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アマガタリ  作者: ひよりの
第二章
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騒ぐもの



 人払《ひとばら》いの済《す》んだ一角《いっかく》。


 灯《あか》りはひとつだけ。


 タヅマは呼《よ》び出《だ》しに応《おう》じ、静《しず》かに控《ひか》えていた。


「……遅《おそ》くにすまんな」


 ミナギはそう言《い》って、向《む》かいに腰《こし》を下《お》ろす。


「いえ」


 短《みじか》い返事《へんじ》。


 タヅマは、主《あるじ》が口《くち》を開《ひら》くのを待《ま》った。



 しばらく沈黙《ちんもく》が続《つづ》く。


 やがて――


「タヅマ」


「は」


「婚姻《こんいん》とは、何《なに》で決《き》めるものだ」


 唐突《とうとつ》な問《と》いだった。


 だが、タヅマは眉《まゆ》ひとつ動《うご》かさない。


「国《くに》としての利《り》にございます」


 迷《まよ》いのない答《こた》えだった。


「国益《こくえき》に適《かな》い、禍根《かこん》を残《のこ》さぬ。それこそがあるべき婚姻《こんいん》かと」


 ミナギはわずかに目《め》を伏《ふ》せる。


「……そうだな」


 分《わ》かりきっている答《こた》えだった。


 確《たし》かめる必要《ひつよう》もない。 


 それでも、言葉《ことば》は続《つづ》く。


「では――それ以外《いがい》を、理由《りゆう》に選《えら》ぶことは」


 そこまで言《い》って、言葉《ことば》が止《と》まる。


 タヅマは静《しず》かに顔《かお》を上《あ》げた。


「王《おう》としては、不要《ふよう》にございます」


 やはり迷《まよ》いのない声《こえ》だった。


 きっぱりと言《い》い切《き》る。


 ミナギは小《ちい》さく息《いき》を吐《は》く。


「不要《ふよう》、か」


 その言葉《ことば》を口《くち》の中《なか》で転《ころ》がすように繰《く》り返《かえ》した。


「ならば――」


 ふと視線《しせん》を上《あ》げる。


「不要《ふよう》なものが、判断《はんだん》に割《わ》り込《こ》む場合《ばあい》はどうする」


 その問《と》いだけ、少《すこ》し低《ひく》かった。


 タヅマはわずかに間《ま》を置《お》く。


「排《はい》すべきかと」


 簡潔《かんけつ》な返答《へんとう》。


 だが今度《こんど》は、すぐには答《こた》えなかった。


 ミナギは小《ちい》さく笑《わら》う。


 乾《かわ》いた、自嘲《じちょう》にも似《に》た笑《わら》いだった。


「――出来《でき》れば、苦労《くろう》はせん」 


 ぽつりとこぼす。



 その一言《ひとこと》で十分《じゅうぶん》だった。


 タヅマは何《なに》も言《い》わない。


 だが理解《りかい》した。


 誰《だれ》のことなのか。


 何《なに》に迷《まよ》っているのか。


 すべて。



「――恐《おそ》れながら」


 静《しず》かに言葉《ことば》を選《えら》ぶ。


「殿《との》が、不(・)要(・)と断《だん》じたものに、これほど心《こころ》を割《さ》かれるのは――」


 一度《いちど》言葉《ことば》を切《き》る。


「それ自体《じたい》が、もはや軽《かる》く見《み》てよいものではないからにございましょう」


 ミナギの目《め》が鋭《するど》くなる。


「……理屈《りくつ》だな」


 ほとんどかぶせるように返《かえ》した。


 吐《は》き捨《す》てるに近《ちか》い声音《こわね》だった。


「はい」


 タヅマは変《か》わらず淡々《たんたん》としている。


「理《り》で測《はか》れるなら、最初《さいしょ》から迷《まよ》わん」


 ミナギはわずかに奥歯《おくば》を噛《か》んだ。



 沈黙《ちんもく》。


 火《ひ》が、ぱちりと弾《はじ》ける。


 その音《おと》が静《しず》けさに溶《と》けた。


 タヅマはそこで、ほんの少《すこ》しだけ声《こえ》を和《やわ》らげた。


「――無理《むり》に消《け》そうとすると、余計《よけい》に騒《さわ》ぎますゆえ」


 ミナギの眉《まゆ》がぴくりと動《うご》く。


 一瞬《いっしゅん》だけ。


「何《なん》の話《はなし》だ」


 タヅマは答《こた》えない。


 代《か》わりに、わずかに口元《くちもと》を緩《ゆる》める。


 そして。


 少《すこ》し間《ま》を置《お》いてから言《い》った。


「……以前《いぜん》、ある御方《おかた》にも同《おな》じことを申《もう》し上《あ》げたことがございます」


 ミナギの指先《ゆびさき》が止《と》まる。


 ほんの一瞬《いっしゅん》。


 呼吸《こきゅう》が浅《あさ》く途切《とぎ》れた。


 だがすぐに、何事《なにごと》もなかったように視線《しせん》を外《そ》らす。


 再《ふたた》び沈黙《ちんもく》が落《お》ちる。


 やがて。


 ミナギは小《ちい》さく息《いき》を吐《は》く。


「……だが」


 ぽつりと口《くち》を開《ひら》く。 


「騒《さわ》ぐものを、どう扱《あつか》うかは――俺《おれ》が決《き》める」


 それは否定《ひてい》ではなかった。


 認《みと》めたうえで、自分《じぶん》の手《て》の中《なか》に収《おさ》めようとする言《い》い方《かた》だった。


 タヅマはそれを聞《き》き――静《しず》かに目《め》を伏《ふ》せる。


「御意《ぎょい》」


 返《かえ》したのは、その一言《ひとこと》だけだった。



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