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アマガタリ  作者: ひよりの
第一章
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踏み出す



 にわは、あさひかりをやわらかくけとめ、しずかにいきづいていた。


 ひくられたくさつゆふくみ、みしめるたびにかすかなおとかえす。


 湿しめびた空気くうきが、足元あしもとからゆっくりとがってくるようだった。


 あさひかりななめからみ、ならんである二人ふたり輪郭りんかくあわ縁取ふちどっていた。


 不意ふいに、ミナギがくちひらく。


まなびはどうだ」


 何気なにげないいのかたちをしていながら、そのこえにはわずかながあった。


 ただの確認かくにんではない――アサの反応はんのう見定みさだめるような、しずかなさぐりがにじむ。


「うん、たのしいよ」


 アサは、ためらいなくうなずく。


 ほおれるあさ空気くうきが、すこつめたい。


「タヅマさまおしかた、わかりやすいし」


「ほう」


 ミナギの口元くちもとが、ほんのわずかにゆるむ。


 視線しせんまえいたままだが、その気配けはいたしかにやわらいだ。


随分ずいぶんったようだな」


「うん」


 素直すなお肯定こうてい


 くさおとだけが、みょうにはっきりとみみのこる。


「では、もうおれまくはないか」


 かるかたをすくめる仕草しぐさ


 冗談じょうだんとも本気ほんきともつかないかた


 アサは一瞬いっしゅんきょとんとし、すぐにちいさくした。


 そのわらいは、りつめた空気くうきをほどくようだった。


 ミナギもつられてわらう。


 にわしずけさのなかに、みじかはずむようなおとえていった。


(……よし、いい雰囲気ふんいき


 むねおくで、ちいさくいきととのえる。


 しばしの沈黙ちんもく


 あさ空気くうきむと、ひんやりとした感触かんしょくはいおくまでとどく。


「……あのね」


 あゆみはそのままに、言葉ことばだけが一歩いっぽまえる。


「ここにてから、ずっとお世話せわになりっぱなしでしょ」


 足元あしもとつゆが、ひかりけてちいさくまたたく。


食事しょくじ美味おいしいし、場所ばしょも、びっくりするくらいととのってて……」


 言葉ことばかさねるごとに、むねおくにあった違和感いわかんが、かたちちはじめる。


「そのうえ、きまでおしえてもらってる」


 居心地いごこちさのうらにある、かなさ。


「すごくすごく、ありがたいんだけど――」


 視線しせんがわずかにちる。


 だが、こえまらない。


ちつかないの」


 かぜが、くさ表面ひょうめんでていく。


 つゆふるえ、わずかなひかりらした。


 ミナギは、ちいさくいきいた。


 その吐息といきは、しろくはならないが、あさ冷気れいきなかたしかな存在感そんざいかんつ。


贅沢ぜいたくなやみだな」


 かるわら声音こわね


 はなすわけでもない、どこか余白よはくのあるひびき。


普通ふつうよろこぶところだろう」


「わかってるよ」


 アサの歩幅ほはばが、わずかにみだれる。


「でも、ちつかないものはちつかないの」


 そのままあしめる。


 くさおと途切とぎれ、にわしずけさが一気いっきもどってくる。


「……はたらかせてください」


 きっぱりとした声音こわいろ


 あさ空気くうきをまっすぐにくように、言葉ことばちた。


 ミナギもあしめる。


 ゆっくりとかえ動作どうさに、わずかながある。


 そのは、わずかにほそめられていた。


 ためすような、はかるような視線しせん


「ここで――みやで、なにやくちたいの」


 一歩いっぽむ。


 くさおとが、今度こんどははっきりとひびいた。


 ミナギはそのうごきをけて、わずかにまゆげる。


客人きゃくじん立場たちばを、自分じぶんからてるか」

 

 声音こわいろ淡々(たんたん)としている。


 だがそのおくに、興味きょうみいろがわずかにじる。


てるっていうか――」


らくができる身分みぶんだぞ?」


 言葉ことばさえぎるようにつづける。


 あえてかるく、誇張こちょうする調子ちょうし


あさこされ、しょくはこばれ、まなびはあたえられ――いたれりくせりだ」


 視線しせんが、ほんの一瞬いっしゅんだけよこながれる。


おれなら、しばらくは堕落だらくする」


 口元くちもとゆがむ。


 自嘲じちょうとも冗談じょうだんともつかないみ。


「しないでしょ」


 即答そくとう


「ミナギに似合にあわないもん」


 間髪かんはつれないかえしに、ミナギはちいさくわらった。


 そのわらいは、さきほどよりも自然しぜんだった。


 だが――すぐに、視線しせんほそくなる。


 ゆっくりと、アサのからだをなぞるようにる。


 きずあとうごきのわずかなぎこちなさ。


「まだ万全ばんぜんとはえんだろう」


 ひくく、現実げんじつこえ


「でも、なにもしないのはもっといや


 すぐにかえる。


 そのこえには、さきほどよりもはっきりとねつがあった。


「ここにいるなら、ここでやくちたい」


 むねおくからされるような言葉ことば


(――あなたのやくてるひとでいたいの)


 その本音ほんねは、喉元のどもととどめる。


 わりに、まっすぐ見上みあげる。


 あさひかりけたひとみは、れていない。


 ミナギは、その視線しせんめる。


 げることなく、正面しょうめんから。


 やがて、ちいさくいきいた。


「……物好ものずきだな」


 だがその声音こわねは、さきほどよりもわずかにやわらかい。


「そこまでうならめはせん」


 かたをすくめる。


「ただし――」


 ミナギは、わずかに言葉ことばめた。


たおれたら、即刻そっこく客人きゃくじんもどすぞ」


 冗談じょうだんめかしてはいたが、そのおくにわずかな本音ほんねにじむようなこえだった。


たおれないよ」


 アサは即答そくとうする。


 まよいはない。


 ミナギの口端くちはしが、ほんのわずかにがる。


「――侍女頭じじょがしらはなしとおしてやる」


 そうって、ふたたあるす。


 足元あしもとで、またくさる。


 今度こんどさきほどよりも、すこかるおとだった。


 アサはそのつめる。


 あさひかりなかで、その輪郭りんかくははっきりとしている。


 ふっと、いきく。


 むねおくにあったおもさは、まだ完全かんぜんにはえていない。


 けれど――


 足元あしもと地面じめんが、わずかにまえへとひらけたような感覚かんかく


 にわ空気くうきわらずしずかだが、


 そのしずけさのなかで、たしかに一歩いっぽすすんでいた。



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