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アマガタリ  作者: ひよりの
第二章
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53/108

波打つ



 よるおとずれ、投馬とうまみや高殿たかどのでは、はなやかな祝宴しゅくえんひらかれていた。


 志摩しまさかずき口元くちもとはこびながらも、その何度なんどとなくミナギの姿すがたっていた。


 露骨ろこつにならぬように。


 けれど、たしかに。

 


 まず――かおい。


 するどすずしげな目元めもとには、感情かんじょうをむやみにおもてさぬ理性りせい宿やどっている。だが、ふとした瞬間しゅんかんにだけ、ちいさなねつにじむ。


 とおった鼻筋はなすじ


 無駄むだのない輪郭りんかく


 ととのったその姿すがたは、ただうつくしいだけではない。ものこころに、つよのこちからがあった。


 しかも、魅力みりょくかおだけではない。


 会話かいわ端々(はしばし)に、ひとするどさがにじんでいる。言葉ことばえらはやさ。その正確せいかくさ。


 他国たこくものへの応対おうたい見事みごとだった。やわらかくめながら、けっしてちかづきすぎはさせない。 


 それでいて、不快ふかいおもいもあたえない。その距離感きょりかんは、簡単かんたんにつくものではなかった。


 かさねた経験けいけん


 ひと


 そして、まれった資質ししつ


 そのすべてがかさなりい、おうとしての姿すがたかたちづくっている。


(ただのわかおうではない……)


 志摩しまさかずきふちくちびるせながら、しずかにせた。けれど意識いしきは、ずっとミナギへいたままだった。


(――やはり、このかただわ……)


 むねちた感情かんじょうは、もうかりのものではない。一時いっとき興味きょうみでも、まぐれでもなかった。


 しずかにしずみ込み、ゆっくりとはじめている。志摩しまは、その変化へんかをはっきりと理解りかいしていた。


 そして、しずかに覚悟かくごめる。


(――このえんのがすわけにはいかない……!)


 それはこいだった。


 同時どうじに、王族おうぞくとしての選択せんたくでもあった。




 一方いっぽう、アサは侍女じじょとして給仕きゅうじわれ、あわただしくうごまわっていた。


 いそがしさのおかげで、余計よけいなことをかんがえずにむ――はずだった。


 だが。


 ふと視界しかいはしに、ミナギのとなり微笑ほほえ志摩しま姿すがたうつる。二人ふたり自然しぜん言葉ことばわす様子ようすに、アサのまった。


 うつわったまま、かたちいさくふるえる。


 みみおくで、侍女じじょたちの言葉ことばよみがえった。


『ミナギさまならべば、美男美女びなんびじょでさぞお似合にあいでしょうねえ』


『これはもう、きさき志摩様しまさままりね』


 その言葉ことばが、おもむねしずむ。


(――ほんとに、お似合にあいだ……)



 最近さいきん、アサはミナギとうまくはなせなくなっていた。


 おう侍女じじょ


 その距離きょりがあるから――


 もちろん、それも理由りゆうだろう。けれど、それだけではないがした。


 ミナギは時折ときおりやさしい言葉ことばをかけてくれる。気遣きづかうような視線しせんけ、やわらかな笑顔えがおせてくれることもあった。


 だからこそ、くるしい。


 しかもミナギはおうとしてのつとめにわれ、最近さいきんはゆっくりはな時間じかんもほとんどない。アサのむねには、ぽっかりとあないたようなさびしさがのこっていた。


 だから。


 あんなふうに楽しそうにわら二人ふたりるたび、むねおくいたんだ。


 給仕きゅうじつづけながらも、こころ何度なんどもミナギと志摩しませられる。さらうつわ感触かんしょくさえ、どこかたよりなくおもえた。


 こころ奥底おくそこで、ひとつの問いがれる。


 ミナギにとって、わたしは――どういう存在そんざいなのだろう。


 はなやかな祝宴しゅくえんひかりおとつつまれながら。


 アサのこころだけが、しずかに、せつなくれていた。



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