やがて早朝――
宮の眠りはゆっくりと解かれ、薄暗い空間に朝の気配が差し込む。
炉の火はまだ赤く残り、青白い煙がゆらりと立ち上り、柱や土壁にかすかな影を落とす。
台所の床は踏み固めた土に藁がまばらに敷かれ、足を置くたびに微かに沈む。
井戸の近くでは、侍女たちが土器の碗や桶を並べ、水を汲む音が静かに響く。
運ばれた水は大きな甕に注がれ、朝餉の準備へと、次々に回されていく。
アサは手早く、藁を敷いた台に米を広げ、指先で異物を確かめながら選り分ける。
研ぎ桶へと移された米は、冷たい水に沈み、白く濁った水がゆっくりと流れ出ていく。
水を何度か替えながら、米を清める。
やがて小さな土器の鍋に移し、火にかける。
湯気が立ちのぼり、朝の空気を温めた。
隣では、刻まれた山菜が板の上に並べられ、塩や醤で手早く和えられていく。
乾いた魚は火のそばで軽く炙られ、脂が落ちるたび、微かな煙と香ばしさを立ち上らせた。
その香りは土間の空気に溶け、朝の冷たさをゆっくりとほどいていく。
木製の匙や竹の箸が手に取られ、土器の碗に汁や米をすくう音が、小気味よく重なる。
アサは手元の布を整え、清めるように水へ浸して汚れを落とす。
洗いは単純な作業だ。
だが、水の冷たさと朝のひんやりした空気は、まだ眠気の残る体にこたえる。
踏みしめるたび、藁の床に足音が軽く反響する。
擦れる布の音。
米を研ぐ音。
火を扱う音。
それらが重なり合って、宮の静寂をやさしく破っていく。
アサはまだぎこちない動きのまま、手順をひとつひとつ確かめるようにして、今日最初の勤めを淡々と進める。
やがて炉の火は安定し、土器の中の粥がふくらみ始める頃――
宮全体が、本格的な朝へと切り替わっていく。
まだ完全には目覚めきらぬ建物の中で。
水の音と火の匂いだけが、誰よりも先に動き出す。
そうして静かに、人々の一日を押し出していた。