしわらう。


 ひくい。


 身体からだほそい。


 年若としわか少年しょうねんにしかえない。


 だから、だれおもわない。


 この少年しょうねんが、よるやみまぎれれば、べつかおつことなど。




 投馬国とうまこくには、おうしょうですららぬかげがいる。


 くにびる脅威きょうい見張みはり、そのおおきくなるまえる。


 ときには、だれにもづかれぬまま。


 ときには、存在そんざいそのものをなかったことにするように。


 その一人ひとりが、チガヤだった。



 もっとも。


 本人ほんにんは、それをほこっているわけではない。


 くにまも使命しめい


 おうへの忠誠ちゅうせい


 仲間なかままもるため。


 そんな大層たいそうなことを、かんがえたことすらない。


 必要ひつようだから、やる。


 めいじられたから、やる。


 ただ、それだけ。


 


 そのよるも、チガヤはやみなかにいた。


 よるみやは、ねむりについている。


 高殿たかどのこうには、薄雲うすぐもおおわれたつき


 そのあわひかりが、屋根やねはしはしらをぼんやりとかびがらせている。


 木々(きぎ)こずえわたかぜが、こする。


 とおくで夜鳥よどり一声ひとこえいた。


 そのこえも、すぐにやみけていく。

 


 しずかだった。


 あまりにもしずかで――


 だからこそ。


 ちいさなおとさえ、異様いようなほど鮮明せんめいひびいた。



 ――ざり。


 つちおと


 おとこかえった。 


 なにかをさっした、その瞬間しゅんかん


 月明つきあかりのしたで、ぎんせんはしった。


 短刀たんとうが、おとこうであさく。


「――っ」


 こえれかける。


 だが。


 そのまえに、チガヤのおとこくちふさいだ。 


 られていたしびどくが、すぐにはじめる。


 おとこ身体からだからちからけた。


 ひざれる。


 チガヤはたおれる身体からだささえた。


 最後さいごまでしずかに。


 おとこは、いとられた人形にんぎょうのように、チガヤのうでなかちからうしなった。


 むねが、かすかに上下じょうげしている。


 きている。


 それで十分じゅうぶんだった。



 チガヤは無言むごん短刀たんとうぬぐう。 


 月明つきあかりのとぼしいよるだが、そのまよわない。


 はほとんどていなかった。


 いつもどおりだ。


 おとこふところれ、木簡もっかんす。


 とおす。


 もどす。


 なわ手足てあししばる。


 わり。


  

 手順てじゅんわらない。


 感想かんそうもない。


 尋問じんもんするのはべつ役目やくめだ。


 チガヤの仕事しごとつかまえるところまで。


 それ以上いじょうでも、それ以下いかでもない。 


 ――もっとも。


 最近さいきんすこおおい。


 チガヤはおとこ見下みおろした。


 今月こんげつはいって、何人目なんにんめだろう。


 かぞえるにもならない。



 まぎれてはいりこんだもの


 商人しょうにんよそおっていたもの


 旅人たびびとのふりをしてみや様子ようすさぐっていたもの


 先日せんじつなど、使者ししゃ従者じゅうしゃにまでまぎんでいた。



 何故なぜえているのか。


 だれ背後はいごにいるのか。


 そこまでかんがえるのは、チガヤの仕事しごとではない。


 

 そのときだった。


 ――ざく。


 落葉おちばおと


 チガヤのが、すっとほそくなる。


 ひと気配けはい


 一人ひとりではない。


 二人ふたり


 足音あしおと間隔かんかく


 おもさ。


 ある速度そくど


 そのすべてを、ほとんど無意識むいしきる。


 チガヤはまよわなかった。


 おとこ身体からだかかげる。


 そして一歩いっぽ木立こだちおく退しりぞいた。


 もう一歩いっぽ


 やみ場所ばしょへ。


 身体からだみきせる。


 いきめる。


 気配けはいす。


 

