一方、宮中は賓客を迎える準備に追われ、忙しさの極みにあった。
堂々とした木組みの梁が高くそびえる高殿の広間には、外の光が木の隙間から柔らかく差し込んでいた。
床には丹念に仕上げた鹿の毛皮が敷き詰められ、柱の間には燭台が整然と列をなす。
侍女たちは膝をつきながら、座台を等間隔に並べ、慎重に位置を整える。アサも祝宴の手伝いに追われ、台所から高殿まで何度も往復し、忙しく動き回っていた。
ようやく仕事が一段落し、侍女たちは台所の外、石組みの井戸の脇に集まり、休息を取っていた。
膝の上には土物の小皿や木製の椀を置き、台所で分けてもらった温かい粥や、木の実を口に運びながら談笑する。
もっぱら話題は、伊都国から来た美しい姫君のことだ。
「――あの桃色の衣、なんて繊細な刺繍かしら」
「さすがは魏から来た衣ねえ。布目の細かさが違うわぁ…」
「宇良様の衣とも少し趣が違うわよね」
「私たちでは一生かかっても、着ることなどできやしないでしょうよ」
「それにお顔立ちも麗しいこと」
「伊都国一の美貌だって噂よ」
その後も侍女たちは、伊都国がいかに大国か。
そしてその国を味方にできる利点が投馬国にとって、どれほど大きいかを、熱心に語り合っていた。
アサは木の実を手に取り、口に運びながら会話に聞き入っていた。
しかし――
「ミナギ様と並べば、美男美女でさぞお似合いでしょうねえ」
「これはもう、后は志摩様で決定ね」
木の実はその瞬間、喉に詰まった。
アサは思わずむせて咳き込み、手に持っていた椀の中身をばら撒いてしまう。
「ちょっとアサ!大丈夫?」
隣に座っていたミツが心配そうに、咳き込むアサの背を叩く。
「食い意地張って食べ過ぎるから――」
別の侍女が半分呆れたように言いながら、水の入った椀をアサに手渡した。
アサは息を整え、水を飲み干してふぅと息をつく。
心臓が妙に早く打っているのに気づき、手元も落ち着かない。
その騒ぎを聞きつけた侍女頭がやって来て、厳しい声が響く。
「休憩時間はとっくに終わってますよ!仕事に戻りなさい!」
アサは慌てて散らばった実を拾い上げながら、再び台所の仕事へと戻る。
しかし手元は浮つき、心は先程の言葉と、志摩の麗しい姿に支配されていた。
侍女頭から何度も叱責を受けるが、胸の奥の痛みのせいで、仕事に集中することは容易ではなかった。