騒ぐもの
人払いの済んだ一角。
灯りはひとつだけ。
タヅマは呼び出しに応じ、静かに控えていた。
「……遅くにすまんな」
ミナギはそう言って、向かいに腰を下ろす。
「いえ」
短い返事。
タヅマは、主が口を開くのを待った。
しばらく沈黙が続く。
やがて――
「タヅマ」
「は」
「婚姻とは、何で決めるものだ」
唐突な問いだった。
だが、タヅマは眉ひとつ動かさない。
「国としての利にございます」
迷いのない答えだった。
「国益に適い、禍根を残さぬ。それこそがあるべき婚姻かと」
ミナギはわずかに目を伏せる。
「……そうだな」
分かりきっている答えだった。
確かめる必要もない。
それでも、言葉は続く。
「では――それ以外を、理由に選ぶことは」
そこまで言って、言葉が止まる。
タヅマは静かに顔を上げた。
「王としては、不要にございます」
やはり迷いのない声だった。
きっぱりと言い切る。
ミナギは小さく息を吐く。
「不要、か」
その言葉を口の中で転がすように繰り返した。
「ならば――」
ふと視線を上げる。
「不要なものが、判断に割り込む場合はどうする」
その問いだけ、少し低かった。
タヅマはわずかに間を置く。
「排すべきかと」
簡潔な返答。
だが今度は、すぐには答えなかった。
ミナギは小さく笑う。
乾いた、自嘲にも似た笑いだった。
「――出来れば、苦労はせん」
ぽつりとこぼす。
その一言で十分だった。
タヅマは何も言わない。
だが理解した。
誰のことなのか。
何に迷っているのか。
すべて。
「――恐れながら」
静かに言葉を選ぶ。
「殿が、不要と断じたものに、これほど心を割かれるのは――」
一度言葉を切る。
「それ自体が、もはや軽く見てよいものではないからにございましょう」
ミナギの目が鋭くなる。
「……理屈だな」
ほとんどかぶせるように返した。
吐き捨てるに近い声音だった。
「はい」
タヅマは変わらず淡々《たんたん》としている。
「理で測れるなら、最初から迷わん」
ミナギはわずかに奥歯を噛んだ。
沈黙。
火が、ぱちりと弾ける。
その音が静けさに溶けた。
タヅマはそこで、ほんの少しだけ声を和らげた。
「――無理に消そうとすると、余計に騒ぎますゆえ」
ミナギの眉がぴくりと動く。
一瞬だけ。
「何の話だ」
タヅマは答えない。
代わりに、わずかに口元を緩める。
そして。
少し間を置いてから言った。
「……以前、ある御方にも同じことを申し上げたことがございます」
ミナギの指先が止まる。
ほんの一瞬。
呼吸が浅く途切れた。
だがすぐに、何事もなかったように視線を外らす。
再び沈黙が落ちる。
やがて。
ミナギは小さく息を吐く。
「……だが」
ぽつりと口を開く。
「騒ぐものを、どう扱うかは――俺が決める」
それは否定ではなかった。
認めたうえで、自分の手の中に収めようとする言い方だった。
タヅマはそれを聞き――静かに目を伏せる。
「御意」
返したのは、その一言だけだった。




