表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アマガタリ  作者: ひよりの
第一章
PR
34/46

祝宴



 かたむき、西にしそらあかねからふかこんうつろいはじめるころ。


 王宮おうきゅうではしずかに祝宴しゅくえん支度したくととのえられていた。


 高殿たかどの広間ひろまには篝火かがりび等間隔とうかんかくかれ、ゆらゆらとれるが、みがかれたはしら床板ゆかいた黄金色こがねいろめている。夜気やきはまだすこえていたが、ねつ人々(ひとびと)息遣いきづかいがじりい、おだやかなぬくもりがちていた。


 それは、いくさえた安堵あんどかちうためだけのうたげではない。


 あらたなおうったことを内外ないがいしめすと同時どうじに、びたものたちをねぎらい、きずついたくにふたたびひとつにむすなおすためのだった。


 くににはまだ、いくさかげ色濃いろこのこっていた。


 けた村々(むらむら)

 

 流浪るろうするたみ

 

 次々(つぎつぎ)ともたらされる悲報ひほううったえ。


 安堵あんどべる静寂せいじゃくは、いまだとおい。


 それでも今宵こよいだけは、人々(ひとびと)まえかせるともしび必要ひつようだった。


 広間ひろまにはいた川魚かわざかなこうばしいにおいがただよい、土器どきなべではあわまめやわらかくえている。あぶられた獣肉けものにくからあぶらち、がぱちりとちいさくぜた。


 侍女じじょたちはせわしなくい、さけそそぎ、料理りょうりはこび、へいたちはようやくめていたかたちからはじめている。



 その中央ちゅうおうに、ミナギはしていた。


 まだわかおう


 だが、その姿すがたには不思議ふしぎかせるちからがある。


 豪奢ごうしゃ威圧いあつするでもなく、ことさらにおうとしてうでもない。自然体しぜんたいのまま、人々(ひとびと)なかしずかにんでいた。


きずいたみは、もういたか」


「は。おうのおおかげで、命拾いのちびろいしました」


きてここへもどったのは、お前自身おまえじしんちからだ。ほこれ」


 へいけられる言葉ことばやわらかく、かざがない。ねぎらこえうそがないからこそ、がわかお自然しぜんゆるむ。



 やがてミナギはさかずきり、しずかにがった。


 広間ひろまのざわめきが、なみくようにおさまってゆく。


 篝火かがりびひかり輪郭りんかくあわ縁取ふちどり、そのひとみれるしずかなねつ宿やどしていた。


「このさけは――びたみなのために」


 ひくく、よくとおこえだった。


おおくをうしなった。いまもなお、いたみのなかにいるものおおい。くにはまだえてはいない――それでも、われらはあゆみをめるわけにはいかない」


 みじかさかずきかかげる。


「このくにに、ふたたおだやかな日々(ひび)もどすために――どうかともちからしてほしい」


 おう言葉ことばに、広間ひろま空気くうきしずかにふるえた。


 だれかがさかずきかかげ、それにつづくように次々《つぎつぎ》と人々(ひとびと)さけかかげる。


 やがてわらごえもどり、めていた空気くうきすこしずつほどけていった。


 兵士へいし同士どうしかたたたい、侍女じじょたちがちいさくわらいながらさけはこぶ。年嵩としかさ臣下しんかまでもが、どこか安堵あんどしたようなかおいきいていた。



 ――その光景こうけいを、アサははなれた寝所しんじょ窓辺まどべからしずかにつめていた。


 夜風よかぜほそかみらす。


 とおはなれていても、うたげ空気くうき不思議ふしぎつたわってくる。


 人々(ひとびと)わらごえ


 ぜるおと

 

 さかずきかわいたひびき。


 そして、その中心ちゅうしんにいるミナギの存在そんざい


「……ミナギおう……か」


 ちいさくつぶやいたこえは、よるしずかにけていった。


 かれがいるだけで、ひとかおわる。


 不安ふあんしずんでいたものたちがわらい、つかっていたへいたちがかたちからいている。


 おそれでしたがわせるのでもなく、威光いこうさえつけるのでもない。一人ひとりひとりをようとする眼差まなざしが、ひときつけているのだと、アサにはかった。


 ふと、そのとき


 ミナギがなにかにづいたようにかおげた。


 とお窓辺まどべ


 くらがりのなかつアサへ、まっすぐ視線しせんとどく。


 そしてミナギは、やわらかく微笑ほほえんだ。


 かるげる。


 それはおうとしての仕草しぐさではなく、ただ「そこにいることをっている」とつたえるような、おだやかな合図あいずだった。


 アサのむねが、ちいさくねた。


 ねつひろがる。


 心臓しんぞうしずかに脈打みゃくうち、いきすこしだけあさくなる。


(……あの王様おうさまだから、みんなこころからしたうんだろうな……)


 夜風よかぜほおでる。


 篝火かがりびつづけ、夜空よぞらにはこまかな星々《ほしぼし》がにじんでいた。


 いくさわった。


 けれど、本当ほんとう意味いみくになおみちは、きっとここからはじまるのだろう。


 とおこえるわらごえみみにしながら、アサはそっと胸元むなもとさえた。


「……わたしも、いつか」


 ちいさなねがいが、むねおくともる。


「いつか、ミナギのやくてたら……」


 まだゆめのようにとおおもいだった。


 それでも今宵こよい篝火かがりびらされたおう瞬間しゅんかん、そのねがいはたしかなねつってむねきざまれていた。


 よるやみふかい。


 だが、そのやみなかれるは、たしかに人々《ひとびと》をらしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