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アマガタリ  作者: ひよりの
第二章
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70/108

代償



 やみそこで、こえがしていた。


 とおく。 


 けれど、はっきりと。



 ――ミナギ。



 何度なんども。


 何度なんども。



 そのたびに、しずみかけた意識いしきすこしずつげられる。


 ったやみなかに、かすかなねつむ。


 だれかがれている気配けはい。 


 もどされるような感覚かんかく


 ――はなれるな。


 言葉ことばではない。


 だが、たしかにそうつたわってきた。

 


 必死ひっしに、そのこえばす。


 とどくはずのない場所ばしょなのに。


 そのこえだけは、けっして途切とぎれなかった。



(……アサ)



 おもかべた瞬間しゅんかん――


 意識いしきかびがる。


 いきう。


 はいけるようにいたんだ。


 だが――


 呼吸こきゅうとおる。


 ける。


 えたのは天井てんじょうだった。


 見慣みなれているはずなのに、やけにとおかんじる。


 身体からだおもい。


 けれど。


 さっきまでまとわりついていたなにかがない。


 あれほど身体からだおくむしばんでいたものが。 


 ――えている。


(……どういうことだ)


 かんがえるよりさき違和感いわかんはしった。


 むねおくが、ぽっかりいたような感覚かんかく


 そして――


 れる視界しかいさきに、一人ひとり少女しょうじょたおれていた。


(……アサ!)


 そのまわりには侍女じじょたちがあつまっていた。


 あおざめたかおいきもの


 ひざをつき、アサのかたえるもの


 だがミナギは、そんな様子ようす余裕よゆうもなかった。


 きるように身体からだこす。


「……ッ」


 視界しかいれる。


 足元あしもとさだまらない。



殿との! きゅううごかれては――」


 クラジがあわててこえげる。


 だが、ミナギはいていなかった。


 ぐアサへかう。 


 そして、そのまえひざをついた。


 ふるえる身体からだれる。



 アサのかおあせれていた。


 みだれたかみひたいりついている。


 けれど――


 身体からだねつがない。


「……アサ」


 こえあせりがにじむ。


 返事へんじはない。


 かたつかむ。 


 する。


 それでも反応はんのうはなかった。


 ねつがない。 


 いや――ちがう。


 れた瞬間しゅんかんかった。


 これはえているのではない。


 ――きかけている。 


「……なにをした」


 こたえはかえらない。


 だが、かってしまう。



 自分じぶんなかにあったはずのなにかがえている。 


 あれほどからみついていたくろいものが。


 跡形あとかたもなく。 


 そのわりに――


 まえ少女しょうじょたおれている。


 理解りかいは、一瞬いっしゅんだった。 



 ゆめなか何度なんどこえたこえ。 


 もどされる感覚かんかく


 ――すべてがつながる。



「……馬鹿ばかなことを」


 こえふるえた。 


 おうとしてのこえではない。 


 一人ひとりおとここえだった。


 こした指先ゆびさきに、かすかなねつのこっている。


 その事実じじつむねおもしずむ。


「……アサ」


 もう一度いちどぶ。


 えかけた現実げんじつつなめるように。


 身体からだうでちからはいる。



 のどまる。


 それでも、無理むりやりこえした。


「……くな」


 かすれたこえだった。


かないでくれ――」



 命令めいれいではない。


 懇願こんがんですらない。


 ただの本音ほんねだった。



 ミナギはうでまわし、アサをせる。


 ほそ身体からだむねせるように。


 つよく。


 がさないように。


 ひたいせる。


 いきれるほどちかくで、その存在そんざいたしかめる。



 ――まだ、ここにいる。


 それでいい。


 それだけでいい。


 ほかにはなにもいらない。


 おそすぎることくらいかっている。


 それでも――


 ここではなすくらいなら。


 おうであることなど、どうでもいい。


 くにも。


 せきも。


 未来みらいも。


 全部ぜんぶいらない。


 おまえさえ、ここにいてくれるなら。


 だから――


 どこにもくな。


 ここにいろ。


 おれとど場所ばしょに。



 そのおもいを、言葉ことばわりにうでめる。


 はなした瞬間しゅんかんわってしまうがした。


 だから。


 そのぬくもりがえないように。


 うしなわないように。


 ミナギは、ただつよきしめつづけた。



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