↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アマガタリ  作者: ひよりの
第二章
PR
50/108

アオバ



 練武場れんぶじょう空気くうきは、ひるねつふくんでおもたかった。


 隣接りんせつするにわでは、わかへいたちがおもおもいにからだやすめている。あせつちにおいがざるなか、モモジがおおきくいきいた。


 まるからだをどさりとよこたえ、そらあおぐ。


「――あーあ。彼女かのじょほしい」


 唐突とうとつだった。


 となりみずをあおっていたアオバが、ぴたりとめる。


 まだ少年しょうねん面影おもかげのこしながらも、無駄むだのないからだつき。精悍せいかんかおが、じろりとよこいた。


「……またそれかよ」


「いやだってさぁ」


 モモジはじとりと、練武場れんぶじょうはし視線しせんける。


 ――そこにいる一人ひとりを、うらめしげににらみながら。


 そこではヒシンが、わか侍女じじょたちにかこまれ、なにやらたのしげにはなしていた。


 たかく、ととのった顔立かおだち。すずしげな目元めもとに、やわらかなみ。よこにいるわか侍女じじょたちは、そろってほおめている。


ろよ、あれ……」


 うらめしげなこえ


 モモジの指先ゆびさきが、ぴしりとヒシンをす。


なんであいつばっかりなんだよ……」


 ぐぬぬ、といしばる。


 アオバは一瞥いちべつだけして、すぐに視線しせんもどした。


かおがいいからだろ」


 みず一口ひとくちみ、にべもなくこたえる。


ふたもねぇことをうな!」


 モモジがさけぶ。


「いや、そこはもう少しこう……手心てごころってもんがだな!」


 いきおいよくがり、アオバへす。


 すこはなれたところで、チガヤがしずかにこしろした。


 小柄こがらで、アオバたちより幾分いくぶんおさなえる。だが、そのひとみは、やけにいていた。


「――あとたかい」 


 ぽつりと補足ほそくする。


はなし面白おもしろい、距離きょりかたがうまい、しすぎないし、きすぎない」


 容赦ようしゃなく、淡々(たんたん)つづける。


 モモジのかおが、じわじわとゆがむ。


「……ぐぬぬ」


 しぼすようなこえ


「――モモジには、ないものだね」


 さらり、とった。


「はぁ!?」


 即座そくざにキレた。


「おまえだってチビすけじゃねーか!」


 モモジがってかかる。


 チガヤは一度いちどだけ視線しせんけ、すぐにはずした。


べつおれは、彼女かのじょとか興味きょうみないし」


 温度おんどのないこえ


「ははーん……」


 モモジがにやりと口元くちもとゆがめる。


「おちゃまには、まだはえぇか?」


 わざとらしくかたをすくめ、からかうようにす。


「……だからモモジはモテない」


 淡々(たんたん)と、る。


「はぁ!?」


 ふたたびキレた。


 アオバはあきれたようにいきき、みず一口ひとくちあおる。


 モモジはふたたびヒシンのほうを見る。


 ちょうど侍女じじょからなにって、かるれいっているところだった。


 あまりにも、さまになっている。


「……くそ、余裕よゆうそうにしやがって」


 くやしそうにぼやく。


 ふと、おもしたようにアオバを見る。


「そういえば、おまえはどうなんだよ」


なにが」


なにって――……れい()()()()()とは」


 アオバはんでいたみず盛大せいだいいた。


「え、なに? だれ?」


 チガヤがくびかしげる。


 木陰こかげひかりがそのあわし、好奇心こうきしんだけがはっきりといていた。


最近さいきんちょっと話題わだいになってるだよ。結構けっこう可愛かわいいんだこれが」


 モモジはにやにやと口元くちもとゆるめる。


「それでこいつさ、このあいだ見回みまわりのときに――」


だまれ、モモジ」


 口元くちもとこうぬぐいながら、ひくこえにらむアオバ。


 だがみみさきまであかい。


きゅうにそわそわしだしたとおもったら、いきなりしてよ」


 モモジはかまわずつづける。


 身振みぶりまでつけて、やけにたのしそうだ。


井戸端いどばたみずんでるそののとこってさ、手伝てつだうってして――」


「だからちがうって」


 アオバが気味ぎみむ。


まえすこたすけてもらったことがあって……かえせたらとおもっただけだ」


 一気いっきる。


 かぜける。


 がかすかにった。


「なるほどな」


 モモジがにやりとわらう。


「そのとき一目惚ひとめぼれってわけだ」


「そんなんじゃねえって」


 即答そくとう


 だが視線しせんおよぐ。


「でもかおだったぞ、おまえ。わかりやすいやつ


「うるせえ」


 アオバはてる。


「アサ……アサ……」


 チガヤがあごて、ちいさくかえした。


 視線しせんはどこかとおく、記憶きおくさぐるようにれている。


「お? なんだよ。おまえになってんの?」


 モモジがにやりと口元くちもとゆがめ、す。


「お子ちゃまがきゅう色気いろけづいたか?」


