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アマガタリ  作者: ひよりの
第二章
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59/108

個人的な



 おなよる


 ミナギは、寝所しんじょよこになっていた。


 あかりは、もうとしてある。


 壁際かべぎわ火皿ひざらえ、のこったくすぶりのにおいだけが、うす空気くうきただよっていた。


 だが、ねむりはない。


 衣擦きぬずれのおとが、やけにおおきくみみのこる。


 自分じぶん呼吸こきゅうさえ、みょうにはっきりこえた。


 まぶたじる。


 ――だが、そのほう余計よけいわるかった。


 暗闇くらやみおくから、めたはずの思考しこうかびがってくる。


 かたちって、じわじわとにじてくる。


 かぶのは、志摩しまではない。


 ――アサだ。


 すこざつつきでうつわあつか様子ようす。 


 不満ふまんそうに、わずかにまゆせるかお


 それでも、すぐ気持きもちをえ、まえこうとする姿すがた


 そんな断片だんぺんばかりが、勝手かってかんではえ、またかぶ。


 まるで、自分じぶん意思いしとは関係かんけいなくかえされているようだった。



 ミナギは、ちいさくいきく。


 かっている。


 おうとしてなにえらぶべきかなど、とっくにまっている。


 ――伊都国いとこくとの婚姻こんいん


 それが最善さいぜんだ。


 くにどうしのむすびつきはつよまり、うちにもそとにもるがぬかたちしめせる。


 重臣じゅうしんたちのかんがえも一致いっちしていた。


 反対はんたいする理由りゆうなど、どこにもない。


 むしろ、えらばぬほうおろかだ。


かっている)


 むねうちで、何度なんどかえす。


 理屈りくつをなぞるように。


 らぎをさえむように。

 


 志摩しま姿すがたおもかべる。


 ととのった顔立かおだち。


 よどみのない所作しょさ


 背後はいごにある地位ちいと、まつりごとにおける意味いみ


 ――どれも理解りかいしている。


 だが。


 その姿すがたは、どこかうすい。


 かたちだけはととのっているのに、なかともなっていないような感覚かんかく



 それにくらべて――


 アサの姿すがただけが、みょうにはっきりしていた。


 かみれ。


 視線しせんうごき。


 いきめるような


 ほんのすこしの表情ひょうじょう変化へんかまで、鮮明せんめいかぶ。


 それが、余計よけい厄介やっかいだった。



 これは、えらんではならない感情かんじょうだ。


 そのことは、理解りかいしている。


 理解りかいしているからこそ――


 本来ほんらいなら、まよ余地よちなどないはずだった。


 おうとして、なにえらぶべきか。


 こたえは最初さいしょからまっている。



 ――それなのに。


 思考しこうえようとするたび、んでくる。


 やわらかな笑顔えがお


 自分じぶんこえ


 まっすぐ見上みあげてくる眼差まなざし。


 はらおうとするほど、ぞうくなっていく。


 輪郭りんかくははっきりむすばれ、いろびていく。


 息遣いきづかいまでおもせそうなほどに。


「――……ッ」


 おもわず、いきまった。


 まゆせ、ひらく。


 ひろがるのは、ただのやみ


 なにえない。


 それでも視線しせんは、無意識むいしきに、どこかをさがしていた。


 ここにはいないはずの気配けはいを、たしかめるように。



 寝返ねがえりをつ。


 ぬのこすれるおとが、ちいさくひびいた。


 それだけで、みょう現実げんじつもどされる。


 てのひらひたいてる。 


 ねつがあるわけではない。


 だが、むね内側うちがわしずまらなかった。


 ゆっくりと、いきく。


「……おろかだ」


 だれけた言葉ことばなのか、自分じぶんでもからない。


 そのこえひくく、かわいていた。 


 そしてなにより――


 それは、おうこえではなかった。


 ただ一人ひとりおとこの、うしなったようなひびきをびていた。



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