「……あーねみぃ」


 れたこえがした。


 チガヤのまゆが、ほんのわずかにうごく。


「だから見回みまわちゅうだってってるだろ」


 もう一人ひとりあきれたようにかえす。


 アオバ。


 モモジ。


 見慣みなれた二人ふたりだった。


 木立こだちこうから、二人ふたり姿すがたあらわれる。


 アオバはやりかたかついでいる。


 となりでは、モモジが松明たいまつかかげている。


 橙色だいだいいろほのおが、夜風よかぜあおられてれた。


 そのたびに、二人ふたりかおあかるくなったり、くらくなったりする。


相変あいかわらずなんきねぇなあ」


なにきないのが一番いちばんだろうが」


「なんか腹減はらへってきた」


緊張感きんちょうかんのないやつだな。もっと集中しゅうちゅうしろよ」


「だってひまなんだから仕方しかたねぇだろ」


「だからって見回みまわちゅうるなよ」


てねぇよ」


「さっきじてただろ」


かんがごとしてたんだよ」


うそつけ」


 モモジがわらう。


 アオバもあきれながら、口元くちもとをわずかにゆるめる。



 その様子ようすを、チガヤは木陰こかげからだまってていた。



 ――ひま



 チガヤのほそくなる。


 だれのせいで、自分じぶん今月こんげつだけでも五人目ごにんめしばっているとおもっているのか。


 宮兵みやへいが「ひま」でいられるのは、ひまむように、だれかがよるやみまわっているからだ。


 ――自分じぶんだ。


 チガヤはちいさくいきいた。


 いっそ。


 いまていってうしろからばしてやろうか。


 ほんの一瞬いっしゅんだけ。


 本当ほんとうに、ほんのすこしだけ。


 そんなかんがえがかんだ。



 だが。


 そのときだった。


 ――ぐるるるる……


 よるしずけさのなかに、みょうひくく、ながおとひびいた。


「……」


 モモジがあしめる。


 アオバもまった。


「……いまおと


 モモジは自分じぶんはらさえながら、ゆっくりかおげる。


「ヒシンのいびきみてぇじゃなかったか?!」


「……は?」


 アオバがあきれたかおける。


 だがモモジは、それどころではなかった。


「いや、マジで!」


 興奮こうふんしたようにこえはずませる。


「あの……こう……のどおくからひびいてくる、ぐるるる……ってやつ!」


「知らねぇよ」


ってるだろ!」


 真剣しんけんかおで、モモジがくびる。


おなじだって! いまのは完全かんぜんおな音色ねいろだったぞ!」


意味いみからん」


「ほら、あいつてるとき最初さいしょしずかなんだけどよ――」


 モモジがこえひくくする。


「……ぐるるるる……ってって」


 さらにのどふるわせ、


「……んごっ」


「やめろ」


「それから――」


「やめろって」


 アオバが小声こごえ怒鳴どなる。


「……ふがっ! って」


「……」


 アオバはしばらくモモジをつめた。


 そして。


「……ふっ」


 こらえきれなかった。


「ははっ……!」


「ほら! やっぱ面白おもしれぇだろ!」


 アオバはかたふるわせながらわらう。


「おまえが……おまえ馬鹿ばかすぎるんだよ……!」


 二人ふたりわらごえが、よるみやちいさくひびいた。



 木陰こかげひそむチガヤは、無言むごんのまま二人ふたりていた。


 ――なにをやってるんだ、こいつら。


 そうおもいながらも。


 チガヤの口元くちもとが、ほんのわずかにゆるんだ。



 不思議ふしぎだった。


 さっきまでめていた身体からだから、ちからける。


 ほんのわずか。


 それだけだった。



 ――知らなくていい。


 そうおもう。


 アオバも。


 モモジも。


 ほか宮兵みやへいたちも。


 なにらなくていい。


 ひるになれば、また訓練くんれんをする。


 くだらないはなしをして。


 はらかせて。


 わらって。


 よるになれば、安心あんしんしてねむればいい。


 そのために、自分じぶんやみなかにいる。


 それでいい。


 チガヤは、そうおもった。


 いや。


 もしかすると。 


 そうおもうことにしていた。



 二人ふたりこえとおざかっていく。


 やがて足音あしおとこえなくなった。



 チガヤは木陰こかげからる。


 地面じめんよこたわっていたおとこを、かたかつげる。


 ずしり、とおもい。


 小柄こがら身体からだには、不釣ふついなおもさだった。


 それでも。


 チガヤのあしまらない。 


 一歩いっぽ


 二歩にほ


 よるくさける。


 つきくもこうへかくれた。


 やみが、いっそうくなる。


 そのやみなかへ。


 少年しょうねん姿すがたが、ゆっくりとけていく。


 やがて。


 なにえなくなった。



 かぜだけが木々(きぎ)らしている。


 こすれるおとが、かすかにひびく。


 投馬とうまみやは。


 何事なにごともなかったかのように、しずかなよるを取りもどしていた。




 Xはこちら

 https://x.com/sugarpine144292


 世界観や詳細設定などはこちら

 https://kakuyomu.jp/users/deub1wfdsil8oeo2h0c0wsmle/news


 オリジナル曲など

 https://youtube.com/@cobacoba6499?si=K9SayXLng5BD4vAZ


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