表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

赤い石


 村には石があった。


 ――赤き瑪瑙(めのう)


 それは、血のように濃く、火のように鈍く光っていた。

 光は強くはなかったが、目を離すことを許さぬ重さを持っていた。

 その石は「火の神子」のみが持つことを許されていた。

 今、その役目にあるのは、アサの母カヤであった。

 カヤは美しかったが、寡黙な女だった。

 日々の言葉はほとんどなく、意思を口にすることは滅多になかった。

 その眼はいつも遠くを見ていた。

 アサが側にいても、母としての自覚や感情をはっきり示すことはなく、あたかも彼女の世界にアサは届かぬもののように映った。

 その距離のせいで、アサの孤独はひそやかに募っていった。


 ――だが祭の日になると、彼女は変わった。

 磐座の前に立ち、足をゆっくりと踏み出すと、母の身体は、頭から腰、肩、指先に至るまで、全身が波打つ炎のように揺らめいた。

 森はその揺らぎに震え、冷たい空気さえ熱を帯びる。

 手が空気を切るたび、指先から火花のような律動が広がり、肩や腰の動きが炎をさらに燃え立たせる。

 アサには、それが自分の血まで燃え上がるかのように感じられた。

 森と光、影、風までも巻き込み、母はもはや人ではなく、炎そのものとして、圧倒的な存在感を放っていた。


 ――次の瞬間、アサはふと目を見張った。

 母の胸の瑪瑙が、薄暗い闇の中で、まるで息をするかのように赤く滲み、淡く輝きを帯びていたのだ。

 石そのものが母の舞に応えるかのように。

 アサは思わず息を呑み、その光に手を伸ばしたくなる衝動を覚えた。

 村人たちは皆、頭を垂れた。

 アサは、その光景をただ見ていた。

 誇りとも、恐れともつかぬ感情が、胸の奥で静かに広がっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