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労働――未明
――宮仕えの朝は早い。
未明の闇が、まだ厚く投馬の宮を包む中、アサは寝床からそっと体を起こした。
疲れはまだ全身に残っており、まぶたは重い。
だが、寝ぼけている暇はない。
侍女頭の鋭い声が、耳の奥にまだ響いているような気がした。
何とか体を起こし、手探りで身支度を整える。
足取りもおぼつかぬまま、急いで水場へ向かう。
井戸の丸く積まれた石は冷たく、夜露で湿って滑りやすい。
苔の匂いと土の湿気が鼻腔に届く。
腰をかがめ、井戸の縁に手をかける。
丸くくり抜かれた石の口からは、地下水が静かにたたえられ、澄んだ青緑色が闇に溶ける。
手を水面に差し入れると、冷たさが指先に刺さるように伝わり、思わず息をのむ。
桶を水面に沈める。
手を離すと、重みを帯びた水が桶に満ちる。
だが、指先の震えが微かに揺れを生み、桶をひっくり返してしまう。
背後から、侍女頭の鋭い声が飛ぶ。
「アサ!何度言わせるのです!」
井戸の水は、単なる生活用ではなく、清めの象徴であり、同じく火は神聖なもの。
この二つに関わる失敗は許されない。
投馬の宮の鉄則であった。
気を取り直し、もう一度ゆっくりと桶を水面に沈め、静かに、慎重に引き上げる。
寝ぼけと疲れを抱えながら、アサの侍女としての一日が、こうして慌ただしく始まるのであった。




