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アマガタリ  作者: ひよりの
第一章
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32/135

守る者




 宮《みや》の空気《くうき》は、まだ戦《いくさ》の余熱《よねつ》を帯《お》びていた。


 その中《なか》で、そのすべてを引《ひ》き受《う》けるかのように、ミナギは立《た》ち止《ど》まることなく動《うご》き続《つづ》けた。



 外《そと》に出《で》た瞬間《しゅんかん》、空気《くうき》が変《か》わる。


 控《ひか》えていた兵《へい》たちが、一斉《いっせい》に頭《こうべ》を垂《た》れた。



「ミナギ様《さま》」



 その一人《ひとり》が進《すす》み出《で》る。


 顔《かお》には未《いま》だ疲労《ひろう》の色《いろ》が濃《こ》い。



「――報告《ほうこく》を」



 ミナギは立《た》ち止《ど》まらない。


 歩《ある》きながら、言《い》う。



「……焼失《しょうしつ》した集落《しゅうらく》は、五《いつ》つ」



「生存者《せいぞんしゃ》は、合《あ》わせて三十七《さんじゅうなな》」



「負傷者《ふしょうしゃ》、多数《たすう》」

 


 淡々(たんたん)とした声《こえ》。


 だが、その一語一語《いちごいちご》が重《おも》い。



「遺体《いたい》は――」



 わずかに、言葉《ことば》が詰《つ》まる。



「……ほとんどが、焼損《しょうそん》しております」



 足《あし》が、止《と》まった。


 沈黙《ちんもく》。


 風《かぜ》が、低《ひく》く通《とお》り抜《ぬ》ける。



 ミナギは、目《め》を伏《ふ》せた。


 ほんの一瞬《いっしゅん》だけ。


 そして、すぐに顔《かお》を上《あ》げる。



「名《な》を、拾《ひろ》え」



 兵《へい》が顔《かお》を上《あ》げる。



「判別《はんべつ》できるものは、すべてだ」



 低《ひく》く、揺《ゆ》るがぬ声《こえ》。



「名《な》もなく焼《や》かれることは許《ゆる》さん」



 空気《くうき》が、引《ひ》き締《し》まる。



「――すべて、弔《とむら》え」



 兵《へい》は深《ふか》く頭《あたま》を下《さ》げた。



「はっ」



 ミナギは歩《あゆ》みを再開《さいかい》する。

 


「捕《と》らえた者《もの》は」



「は……数名《すうめい》」



「殺《ころ》しておりません」



 わずかな緊張《きんちょう》。


 ミナギは、即座《そくざ》に答《こた》えた。



「口《くち》を割《わ》らせろ」



 その声《こえ》に、迷《まよ》いはなかった。



「だが――」



 一瞬《いっしゅん》だけ、言葉《ことば》を区切《くぎ》る。



「無意味《むいみ》に壊《こわ》すな」



 兵《へい》の背《せ》が、ぴんと伸《の》びる。



「はっ」



 さらに歩《ある》く。



 回廊《かいろう》の先《さき》に火《ひ》が焚《た》かれているのが見《み》えた。


 その周《まわ》りに、いくつかの影《かげ》。



 ――人《ひと》だ。



 ぼろ布《ぬの》のように汚《よご》れた衣《ころも》。


 煤《すす》にまみれた顔《かお》。


 足《あし》を引《ひ》きずる者《もの》、誰《だれ》かに支《ささ》えられている者《もの》。


 子《こ》を抱《だ》いた女《おんな》が、立《た》ち尽《つ》くしている。


 何《なに》かを探《さが》すように、ただ同《おな》じ場所《ばしょ》を見《み》つめていた。



 声《こえ》は届《とど》かない。


 だが、その姿《すがた》だけで十分《じゅうぶん》だった。



 ――すべてを失《うしな》った者《もの》たち。



 ミナギは、歩《あゆ》みを緩《ゆる》めない。


 ただ一度《いちど》だけ、その光景《こうけい》に視線《しせん》を向《む》ける。



 逸《そ》らさない。


 受《う》け止《と》めるように。


 そして、そのまま前《まえ》を向《む》いた。



「……食糧《しょくりょう》を回《まわ》せ」



「生存者《せいぞんしゃ》を優先《ゆうせん》しろ」



 次々(つぎつぎ)と下《くだ》される指示《しじ》。


 淀《よど》みはない。



「冬《ふゆ》を越《こ》せぬ者《もの》は出《だ》すな」



 最後《さいご》の一言《ひとこと》だけが、わずかに低《ひく》く落《お》ちた。


 兵《へい》は、深《ふか》く頭《こうべ》を垂《た》れたまま応《こた》える。



「御意《ぎょい》」



 ミナギは、足《あし》を止《と》めない。


 その背《せ》は、もはや一人《ひとり》の男《おとこ》のものではなかった。


 守《まも》ると決《き》めたものを、現実《げんじつ》として背負《せお》う者《もの》のそれだった。






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