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アマガタリ  作者: ひよりの
第二章
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55/108

包囲



 夜気やきふくんだ回廊かいろうには、そこえないえがちていた。


 いしゆかからちのぼる冷気れいきが、ころもすそしずかにでていく。ひと気配けはいは、もうほとんどない。


 あかりだけが等間隔とうかんかくとされ、そのあわひかりが、かえってかべかげふかしずませていた。こえやみわれ、足音あしおとだけがみょうにはっきりとひびく。


 そんな回廊かいろうを、ふたつのかげすすんでいた。


 ならぶでもなく、はなれるでもない。一定いってい距離きょりたもちながらあるくのは、ミナギと布留根ふるねだった。


 たがいに視線しせんわすことはすくない。だが歩調ほちょうだけは、不思議ふしぎそろっている。


 まるで呼吸こきゅうだけが、しずかにかさなっているようだった。


 やがて、布留根ふるねあしめる。


 きゅうまったというより、その空気くうきわせ、自然しぜんあゆみをったようなうごきだった。


志摩しまを、どうられた」


 かざりも前置まえおきもない。感情かんじょうとし、核心かくしんだけをすような問いだった。


 ミナギはすこおくれてあしめる。視線しせんをわずかにとし、回廊かいろうかげを見るようにしてから、みじかこたえた。


「――すぐれたひめだ」


 簡潔かんけつ言葉ことば


 それだけに、余計よけい感情かんじょうれない意思いしにじんでいた。


 布留根ふるねは、ちいさくかたらしてわらう。


 かるみではない。納得なっとくふくんだ、おもみのあるわらいだった。


「そうであろう」


 ひくく、のどおくころがすようなこえ


 そのまま、言葉ことばかさねていく。


三人さんにんむすめのうちでも、あれは別格べっかくだ。美貌びぼうも、さいも、まわりもな」


 ほこりをかくさない口調くちょうだった。


 だが、それはたんなるおや自慢じまんではない。相手あいてがどこまで理解りかいしているかをはかるための言葉ことばでもあった。


「――きさきとしては、もうぶんあるまい」


 ほとんど断定だんていちかかた否定ひていすきを、最初さいしょからふさいでいる。


 さらに、もう一歩いっぽむ。


くにとしても、わるくないはなしであろう」


 その瞬間しゅんかんほそかぜ回廊かいろうけた。


 あかりがちいさくれ、二人ふたりかげ一瞬いっしゅんだけながびる。そして、またしずかにもどった。


 沈黙ちんもくちる。


 めるわけではない。むわけでもない。


 ただしずかに周囲しゅういかため、選択肢せんたくしかたちめていく。


 みちふさぐのではなく、最初さいしょから、()()()()()()おもわせる。


 そんなはなかただった。


 ミナギはこたえない。


 肯定こうてい否定ひていもしない。ただ、そのしずかにっている。


 だが、その沈黙ちんもく拒絶きょぜつではなかった。


 むしろ、まだ言葉ことばになっていない思考しこうが、おもしずんでいるようだった。


 布留根ふるねは、それ以上いじょうもとめなかった。


 もとめる必要ひつようがないことを、理解りかいしている。


 盤面ばんめんは、もうととのいつつある。


 あかりのしたで、二人ふたりかげだけが、しずかにつづけていた。



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