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アマガタリ  作者: ひよりの
第一章
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3/108

流れ


 がひとつ、ちいさくぜた。


 そのおとまぎれて、ひくやわらかいこえひびく。


「それ、面白おもしろかざりだな」


 かおげると、いつのにかからはなれたミナギがアサのまえっていた。


 ミナギの視線しせんをたどると、()()とは、どうやらアサの耳飾みみかざりをしているようだった。


自分じぶんつくったのか?」


 アサは、こくりとうなずく。


「よければ、せてもらってもいいか?」


 そのひとこえに、アサのむねちいさくね、耳飾みみかざりにれたままかたまる。


「うん」


 なんとかそうしぼすと、ミナギはかるみをかべ、アサのとなり自然しぜんこしろした。


 してアサの耳飾みみかざりをのぞむ。


 ――距離きょりちかい。


 耳元みみもとのぞまれる感覚かんかくが、アサのむね高鳴たかならせる。


 ミナギはそれをかいさぬように、真剣しんけんかざりをつめている。


こまかいところまで丁寧ていねいつくってある。器用きようだな」


 かすかにわら吐息といき耳元みみもととどき、アサはおもわずいきむ。


「このりの紋様もんようには、どういう意味いみがある?」


 耳飾みみかざりのちいさな紋様もんよう、それは――――


むらのはずれにあるいわきざまれてる。意味いみはよくらないけど、むかしからよけになるっておそわってる」


 ミナギはだまって、耳飾みみかざりをつめたまま、すこかしぐ。


「――なるほど」


 こえしずかだが、かすかにふくみがあるようにかんじられた。

 


 いつのにか、うたげ喧騒けんそうとおざかっていた。


 まえは、ちいさく、ひくえている。


 けむりはほとんどたず、やみなかけていた。


 ミナギは背負せおっていたかごろすと、そのなかからいくつかのものをした。


 いし。  

 ほね。  

 かわいたえだ


 どれもかたち不揃ふぞろいで、なん変哲へんてつもないものであった。


 だがかれは、それらをひとつひとつ、たしかめるように指先ゆびさきでなぞった。


 アサは、その手元てもとをじっとていた。


「それで、なにをするの?」


 ミナギはこたえず、まず地面じめんをならした。


 てのひらつちし、えんえがくようにして、表面ひょうめん凹凸おうとつしていく。


 やがてそこには、なめらかなつちめんあらわれた。


 かれゆびで、そのうえせんいた。


 十字じゅうじ


 さらにななめのせんかさねる。


「これは、なに


()だ」


 ミナギはみじかった。


 いしみっつ、えんそとへ。


 ほね二本にほん中央ちゅうおう交差こうささせる。


 えだ一本いっぽん十字じゅうじよこたえる。


 その配置はいちには、ためらいがなかった。


 アサは、その順序じゅんじょていた。


 かれる場所ばしょが、あらかじめまっているかのようであった。



明日あす天気てんきうらなってやろう」


 ミナギはふいに、そうって口元くちもとゆるめた。


 ――挑戦的ちょうせんてきわらうように。


 アサがわずかに見開みひらく。


 ミナギはじた。


 かりがまぶたのうえれる。


 しばらくなにこらない。 


 やがて呼吸こきゅうわる。


 い。

 め。

 く。


 そのあいだに、言葉ことばにならぬこえじる。


 空気くうきが、わずかにおもくなった。 


 ミナギはひらき、ほねはじいた。


 かわいたおとててまわり、まる。


 いしす。


 ころがり、せんれてまる。


 えだうごかさない。


 かれは、それらをた。


 ながく――ふかく。


なにえるの」


 アサはうた。


()()だ」


ながれ?」


るものと、るもののみちだ」 


 ミナギはほねをそっとり、ひかりにかざした。


「これは、れるものだ」


 ほね先端せんたんゆびでなぞりながら、かれしずかにった。


れる……?」


 アサはくびをかしげる。


ほねれるとき、ながれがれる。つまり、きゅうわる。あめかぜあらしのように不安定ふあんていなものだ」


 アサはその言葉ことばむねきざむようにうなずいた。


 つぎにミナギはいしした。 


 つちうえころがり、せんれてまる。


「これはのこる。安定あんていしたものだ。時間じかん、ずっとつづおだやかさ――そんなものをあらわす」


 最後さいごえだた。


 うごかさず、そっとれるだけである。


「そしてえだは、ぶもの。ながれをさそい、うごきをむ。きりかたかぜき、くもながれのように、天気てんきうごかすものだ」


 アサはらめきともりしずけさのなかで、ほねいしえだかた意味いみおもえがいた。


「つまり、明日あす天気てんきは――がたにはきゅう変化へんかがあり、昼間ひるまには安定あんていしたおとずれる。そのあいだに、きりかぜがちょっとした変化へんかをもたらす……」


 ミナギは不敵ふてきわらう。


えたものを理解りかいし、ながれをむ。それが(まじな)いだ」


 アサはかがやかせ、おもわずいきらした。


 ミナギはそんなアサをつめ、やさしく微笑ほほえんだ。


「やってみるか?」


 そのこえしずかで、けれどさそうようにひびいた。


「……うん、やってみたい」


 アサはうなずいた。


 むねおくがざわめき、ふるえる。


 ミナギは場所ばしょゆずった。


 アサは、おなじように地面じめんれた。


 だがつちはうまくならなかった。


 ゆびあとのこり、せんゆがんだ。


 それでも、彼女かのじょせんいた。


 いしいた。

 ほねいた。

 えだいた。   


 順序じゅんじょは、おぼえていた。


じて」


 われるままに、アサはじた。


 暗闇くらやみなかで、あかれていた。


 彼女かのじょ呼吸こきゅうととのえようとした。


 だが、うまくいかなかった。 


 むねおくがざわつき、なにかがうごいていた。


言葉ことばは、そとさない」


 ミナギのこえがした。


うちくんだ」


 アサは、こえさずにおな言葉ことばかえした。


 うちく。


 ――そのとき、なにかがしずまった。


 ほねちがきでまり。 


 いしせんえ。


 えだはわずかにかたむいていた。


 ただ、る。


 それらは静止せいししている。


 だが彼女かのじょには、そこにながれがえた。


 せん沿って、なにかがとおっていく。


 つちうえかれたいしほねえだ中心ちゅうしんに、かすかなひかりせんかびがるようにえた。


 まるでえないいとかぜれるように、やわらかく、そしてたしかにながれている。


 ほね先端せんたんからはするどれるようなひかりね、いし外側そとがわではこなのように霧状きりじょうひかりただよう。


 えだうえでは、あわくうねるひかりうずちいさくまわり、周囲しゅうい空気くうきふるわせているようだ。


 それぞれのうごきが、ひとつの秩序ちつじょあるながれをえがき、よるもり静寂せいじゃくなかいきづいていた。


「……うごいてる」


 おもわず、そうった。


 ミナギは、アサをた。


えたか」


 アサはうなずいた。


 自分じぶんなにたのかはからなかった。


 これがかれ()()なのだろうか。


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