 チガヤは一度いちどだけ視線しせんける。


 えたで、まっすぐに。


 モモジのみが、わずかにきつる。


「あ」


 ちいさく、こえちる。


おもした」


 淡々(たんたん)としたこえもどる。


「ミナギさまをかけてるってうわさだ」


 さらり、とった。


 一瞬いっしゅん空気くうきまる。


 アオバのがぴくりとれた。


 っていたみずが、わずかに波打なみうつ。


 視線しせんが、ちる。


 ――ミナギ。


 そのが、やけにおもひびいた。


 チガヤは最年少さいねんしょうだ。


 小柄こがらで、まだおさなさののこ顔立かおだちをしている。そのせいか、侍女じじょたち――とくに年嵩としかさおんなたちにやたらと可愛かわいがられていた。


 食料しょくりょうけてもらい、世間話せけんばなしき、づけばなかにいる。


 ヒシンとはちが方向ほうこうにモテていた。


「なんでも、ミナギさま直々(じきじき)に、この投馬国とうまこくれてきたとか」


 ――そして、そのぶんだけ、みょう情報通じょうほうつうであった。


にわで、二人ふたりはなしてるの、何度なんどたって」


 しずかなこえ


結構けっこうしたしそうに」


 ――その言葉ことばちた瞬間しゅんかん


 アオバのなかで、なにかがえた。


 が、すっといていく。


 あのとき光景こうけいが、鮮明せんめいよみがえる。


 井戸端いどばたでアサの水汲みずくみを手伝てつだっていた、自分じぶん


 そこへ、気配けはいもなくあらわれたミナギ。


 しずかで、んでいて。


 それなのに、のないあつがあった。


 視線しせんひとつで、空気くうきわる。


 あれは――


 あきらかに、牽制けんせいだった。


「え?アサちゃんって、()()なの?」


 モモジがまるくする。


たしかに可愛かわいいけどさ、そういうかんじにはえないっていうか」


「ミナギさまって全然ぜんぜん女遊おんなあそびしないっていてたけど、結構けっこう、こう……素朴そぼくかんじがきなのな」


ちがう」


 アオバが即座そくざった。


 視線しせん地面じめんのまま、つよくもないのにみょうおもこえ


「そういうのじゃない」


 ――あれは、そういうものではない。


 むねおくに、あのとき感覚かんかくがよみがえる。


 空気くうき一段いちだんえたあの瞬間しゅんかん


 うつむいたまま、アオバはいきころした。


 チガヤがわずかにほそめる。


 なにかをはかるように、だまっている。


「まあ、なんつーか……」


 モモジがかたをすくめる。


「おまええるじゃない、ってことだな。残念ざんねんながら」


 ぽん、とかたく。


 アオバは、ぐっとこらえるようにいきんだ。


 みず一口ひとくちし、からになったうつわつめる。


 視線しせんおくが、わずかにれた。



 ――アサとはじめて出会であったときのことをおもす。


 宮仕みやづかえのへいになったばかりのころ


 まだちから体力たいりょくりず、訓練くんれんらいつくだけで精一杯せいいっぱいだった。


 何度なんども、こころれかけていた。


 くやしさのまま、よる練武場れんぶじょう一人ひとりやりっていた。


 いきがり、ひざをついた場所ばしょは――ちょうどいまおなじ、このにわすみだった。


 あら呼吸こきゅうととのえていた、そのとき


「どうぞ」


 されたみずうつわ


 かおげると、アサがっていた。


 なんでもないように、ただそこにいて。


 はなほころぶように、やわらかくわらっていた。


 ――それだけだった。


 われながら単純たんじゅんだとはおもうが。


 モモジのとおり、一目惚ひとめぼれだったのだろう。



 それからだった。


 づくと、っていた。


 侍女じじょとしてはたらくアサの姿すがたは、いつもせわしなくうごいている。


 井戸端いどばたみず姿すがた


 掃除そうじ最中さいちゅう先輩侍女せんぱいじじょたちにばれて、小走こばしりにかう姿すがた


 まることなく、淡々(たんたん)仕事しごとをこなしていく。


 はしまわって。


 いきらして。


 それでも――


 どこかあかるい日差ひざしのようなままだった。


 そのたびに、はなせなかった。


 かぜける。


 にわの木々《きぎ》が、さわさわとれた。


 とおくでヒシンのわらごえがかすかにひびく。


 モモジはそれをて、もう一度いちどだけふかくためいきをつく。


「……やっぱ彼女かのじょほしいわ」


「まずかおからえてくれば」


無理むりうな!」


 チガヤとモモジのやりりを横目よこめに、アオバはちいさくいきをついた。


 むねおくに、のこっているのは、くやしさとも、納得なっとくともつかないもの。


 はっきりとかたちにならないまま、しずんでいく。


 それをはらうように、かおげた。


「……休憩きゅうけいわるぞ」


 みじかう。


 そのこえは、もうれていなかった。


 ――ただ、完全かんぜんれたわけでもなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。