↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アマガタリ  作者: ひよりの
第二章
PR
80/108

いつもの距離



「……あの」


 おもわずこえれる。


 その瞬間しゅんかん、ミナギの指先ゆびさきがぴくりとうごく。


 アサは、なにきたいのか、自分じぶんでもからないまま、視線しせん彷徨さまよわせる。


志摩様しまさまとの婚姻こんいんはなし……」


 遠慮えんりょがちにこぼれたそのこえは、しずかな室内しつないにそっとひびいた。


「なくなったって……」


 言葉ことばえらびながら、おそおそるミナギをつめる。


「……どうして?」


 いはほそく、ふるえていた。


「ああ」


 たいするミナギは、あまりにもあっさりとうなずく。


られたんだ」


 さらり、と。


 まるで他人事ひとごとのような調子ちょうしった。



 アサは、しばし言葉ことばうしなった。


 まるくし、そのままかたまる。


おれはどうやら、志摩殿しまどのこのみのおとこではなかったらしい」 


 

 アサはおもわずくびる。


(いや……まさか、そんなはず……)


 脳裏のうりかぶ。


(あのひとみは……)


 志摩しまの、ミナギをつめるねつびた視線しせん


(どうても……)


 むねうち否定ひてい渦巻うずまく。



 ミナギはどこか、とおくを見るようなをしている。

 

 その表情ひょうじょうが、なんだか――



「……平気へいき?」


 おもわずくちをついて言葉ことばだった。


 ミナギは一瞬いっしゅんだけ、きょとんとまたたかせた。


 おもいもよらない言葉ことばだったのだろう。


 わずかにかたちからけ、りつめていた空気くうきしずかにほどけていく。


 そして、ふっとわらった。


「……そうえるか?」


 しずかなこえ


 アサはこたえられず、ただミナギをつめる。


 ミナギは視線しせんとした。


おれには……志摩殿しまどのむかえる覚悟かくごが、りなかったのだとおもう」


 ぽつり、と。


まつりごとのためにむすばれたえにしであったとしても、彼女かのじょおれきさきとなるみちを、れてくれていた」


「それなのにおれは……」


 言葉ことばさがすように、わずかにいた。


「……おれが、もっとはやおのれこころえていればよかったのだろうな」


 ミナギは、しずかにいきいた。


彼女かのじょさとひとだ」


おれまよいを……おれ自身じしんよりさき見抜みぬいていたのだろう」


 ミナギは、どこかさびしげにわらった。


 そのみには、自身じしん未熟みじゅくさをれるかのような、しずかなさびしさがにじんでいた。

 


 アサはなにえずにいた。


 どうすればいいのか、からない。


 ミナギがしい言葉ことばを、自分じぶんっていない。


 ただ――


 このさびしそうなかおを、すこしでもやわらげたい。


 そうおもった。



 まよったすえ、アサはおずおずとばす。


 そして――


 ミナギのあたまを、ちいさなをあやすように、ぎこちなくでた。



 一瞬いっしゅん静寂せいじゃく



 つぎ瞬間しゅんかん――


「……っ、はは」


 ミナギがした。


 こころそこからげてきた可笑おかしさ、そのままのわらいだった。


「はは……っ、なんだそれは……」 


 言葉ことば途中とちゅうでまたわらいがじる。


 目尻めじりゆるみ、普段ふだんするどさをびる眼差まなざしも、いま完全かんぜんにほどけている。


 くつくつと、何度なんどなみのようにわらいがかえってくる。


「……おれにこんなことができるのは、おまえくらいだな」


 そうって、ミナギはアサをる。


 そのひとみにはまだわらいの余韻よいんれているが、同時どうじに、どこかやわらかくほどけた温度おんど宿やどっていた。


 そのかおは、いつものかれそのものだった。


「……いつものミナギだ……」


 ぽつり、とアサがこぼす。


 安堵あんどにじんだ声音こわね


「え……?」


 ミナギがわずかにくびかしげる。


「あ、いや、その……最近さいきんは……ずっと……」


 いかけて、アサはくちごもる。


 脳裏のうりかぶのは、ここしばらくのミナギの姿すがた


 どこか距離きょりくような、つめたい眼差まなざし。


 その記憶きおくむねめつける。


「ちょっと……さびしかった、です」


 りそうなこえ


 ミナギの表情ひょうじょうが、わずかにくもる。


「……」


 一瞬いっしゅん言葉ことばさがすように沈黙ちんもくし――


 やがて、ゆっくりと視線しせんとした。


「……おまえていると、決心けっしんらぎそうだったものでな」


 ひくく、しずかなこえ


おれ勝手かってきずつけた……すまない」


 素直すなお謝罪しゃざいだった。


 アサはまたたかせる。


決心けっしんが……それは――」


 いかけるこえは、さきほどよりもわずかにつよい。


「どうして……?」


 ミナギはかおげる。


「……さあ」


 そのひとみに、わずかなねつ宿やどして――


「どうしてだとおもう?」


 ふくみをたせた声音こわね



 アサの心臓しんぞうねる。


 視線しせんらせない。


 のない距離きょり


 ほおがみるみるうちにあかくなる。


「……っ」


 言葉ことばない。


 ただ、鼓動こどうだけがうるさくひびく。


 ふたたび、空気くうきあましずむ――その瞬間しゅんかん



「――失礼しつれいいたします!!」


 あらいきをついた伝令でんれい宮仕みやづかへいが、いきおいよく室内しつないんでくる。


 めていた空気くうきが、一気いっきられた。


 ミナギはちいさくいきき、わずかにかたをすくめる。


 アサは、はっとわれかえり、あわてて姿勢しせいただした。


 みだれかけた呼吸こきゅうころしながら、へいかおる。


「――何事なにごとだ」


 ミナギのこえは、すでにいつもの調子ちょうしへともどっていた。


 ひくく、るぎない。


 へいこうべれ、いきととのえるしむようにげる。


「はっ……耶馬台国やまたいこくより伝令でんれいにございます。ちかく、使者ししゃがこのおとずれるとのこと――」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。