予兆
──やはり。
ミナギの胸の奥で、静かに何かが定まった。
最初にアサを見たときから、どこか引っかかっていた。
ただ幼いだけの娘ではない。
言葉にできぬまま、ただ引き留められるような感覚だった。
視線が、脳裏に蘇る。
強い――と思った。
鋭いわけではない。
刃のように他を切り裂く類のものではない。
だが、あの目は――
幼さに似つかわしくないほど、深く、底に火を宿している。
そして――
紋様の話をした瞬間、空気がわずかに変わった。
誰も気づかぬほどの、微細な変化。
だがミナギの感覚は、それを逃さなかった。
「見えたか」と問えば、迷いなく頷いた。
彼女は、まだ何も持たぬに等しい。
しかし。
持たぬままに、通じている。
濁りのない水が、わずかな波紋さえ映し取るように。
胸の奥に、静かな確信が灯る。
この娘の内には、何かが通る余地がある。
それは才と呼ぶべきか。
あるいは、もっと原初の――
『器』と呼ぶべきものか。
ミナギは、わずかに目を細めた。
胸の奥で、警戒と期待が静かに絡み合う。
それは希望にも似ていたが、同時に、極めて危うい予兆でもあった。
突然、火が大きく爆ぜた。
その音に、アサはわずかに肩を震わせた。
探るのではい。
試すのでもない。
ただ、見届けたいと思った。
その内にあるものが、どこまで澄み、どこまで届くのかを。
ミナギは静かに言った。
「それは、お前のものだよ」
何が、とは言わなかった。
夜は深く、森は動かなかった。
だがその時、見えぬところで、何かの流れがすでに変わりはじめていた。




