守る者
宮の空気は、まだ戦の余熱を帯びていた。
その中で、そのすべてを引き受けるかのように、ミナギは立ち止まることなく動き続けた。
外に出た瞬間、空気が変わる。
控えていた兵たちが、一斉に頭を垂れた。
「ミナギ様」
その一人が進み出る。
顔には未だ疲労の色が濃い。
「――報告を」
ミナギは立ち止まらない。
歩きながら、言う。
「……焼失した集落は、五つ」
「生存者は、合わせて三十七」
「負傷者、多数」
淡々とした声。
だが、その一語一語が重い。
「遺体は――」
わずかに、言葉が詰まる。
「……ほとんどが、焼損しております」
足が、止まった。
沈黙。
風が、低く通り抜ける。
ミナギは、目を伏せた。
ほんの一瞬だけ。
そして、すぐに顔を上げる。
「名を、拾え」
兵が顔を上げる。
「判別できるものは、すべてだ」
低く、揺るがぬ声。
「名もなく焼かれることは許さん」
空気が、引き締まる。
「――すべて、弔え」
兵は深く頭を下げた。
「はっ」
ミナギは歩みを再開する。
「捕らえた者は」
「は……数名」
「殺しておりません」
わずかな緊張。
ミナギは、即座に答えた。
「口を割らせろ」
その声に、迷いはなかった。
「だが――」
一瞬だけ、言葉を区切る。
「無意味に壊すな」
兵の背が、ぴんと伸びる。
「はっ」
さらに歩く。
回廊の先に火が焚かれているのが見えた。
その周りに、いくつかの影。
――人だ。
ぼろ布のように汚れた衣。
煤にまみれた顔。
足を引きずる者、誰かに支えられている者。
子を抱いた女が、立ち尽くしている。
何かを探すように、ただ同じ場所を見つめていた。
声は届かない。
だが、その姿だけで十分だった。
――すべてを失った者たち。
ミナギは、歩みを緩めない。
ただ一度だけ、その光景に視線を向ける。
逸らさない。
受け止めるように。
そして、そのまま前を向いた。
「……食糧を回せ」
「生存者を優先しろ」
次々と下される指示。
淀みはない。
「冬を越せぬ者は出すな」
最後の一言だけが、わずかに低く落ちた。
兵は、深く頭を垂れたまま応える。
「御意」
ミナギは、足を止めない。
その背は、もはや一人の男のものではなかった。
守ると決めたものを、現実として背負う者のそれだった。




