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アマガタリ  作者: ひよりの
第二章
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静夜の告白



 あかりはやわらかくにじみ、そとおと何重なんじゅうにもへだてられたようにとおく感じられた。


 二人ふたりだけの空間くうかんは、しずけさという言葉ことばがよく似合にあう、いた空気くうきちていた。


「――今宵こよいは、ことほかしずやかなよるにございますわね」


 おっとりとしたこえが、しっとりと空気くうきけていく。


 ミナギはさかずき口元くちもとはこび、ゆっくりとかたむけた。


 んださけのどへとしずかにちていく。


 ひくとされたこえが、しずけさのなかちいさななみのようにひろがった。


しずかなほうがいい」


 わずかにせ、言葉ことばえらぶようにつづける。


余計よけいこえみだされることもない」


 志摩しまはその言葉ことばけて、くすりと微笑ほほえんだ。


 指先ゆびさきささえたうつわをゆっくりかたむけると、なかさけがかすかにおとててれた。


余計よけい……にございますか」


 志摩しまいはおだやかだったが、どこかちいさなれをふくんでいた。


 ミナギはさかずきたくき、視線しせんあかりのほうけたまま、ひくこたえた。


「……ああ。みみざわりなものがおおいからな」


「まあ」 


 志摩しますこしだけほそめる。


 そして、ゆっくりとし、たくをはさんだ距離きょりをわずかにちぢめた。


「では――こうして、わたくしと二人ふたりきりのしずけさは、おしていただけておりますのね」


 志摩しま冗談じょうだんめいた口調くちょうに、ミナギの口元くちもとがほんのわずかにゆるむ。


わるくはない」


 みじか返事へんじ


 志摩しまくちびるに、はっきりとしたみがかぶ。


わるくはない――でございますか」


不満ふまんか」


「いいえ、とんでもございません」


 そういながら、志摩しまはゆっくりさかずきまわす。


殿方とのがたがそうおっしゃるときは、大抵たいてい――それ以上いじょうふくんでおりますもの」


 視線しせんげ、まっすぐにミナギをとらえた。


「わたくし、そういう言葉ことばながされないところをひろうのは得意とくいでございますの」


 かず、さらりとつづける。


たとえば……本当ほんとうは、しずけさそのものより――」


 ほんの一瞬いっしゅん言葉ことば区切くぎる。


だれごすか、のほう大事だいじでいらっしゃるとか」


 空気くうきが、ほんのわずかにわる。


「……こんなよるは――すこしばかり、わがままをもうげても、ゆるされるがしてしまいますわ」


 視線しせんが、わずかにちかづく。


「もうすこしだけ……そちらへっても?」


 志摩しま微笑ほほえむ。


こえらずともとど距離きょりで、おはなししたいのです」


 ミナギは、志摩しま視線しせん一度いちどめる。


 げるでも、はぐらかすでもなく――たしかめるように。


 やがて、みじかいきとす。


「……きにしろ」


 ぶっきらぼうなゆるし。


 志摩しまくちびるに、ふっとやわらかなみがひろがる。


「ありがとうございます」


 ささやくようにれいべると、そのまましずかにせた。


 衣擦きぬずれのおとが、かすかにひびく。


 さきほどまでたくはさんでいた距離きょりえ、おながわならかたちになる。


 あかりがちかづき、たがいの輪郭りんかくがやわらかくう。


 わずかにかおかたむければ、こえはもう空気くうきわた必要ひつようすらない距離きょりだった。


「……こうして拝見はいけんいたしますと、なおさらおもいますわ」


 ミナギの横顔よこがおを、至近しきんでなぞるように。


「やはり――わたくし、あなたとごす時間じかんきでございます」


 かざりのないかただった。


 ミナギはほそめて志摩しまつめた。


 わずかにかたちからきながら、


「……そなたは、ものをはっきりうな」


 ひくく、どこかあきれをふくませてう。


曖昧あいまいにしても、意味いみがないでしょう」


 志摩しまはためらいなくおうじる。


「この婚姻こんいんがどういうものかは、承知しょうちしております」


 こえしずかで、らぎがない。


「それでも――」


 一度いちどいきととのえる。


「わたくしは、あなたにかれていますわ」


 空気くうきが、わる。


 あまさとも緊張きんちょうともつかない、めた静寂せいじゃく


 ミナギはうごかない。


 ただ、視線しせんだけが、ほんのわずかにらいだ。


 志摩しまかすかに苦笑くしょうする。


こまらせましたか」


「――いや」


 みじか否定ひてい


 だが、それ以上いじょうつづかない。


 志摩しまひとみが、わずかにうるむ。


 おさえようとするよろこびをむねおくめながらも、そのれはかくしきれなかった。


 あわこいひかりが、そのおくしずかにれている。


 その指先ゆびさきが、そっとミナギのそでれた。


 志摩しまかおが、ゆっくりとちかづいていく。


 たがいの吐息といきが、かすかにじる。


 ミナギは、そのしずかにとどまっていた。


 やがて――ほんのわずかに、せる。


 それは、はっきりしたこたえではない。


 けれど、すくなくとも、れるがわつという意思いしだけは、そこにあった。


 あかりがれ、二人ふたりかげがひとつにかさなっていく。


 そと世界せかいおとは、もうほとんどとどかない。


 のこるのは、しずかなよると、ちかすぎる呼吸こきゅうだけだった。


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