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アマガタリ  作者: ひよりの
第二章
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蛇の双眸



狗奴国くなこくにて――新王しんおうカダンがかかえていた呪禁師じゅごんしが、狂乱きょうらんすえてたとのしらせにございます」


 間者かんじゃからのしらせに、奴国(なこく)おう――阿久良あくら双眸そうぼうが、ゆるやかにほそめられた。



 よる


 奴国なこくおう


 人払ひとばらいされた広間ひろまは、ふかやみしずみ、ただ一基いっき篝火かがりびだけがれている。


 そのひかりは、にあるおとこ輪郭りんかくを、へびうろこのようにまだらにかびがらせていた。



 そのおとこは、どこか『ひと値踏ねぶみするがわ』のかおをしていた。


 ほそまったあご


 無駄むだのない輪郭りんかく


 だが、ととのっているはずの造作ぞうさは、不思議ふしぎつめたくゆがんでえる。


 理由りゆうは、そのだった。


 なが双眸そうぼうは、まるで相手あいて内側うちがわぎ、どこにやいばれればもっとくかをはかっているような。


 そんな、ねばつく観察かんさついろびていた。


 口元くちもとには、みがある。


 だがそれはやわらかさではなく、選別せんべつしるしだった。


使つかえるか、使つかえぬか)


こわ価値かちがあるか、ないか)


 そうした基準きじゅん世界せかいているものだけがかべる、うすわらい。


 なが黒髪くろかみうしろでたばねられ、みだれは一切いっさいない。


 ととのえられたそのさまは、几帳面きちょうめんというより――制御せいぎょ象徴しょうちょうだった。



 阿久良あくらというおとこは、威圧いあつしない。


 ただ、づけば――


 だれもがかればんうえせられている。


 そしてそのばんうえで、自分じぶんこまであることにづいたときには、もうおそい。



「──くるった、だと?」


 こえひくく、かわいている。


 いではない。


 ただ、事実じじつしたうえころがしているだけだ。


「はい。みずからのにくき、意味いみをなさぬ言葉ことばさけつづけ……やがて――」


 篝火かがりびが、ひときわおおきくらぐ。


狗奴国くなこくひそませているものよりの報告ほうこくによれば――」


 間者かんじゃは、寸分すんぶんみだれもなくつづけた。


禁呪きんじゅめていた形跡けいせきが」


「ほう」


 阿久良あくら口元くちもとが、わずかにゆがむ。 


 そこにかぶのはおどろきではなく、愉悦ゆえつちか興味きょうみ


「――どんなたぐいのものだ」


依代よりしろもちいた呪詛じゅそにございます」


 依代よりしろ


 その一語いちごに、わずかにまれる。


頭蓋ずがいうつわとし、生前せいぜんえにし――すなわちをかけたものしるべさだめるじゅつ


 間者かんじゃこえ淡々(たんたん)としている。


 だが、その内容ないようねばりつくような執念しゅうねんびていた。


「……頭蓋ずがいは、戦死せんしした前王子ぜんおうじ――久志奈くしなのもの」


 そのちた瞬間しゅんかん


 空気くうきが、しずむ。


 れていた篝火かがりびおとすら、とおのいたように錯覚さっかくされる。


久志奈くしな……」


 ゆっくりと記憶きおくせる。


「――ミナギがったおとこか」


 阿久良あくらは、わずかにまゆげた。

 

死者ししゃほねうつわとし、あだのろいをわせる……」


 くつり、とのどおくわらう。


「いかにも野蛮やばんで、執念深しゅうねんぶかい」


 一瞬いっしゅん


「しかも王族おうぞくむくろ使つかうとは……ぶんわきまえぬにもほどがある」


 かるてる。


 だがそのうらには、


 ()()()()()()()()()()


 というふくみがあった。


「――だが」


 こえが、わずかにしずむ。


呪禁師じゅごんしくるに、ミナギはきている」


 矛盾むじゅんゆびでなぞるように、言葉ことばかれる。


失敗しっぱいか……あるいは」


 阿久良あくらくちびるが、わずかにがった。


「――かえったか」



 呪詛返じゅそがえし。


 言葉ことばにせずとも、その意味いみ十分じゅうぶんちる。


面白おもしろい」


 その一言ひとことに、たしかな愉悦ゆえつにじむ。


「ミナギは、実際じっさいたおれたのだろう」


「はい。一時いちじ生死せいしさかいをさまようほどのあやうさであったと」


時期じきは」


呪禁師じゅごんしうごきと……ほぼかさなります」


「ふむ」 


 思考しこうすすむ。


 おともなく、だが確実かくじつに。


きゅうなおしたともく」


「は」


のろいであれば、そう都合つごうよくけるものでもあるまい」


 そこではじめて、間者かんじゃがわずかにかおげた。


「そのてんかんし、もうひとつ」


え」


回復かいふくおり――かたわらに、一人ひとりむすめがいたとのこと」


 沈黙ちんもく


 それは空白くうはくではない。


 濃密のうみつ()()時間じかんだ。


 阿久良あくら双眸そうぼうに、明確めいかくひかり宿やどる。


 興味きょうみ


 いや、それ以上いじょうの――()()()()()ひかり


「……むすめ


 ゆっくりとかえす。


投馬国とうまこくにいるのか」


「そのように」


 即答そくとう


 そして、命令めいれい一切いっさい逡巡しゅんじゅんなくちた。


さぐれ」


 みじかく、げる。


出自しゅつじつながり、経路けいろ――すべてだ」


「は」


 間者かんじゃ即座そくざおうじる。



 やがて気配けはいえ、しつふたた静寂せいじゃくもどる。


 阿久良あくら口元くちもとが、ゆるやかにゆがんだ。


「……面白おもしろくなってきたではないか」


 だれにもとどかぬ、ひくこえ



(ミナギ)


(そして、もなきむすめ


 どちらを見極みきわめれば、投馬とうまというくにかたちえるのか。


 阿久良あくらは、しずかにつぎ一手いってさだめていた。


 篝火かがりびひかりれるたび、阿久良あくらかげながび、ゆがみ、ゆかう。


 それはもはやかげではない。


 意思いしち、獲物えものさぐへびのように、しずかにひろがっていた。




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