赤い石
村には石があった。
――赤き瑪瑙。
それは、血のように濃く、火のように鈍く光っていた。
光は強くはなかったが、目を離すことを許さぬ重さを持っていた。
その石は「火の神子」のみが持つことを許されていた。
今、その役目にあるのは、アサの母カヤであった。
カヤは美しかったが、寡黙な女だった。
日々の言葉はほとんどなく、意思を口にすることは滅多になかった。
その眼はいつも遠くを見ていた。
アサが側にいても、母としての自覚や感情をはっきり示すことはなく、あたかも彼女の世界にアサは届かぬもののように映った。
その距離のせいで、アサの孤独はひそやかに募っていった。
――だが祭の日になると、彼女は変わった。
磐座の前に立ち、足をゆっくりと踏み出すと、母の身体は、頭から腰、肩、指先に至るまで、全身が波打つ炎のように揺らめいた。
森はその揺らぎに震え、冷たい空気さえ熱を帯びる。
手が空気を切るたび、指先から火花のような律動が広がり、肩や腰の動きが炎をさらに燃え立たせる。
アサには、それが自分の血まで燃え上がるかのように感じられた。
森と光、影、風までも巻き込み、母はもはや人ではなく、炎そのものとして、圧倒的な存在感を放っていた。
――次の瞬間、アサはふと目を見張った。
母の胸の瑪瑙が、薄暗い闇の中で、まるで息をするかのように赤く滲み、淡く輝きを帯びていたのだ。
石そのものが母の舞に応えるかのように。
アサは思わず息を呑み、その光に手を伸ばしたくなる衝動を覚えた。
村人たちは皆、頭を垂れた。
アサは、その光景をただ見ていた。
誇りとも、恐れともつかぬ感情が、胸の奥で静かに広がっていた。




