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アマガタリ  作者: ひよりの
第一章
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予兆




 ――やはり。


 ミナギの胸《むね》の奥《おく》で、静《しず》かに何《なに》かが定《さだ》まった。


 最初《さいしょ》にアサを見《み》たときから、どこか引《ひ》っかかっていた。


 ただ幼《おさな》いだけの娘《むすめ》ではない。


 言葉《ことば》にできぬまま、ただ引《ひ》き留《と》められるような感覚《かんかく》だった。



 視線《しせん》が、脳裏《のうり》に蘇《よみがえ》る。



 強《つよ》い――と思《おも》った。



 鋭《するど》いわけではない。


 刃《やいば》のように他《ほか》を切《き》り裂《さ》く類《たぐい》のものではない。



 だが、あの目《め》は――



 幼《おさな》さに似《に》つかわしくないほど、深《ふか》く、底《そこ》に火《ひ》を宿《やど》している。



 そして――


 紋様《もんよう》の話《はなし》をした瞬間《しゅんかん》、空気《くうき》がわずかに変《か》わった。


 誰《だれ》も気《き》づかぬほどの、微細《びさい》な変化《へんか》。


 だがミナギの感覚《かんかく》は、それを逃《のが》さなかった。



 見《み》えたかと問《と》えば、迷《まよ》いなく頷《うなず》いた。


 彼女《かのじょ》は、まだ何《なに》も持《も》たぬに等《ひと》しい。


 しかし。


 持《も》たぬままに、通《つう》じている。


 濁《にご》りのない水《みず》が、わずかな波紋《はもん》さえ映《うつ》し取《と》るように。


 胸《むね》の奥《おく》に、静《しず》かな確信《かくしん》が灯《とも》る。



 この娘《むすめ》の内《うち》には、何《なに》かが通《とお》る余地《よち》がある。


 それは才《さい》と呼《よ》ぶべきか。


 あるいは、もっと原初《げんしょ》の――


『器《うつわ》』と呼《よ》ぶべきものか。



 ミナギは、わずかに目《め》を細《ほそ》めた。


 胸《むね》の奥《おく》で、警戒《けいかい》と期待《きたい》が静《しず》かに絡《から》み合《あ》う。


 それは希望《きぼう》にも似《に》ていたが、同時《どうじ》に、極《きわ》めて危《あや》うい予(・)兆(・)でもあった。



 突然《とつぜん》、火《ひ》が大《おお》きく爆《は》ぜた。


 その音《おと》に、アサはわずかに肩《かた》を震《ふる》わせた。


 探《さぐ》るのではない。


 試《ため》すのでもない。


 ただ、見届《みとど》けたいと思《おも》った。


 その内《うち》にあるものが、どこまで澄《す》み、どこまで届《とど》くのかを。


 ミナギは静《しず》かに言《い》った。



「そ(・)れ(・)は、お前《まえ》のものだよ」



 何《なに》が、とは言《い》わなかった。


 夜《よる》は深《ふか》く、森《もり》は動《うご》かなかった。


 だがその時《とき》、見《み》えぬところで、何《なに》かの流《なが》れがすでに変《か》わりはじめていた。




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― 新着の感想 ―
アサの目や、紋様の話をした瞬間の微細な空気の変化を捉える描写がとても繊細で美しいですね。 息をのむような緊張感も伝わってきます。 警戒と期待、希望であり極めて危うい予兆という表現が、二人が歩む道の険…
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