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アマガタリ  作者: ひよりの
第二章
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巡る季節



 季節きせつめぐり、アサはいつのにか十五歳じゅうごさいはるむかえていた。


 はすらりとび、かつてのおさな輪郭りんかくうすれ、小柄こがらではあるが、おんならしいしなやかなからだつきがうかがえるようになっている。


 そのわたひとみ柔和にゅうわ表情ひょうじょうは、みやろう庭先にわさきあるくたびに、無意識むいしき周囲しゅうい視線しせんせた。


 わか宮仕みやづかえのへいたちのあいだでは、ひそやかに「可愛かわいい」とささやかれることもえ、みちですれちがえばこえをかけられることもしばしばである。


 アサは戸惑とまどいながらも、咄嗟とっさ微笑ほほえみをかえす。


 背筋せすじ自然しぜんばし、いつのにか自分じぶん姿すがた所作しょさくばるようになっていた。




 あるのこと――


 みや裏手うらてあさひかりやわらかくらされた井戸いどそば


 水面みなもしずかにひかり反射はんしゃし、規則正きそくただしくみずおと静謐せいひつ空気くうきんでいた。


「ありがとう、たすかった」


 アサのこえにはすこいきじり、おだやかなみがえられている。


「いえ、これくらい」


 こたえたのは、まだ少年しょうねん面影おもかげのこわかへいだった。


 アサをひとみには、初々(ういうい)しいねつ宿やどっている。


おもいでしょう。おれはこびます」


 その言葉ことばには、ただたすけたいという気持きもちだけでなく、すこしでもアサの印象いんしょうのこりたい――  


 そんなおもいが、ぎこちなくもぐににじんでいた。


大丈夫だいじょうぶだよ、れてるし」


 アサはその熱心ねっしんさにまだづいていない。


 ただの親切しんせつとしてり、やわらかく微笑ほほえみながらおけかかなおす。


「でも――」


なにをしている」


 瞬間しゅんかん


 空気くうきるようなひくこえひびいた。


 二人ふたり同時どうじかえる。


 眼前がんぜんには、ミナギがっていた。


 その視線しせんは、まっすぐにわかへいとらえている。


任務にんむは」


「は、はい!見回みまわりでございます!」


 こえはぎこちなく、わずかにふるえている。


えたのか」


「い、いえ、これから――」


「ならば、もどれ」


 あたえぬその声音こわねに、へい一瞬いっしゅん強張こわばらせ、つぎ瞬間しゅんかんにはふかあたまれてった。



 規則正きそくただしい足音あしおととおざかるなか、アサはちいさくくちびるみ、わずかにほおふくらませる。


「そんなにきびしくしなくても……」


 おもわずつぶやく。


 彼女かのじょこえたいしミナギは無言むごんである。


 そのわり、ゆっくりと、しかし確実かくじつおけばした。


せ」


「え?」


はこぶ」


 みじかげられた言葉ことばに、アサはおもわずいきむ。


「え、いやいや……」


 あわてておけせる。


「ダメです、それは」


なにがだ」


なにがって……」


 まゆせ、すこ困惑こんわくした表情ひょうじょうかべるアサ。


王様おうさまに、そんなことさせられませんよ」


 ミナギはわずかにまゆうごかす。


問題もんだいない」


「いや、あるよ」


 アサは即座そくざかえす。


「めちゃくちゃあるよ」


 すこし、こえはヒソヒソと、しかしたしかな決意けついびる。


られたらどうするの。おこられるの、わたしなんだからね」


 みょう現実的げんじつてきで、子供こどもっぽい理屈りくつ一面いちめん垣間見かいまみえる。


 ミナギは言葉ことばまったかのように、一瞬いっしゅん沈黙ちんもくする。


「だから結構けっこうです。自分じぶんてますから」


 そうげ、おけかかなおす。


 しかしつぎ瞬間しゅんかん、そのおもみがまるできりれるかのようにかるくなる。


「――」


 ミナギが、なかば強引ごういんげていたのである。


「ちょ、ちょっと!」


 おもわずおおきなこえげてしまい、あわててくちにやる。


 おけにしたまま、すたすたとあるすミナギ。


「え、ちょっ……って!」


 アサは仕方しかたなくあといかける。 



 しばし、足音あしおとだけがつづいた。


 かわいたつちおとと、みずれるかすかなおと


 ミナギのむねおくには、かすかにげるざわつきがあった。


 あのわかへいがアサにける、ねつびた視線しせん


 ほんのみじか言葉ことばのやりり。


 不意ふいせるあせりと、苛立いらだち。


 無意識むいしきのうちに、おけうでちからはいり、うしろで、ぶつぶつと文句もんくいながらついてるアサにかまわず、すたすたと足早あしばやすすむ。


「……あいつとは」


 不意ふいに、ミナギがくちひらいた。


 かえらない。


 あゆみもゆるめない。


したしいのか」


「え?」 


 アサはまばたきをする。


 いの意味いみを、おくれてむ。


「いや、べつに……」


 すこくびかしげながらこたえる。


今日きょうちょっと手伝てつだってもらっただけで……名前なまえらないし」


 あっさりとした声音こわね


「そうか」


 それだけ。


 それ以上いじょうなにわない。


 だが――


 おけから、ほんのわずかにちからけていた。  


きゅうにどうしたの?」


 いかけにも、ミナギはこたえない。


 ただまえいたまま、ふたた歩調ほちょう一定いっていもどす。


「……へんなミナギ」


 かたちからき、アサはぼそりとつぶやく。


 そのこえには、すこしだけ苛立いらだちと困惑こんわくざっている。



 ミナギのむねおくのこっていたざわつきは、完全かんぜんにはえていない。


 それでも――


 ほんのすこしだけ、かたちえていた。



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