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アマガタリ  作者: ひよりの
第一章
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立つための場所



 投馬国とうまこくてから、アサはすこしずつ元気げんきもどしていった。


 顔色かおいろもどり、こえにもりがてきた。


 ある足取あしどりにも、もうあやうさはない。


 ――そう、える。


 だがどこか、かたい。


 身体からだではなく、べつのどこかが、まだりつめている。


 ミナギは、それを見逃みのがさなかった。



 おういてからというもの、いきをつくひまもない。


 各地かくち調整ちょうせい


 戦後処理せんごしょり


 内政ないせいなおし。


 次々(つぎつぎ)せる決断けつだん報告ほうこくに、日々(ひび)けずられている。


 それでも合間あいまって、アサのもとへあしはこんだ。


 他愛たあいない会話かいわわし、時間じかんれれば、そとす。


 それだけでも、ほんのわずかだが、彼女かのじょ表情ひょうじょうやわらぐのをっていたからだ。


 らない土地とちで、ずっとつづけているのはかっている。



 だからもうひとつ、った。


 まなぶことをこの彼女かのじょのために、タヅマにおしえをたのんだ。


 多忙たぼうきわめる相手あいてに、無理むりっている自覚じかくはある。


 あんじょう最初さいしょ露骨ろこつしぶかおをされた。


 いま状況じょうきょう余計よけい役目やくめやされることに、おもうところがないはずがない。


 ミナギも、それはかっていた。


 それでもあたまげた。



 数日すうじつてば、タヅマの態度たいどあきらかにわった。


 アサは熱心ねっしんだった。


 あたえられたことを、ただこなすのではなく、理解りかいしようとらいつく。


 おぼえもはやい。


 そんなアサに、おしえるがわ手応てごたえをかんはじめているのがかる。


 その様子ようすに、ミナギはひとまずむねろした。


 居場所いばしょは、つくれている。


 そうおもえた。



 ――だが。


 アサの言葉ことばはしに、かすかな遠慮えんりょじる。


 なにかをるたびに、一瞬いっしゅんだけまれる。


 笑顔えがおが、ほんのすこしだけ、ぎこちない。


 それは不満ふまんでも拒絶きょぜつでもない。


 むしろぎゃくで――


っているがわ」であることへの、戸惑とまどい。


 あたえられているばかりの立場たちばに、居場所いばしょ輪郭りんかく見失みうしないかけているような。


 この場所ばしょで、自分じぶんなにをしているのか。


 なにかえせていないのではないか。


 そんな思考しこうが、しずかにはじめている。


 ミナギは、それにづく。


 だが同時どうじに、それが簡単かんたんれていいたぐいのものではないことも理解りかいしていた。


 無理むり否定ひていすれば、ぎゃく輪郭りんかくつよめる。


 ならば――


 どううか。


 ミナギは、しずかにつぎかんがはじめていた。



 そんなおりだった。


 あさ散歩さんぽとき――まだひとすくないみやはずれ。


 朝靄あさもやうすただよい、くささきつゆひかっている。


 何気なにげないやりりの最中さいちゅう、ふと、言葉ことば途切とぎれた。


 かんがえごとをしているとき沈黙ちんもくだと、ミナギはっていた。



「……はたらかせてください」


 そう、きっぱりとった。


「ここで――みやで、なにやくちたいんです」


 一歩いっぽむ。


 そのこえに、まよいはなかった。


 ミナギは、わずかにほそめる。


 すぐにはこたえなかった。


 侍女じじょ仕事しごとかるいものではないことは、よくっている。


 雑務ざつむ


 力仕事ちからしごと


 けない礼儀作法れいぎさほう


 まだほそ身体からだ


 がりでもある。


 ――だが。


 まえにいるアサは、気配けはいせなかった。


 こばめば、れるのではなく、しずかにくすだけだろう。


 ――ならば。



 最初さいしょは、あんじょうだった。


 みずはこべば、こぼし。


 ぜんはこべばかたむけ。


 てばなにかにぶつかり。


 すわればすそむ。


 言葉遣ことばづかいはぎこちなく。


 所作しょさも、どこかあぶなっかしい。


 侍女頭じじょがしら容赦ようしゃなくしかられては、かたとす。


 ミナギはそれをて、やはり早々(そうそう)げるかもしれないと、どこかでおもっていた。


 しかし。


 アサはめげなかった。


 しかられても、つぎにはおな場所ばしょっている。


 できなかったことを、できるまでかえす。


 そのねばりに、ミナギはわずかに認識にんしきあらためる。


 あまていたのだと。



 つにつれ、変化へんかははっきりとあらわれた。


 うごきに無駄むだり。


 手順てじゅん身体からだおぼはじめる。


 あわててすこともり、失敗しっぱいは、ひとつずつ姿すがたしていった。


 しかられる回数かいすうも、すこしずつっていく。


 おぼえたばかりの所作しょさを、どこかほこらしげにせにることもあれば。


 やはり侍女頭じじょがしらしかられて、かりやすくむこともある。


「ミツっていうがね、すごくおしゃべりで――」


 そんな他愛たあいのないはなしを、たのしそうにかたることもえた。


 表情ひょうじょうが、もどってきている。


 いや――


 以前いぜんよりも、ずっとゆたかに。


 労働ろうどうけっしてらくではないはずなのに、その裏側うらがわたしかに生気せいき宿やどっていく。



 その様子ようすを、ミナギはすこはなれた場所ばしょからていた。


 ふとした瞬間しゅんかんほそめる。


 まぶしいものをるように。



 そしてづく。


 まもるとは、かこうことではないのだと。


 自分じぶんつための場所ばしょを、うばわないこと。


 それもまた、まもるということなのだと。



 やがて、日々(ひび)ながれていく。


 ミナギはおうとして。


 アサは侍女じじょとして。


 それぞれの立場たちばなかで、あわただしくときかさねていく。


 まじわる時間じかんった。


 それでも――


 おな場所ばしょにいるというたしかさだけが、しずかにそこにあった。



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