↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アマガタリ  作者: ひよりの
第二章
PR
83/108

静謐なる軋轢



 投馬とうまみやおく――


 灯火ともしびがひとつ、ひくいきづくようにれている。

 


 ミナギは、したままうごかなかった。


 したわけではない。


 それでも――る。


 そうかっていた。




 衣擦きぬずれのおとが、ひとつ。


 タヅマが、おとてずにひざをつく。


 しばらく、二人ふたりあいだ言葉ことばはなかった。


 沈黙ちんもくだけが、しずかにながれる。



 やがて――


「……殿との


 さきくちひらいたのは、タヅマだった。


 ミナギの視線しせんが、わずかにがる。


「ひとつ、もうげておくべきことがございます」


 こえは、いつもとわらない。


 だが、そのおくには、わずかな緊張きんちょうがあった。


 タヅマは一度いちど、ゆっくりいきととのえる。



 そして――

 


耶馬台国やまたいこくへ、ふみしました」


 しずかにげた。


 が、かすかにらめく。


「アサ殿どのへの助力じょりょくあおぐため――日神呼(ひみこ)さまへ」 



 ミナギは、しばらくなにわなかった。


 やがて視線しせんとす。


「なるほど」


 ひくく、ちたこえ


道理どうりで、ことはこびすぎる」

 

「……勝手かってなことをいたしました」


 タヅマはふかこうべげた。


結果けっかとして、アサ殿どの存在そんざいを――そとらせることになりました」


 わけはしない。


 自分じぶんのしたこととして、まっすぐにめている。



「――いや」


 ミナギのこえが、しずけさをやぶった。


かまわん」


 タヅマが、わずかにかおげる。


 ミナギは、まえていた。



日神呼ひみこさま力添ちからぞえがなければ――」


 そこで、ほんのすこ言葉ことばまる。


 むねおくに、あのとき感覚かんかくよみがえった。


 身体からだ内側うちがわからくずれていくような感覚かんかく


おれもアサも……いまここには、いないだろう」


 まよいのないこえだった。


 タヅマは、ゆっくりとあたまげる。


「……おそれながら」


 こえが、すこひくくなる。


「その見込みこみに、しました」


 ミナギのが、わずかにほそまる。


 タヅマの言葉ことばさきを、しずかにもうとしている。


「――だが」


 やがて、ミナギがくちひらいた。


耶馬台やまたいうごけば、もうあとにはもどれん」


 さきほどまでのしずかな納得なっとくえていた。


 こえそこに、かた緊張きんちょうまれている。



 投馬とうま耶馬台やまたいは、代々(だいだい)めいむすんできた。


 祭祀さいし交易こうえきつうじてたがいをささえ、おおきなわざわいにはちからう。


 その盟約めいやくは、両国りょうこくいしずえでもあった。


 だからこそ、正式せいしき使者ししゃこばむことはできない。


「……日神呼ひみこさまは、アサをれてだろうか」


 ミナギは、わずかにせた。


「その可能性かのうせいは、たかいかと」


 タヅマは否定ひていしなかった。


 むしろ、それを当然とうぜんのこととしてかんがえているようだった。



「――あの一件いっけん以来いらい


 言葉ことばえらびながら、淡々(たんたん)つづける。


「アサ殿どのたいする宮中きゅうちゅう評価ひょうかは、いちじるしく変化へんかいたしました」


 ミナギの視線しせんが、わずかにがる。


信奉しんぽう、ともうしてもよろしいかと」


 タヅマはつづけた。


侍女じじょも、へいも、みやつかえるものたちも――」


 タヅマは、すここえとした。


くちさぬものまで、おなじようにおもはじめております」


 そして。


「……あのむすめこそ、とおも空気くうきが、たしかにひろがっております」


 ミナギはなにわない。


 ただ、部屋へや空気くうきすこおもくなった。


「ゆえに――」


 タヅマは、さらにつづける。


「アサ殿どのきさきに、というこえうごとにえております」



 その瞬間しゅんかん


 ミナギのうごきがまった。


 完全かんぜん静止せいしだった。



 ――きさきに。



 その言葉ことばだけが、おくれてむねおくちてくる。


「……耶馬台やまたいこくがアサ殿どのれてこうとすれば」


 タヅマはかおげず、淡々(たんたん)つづける。


宮中きゅうちゅう反発はんぱつも、相応そうおうしょうじましょうな」


 ミナギは、わずかにまゆせた。


 まわりがアサをげる。


 手放てばなすまいとする。


 ――本人ほんにんらないところで。


 そのことが、みょうこころっかかった。


「……本人ほんにんは、なにかっていないだろうにな」


 おもかぶのは、あの無防備むぼうびかお


 ほんの一瞬いっしゅん


 ミナギの口元くちもとが、わずかにゆるんだ。


 だが、それもすぐにえる。


 ちいさく咳払せきばらいをひとつ。


 自分じぶん気持きもちをかくすように、空気くうきもどした。



「……いずれにせよ」


 こえが、いつものいたものにもどる。


うちがどううごこうと、こうがくことはない」


 タヅマが、わずかにうなずく。


「はい」


「むしろ――」


 ミナギのが、ほそくなる。


価値かちがあるとれば、なおさらる」


 灯火ともしびが、おおきくれた。


 タヅマはしずかにうなずく。


「はい。耶馬台やまたいにとって()()()()()()は、もはや交渉こうしょうそとにございます」


 すこく。


ことわりではなく――選別せんべつちかい」


 タヅマはつづけた。


「しかも、此度こたびはこちらからふみしております」


 その意味いみあきらかだった。


 ――とびらけたのは、こちらだ。



 ミナギは、ゆっくりいきいた。


 むねおくまっていたものを、すこしずつそとすように。


「……むかれるしかない、か」


 ひとごとのようにつぶやく。


「「どちらにせよ――耶馬台やまたいことかまえるつもりはない」


 しずかな決意けついだった。


「ここでこばめば、無用むよう軋轢あつれきむ」



 すこく。


こうがるなら、せてやればいい」


 こえしずかだった。


 だが、そのおくには、はっきりとしたかんがえがある。


「こちらので、こちらのやりかたでな」


 主導権しゅどうけんわたさない。


 言葉ことばにしなくても、それはつたわった。


「そのようにととのえます」


 タヅマはしずかにあたまげた。


 ひとついきととのえ、ミナギはまぶたせる。



 そして――ゆっくりとひらいた。


(……るならい)


 そのは、ふかんでいた。


 退かない。


 らさない。


 だが――


 ゆずりもしない。


 は、れながらもえなかった。


 ただしずかに、二人ふたり姿すがたらしつづけていた。




Xアカウント

https://x.com/sugarpine144292


世界観や詳細設定などはこちら

https://kakuyomu.jp/users/deub1wfdsil8oeo2h0c0wsmle/news


YouTube

https://youtube.com/@cobacoba6499?si=K9SayXLng5BD4vAZ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。