休息
ミナギが王となってからというもの、若い侍女たちの間で、「誰が側仕えになるか」を巡り、大いに揉めた。
皆が声を上げ、我こそがと名乗り出る。
あまりに揉めるので、結局は侍女頭の裁定によって、ミナギの側仕えは彼女の管理下に置かれることになった。
――という話を、アサは同僚の若くお喋りな侍女、ミツから聞かされていた。
午前の雑務が終わり、ようやく訪れた昼の休息時間。
アサたち下っ端侍女は、台所の外にある井戸端で簡単な食事を摂りながら、雑談に花を咲かせていた。
井戸端に並べられたのは、簡素ながらも整えられた食膳だった。
残り物の煮豆や野菜の煮物、炊き立てに近い雑穀飯が少量、焼いた魚の切れ端――などがいくつかの土皿に分けられて置かれている。
アサとミツは、それらを頬張りながら話を続けた。
「隼比古様のときは、また違う意味で揉めたのよ。ひどい言葉投げかけられたり、身体触られたり、あげく手を出されそうになったりで、若い子たちは皆、嫌がっちゃってさぁ……」
隼比古――
ミナギの兄で、ハヤトの父親。
先の戦で命を落としたことだけは、アサも知っている。
宮仕えの者に対する態度も横柄で乱暴で、評判は決して芳しくなかったらしい。
ミナギの口からその名を聞いたことは一度もなく、アサはふと、あんまり仲良くなかったのかな、と考える。
けれど、父も兄も立て続けに失くしたミナギのことを想うと、胸の奥に静かな痛みが広がる。
失った家族の想いを背負いながら、なおも王として宮を仕切る彼の強さと、その背後に潜む寂しさが、心に迫った。
「――それに比べて、ミナギ様ってば、下々の者にも格別にお優しいし、立ち居振る舞いは凛々しく、特にあの目元ときたら……」
ミツの声は、抑えきれぬ興奮に弾んでいた。
その後も止まらず、ミナギの鋭く澄んだ眼差し、涼やかで吸い込まれそうな瞳の美しさ、浅黒く逞しい肌の色艶、肩幅や手足の長さまで含めた均整の取れた体格――
まるで宝物を自慢するように、隅々まで語り尽くそうとしていた。
ミツの無邪気な興奮とは裏腹に、アサの胸には微かな動揺と複雑な感情が交錯する。
ミナギが人目を引く男だということは、薄々わかっていた。
村にいた頃も、若い女たちに意味ありげな視線を向けられていたのを思い出す。
当時の自分はまだ幼く、その意味を深くは理解していなかった。
だが、ここまでとは――
気のいい兄貴分としか見てこなかった自分の幼さと世間知らずが、今さら浮き彫りになる。
溜息とともに、煮豆を喉へ押し込んだ。
そんな折、宮の奥から低く、重々しい鉦の音が響いた。
その音は屋根を伝い、井戸端に座る侍女たちの耳まで届く。
昼の休息が終わりであることを告げる鉦だった。
言葉はなくとも、宮仕えたちの身体は自然と反応する。
アサたちも、まだ器に残った雑穀飯を急いで口に運び、荒れた手をさっと拭った。
昼の短い休息でわずかに気が緩んだものの、アサは息を整え立ち上がり、再び午後からの務めに向かうのだった。




